18 後始末
郁也が崎山に考えがあるのかと視線をやれば、「どうしようか?」と言いたげに困り顔をしている。
どうやらそこまで考えていなかったようだ。
清水方を見ても知らぬ顔で、どうにかしようと動く風には見えない。
そして郁也本人も、先ほどの天邪鬼のグロさがショックで、頭が上手く働かないままだ。
――マジでコレ、どうするんだ?
混沌とした場に、郁也が戸惑っていると。
≪あふぅ、仕方ないなぁ~≫
脳内でポン助が大あくびをしながらそう言った。
(なんとかできるのか?)
≪ウムゥ、このままだとボクにもヘンな被害が出そうだしぃ≫
郁也の問いかけにポン助がそう告げたかと思ったら、グィン! と急激に意識が奥へと引っぱられるのを感じた。
入れ替わるように、ポン助の気配が表へと追い出される。
「≪うん、ヨシヨーシ≫」
ポン助が郁也の身体で満足そうに頷くと、片腕をパニック中の三人にかざす。
「≪ねむれ~、ねむれ~、イイコイイコ≫」
ポン助がそう唱えると、突如三人はフニャリとその場に崩れ落ちる。
「≪あとよろしく~≫」
するとポン助はそう言ってまた奥へ引っ込み、郁也の意識がグン! と表に押し出される。
郁也はその引力に酔い気味だ。
「あれ~、ナニナニどういうこと? 寝てる?」
崎山が三人を確認すると、寝息をたてて気持ちよさそうに寝ていた。
先程のポン助の仕業だろうが、まさかこんな特技があるとは驚きだ。
ただのポンコツタヌキではなかったらしい。
崎山が不思議そうに三人を眺めているのに、清水が告げる。
「愛、とりあえず女子二人を保健室に連れて行きましょうかね。
男子は放置してもいいでしょう」
「ん、オッケ~♪」
軽く返事をした崎山は、なんと両腕に女子一人ずつを担ぎ上げた。
なんという腕力だろうかと郁也が感心していると、そのままズンズンと歩いていく。
ここから保健室は遠いと思うが、逞しい限りである。
その後ろ姿が見えなくなると、清水が「は~、やれやれ」と大きく息を吐いた。
「朝から働いてしまいましたよ。
それにしても橘くんの中のタヌキは器用ですね。
コレが『タヌキに化かされる』現象ということでしょう。
きっと三人ともが起きたら夢現で、なにが起きたかあやふやですよ」
「はぁ……」
清水がポン助のやったことを解説するのに、郁也は生返事をする。
「けどとにかく、これでもう天邪鬼はここには寄り付かないでしょう。
めでたしめでたしです」
清水のその結論に、郁也は目を瞬かせる。
「……あの、アレって死んじゃったんじゃないんですか?」
てっきりポン助のいうところの「調伏~!」をされたとばかり思っていたのに。
そう問うてみると、清水はヒラヒラと手を振った。
「そんな面倒をする義理はありません。
追い出しただけですよ」
「……なるほど」
ではもしかするとあの天邪鬼が今回の仕打ちに腹を立て、やり返しに来る可能性もなくはないわけか。
郁也としては、来ないことを祈っているしかできない。
復讐なんてしてもいいことはないので、ぜひ遠くで楽しく生きてほしいものだ。
「じゃあ、本当にこれで解決ですか?」
「そういうことです」
清水に肯定されたことで、郁也は今回の出来事がグルグルと思い出される。
特に、あの「彼女」が崩れる瞬間の気味悪いことと言ったら……。
そう考えた瞬間、郁也も色々限界が来ていたのか、精神がプツリと途切れた。
そして郁也がドタンと倒れたその場には、気を失って伸びているデカいタヌキがいるばかり。
「おやおや、またですか」
清水はそれをモフっと抱き上げる。
「とりあえず、朝から働いたご褒美をコレにしておきましょうかね」
そう独り言を零す清水は、タヌキをムニムニと撫でながら、その場を立ち去っていく。
残された男子一人は、宣言通りその場に放置された。




