11 大混乱
ダダダダッ!
郁也はすれ違う教師の視線も気にせず、廊下をダッシュして数学準備室に一目散に駆けている。
ガラッ、ガタン!
「清水先生いますかっ!?」
そして数学準備室に着くなり、全力で戸を開けて中へ呼び掛けた。
「おや、どうしました?
青い顔をして、まるで死人のようですよ」
中には、窓際の席でのんびりコーヒーを飲んでいる清水がいる。
まだ崎山の姿はなく、他の教師の姿もなく、いるのは清水だけだ。
しかし郁也はそんな状況を冷静に観察する余裕なんてない。
狭い数学準備室の中に入り、清水の座る机にすがりつくようにして、息せき切って話す。
「あの、あの双子が双子じゃなくって一人っ子で、でも確かに二人見て、どういうことですかっ!?」
「橘くん、落ち着いてください。
意味がわかりません」
清水の冷静なツッコミも、しかし郁也の耳を素通りする。
「俺、確かにあの女子を二人見たんです!」
郁也の必死の訴えに、清水は不思議そうに首を傾げてコーヒーを飲むが、ふと窓の外に視線をやった。
「橘くんが言っているのは、もしかしてあの女子?」
そして清水が指さしてみせたのは、確かに先程まで会っていたあの女子だ。
昼休みに見たあの男子にくっついて、仲良さそうに歩いている。
「それに、あっちにもいますね」
次にそちらと逆の方を指させば、未だケンカをしているらしいあの女子二人が、まだあの渡り廊下にいた。
同じ人物が確かに二人いて、しかし彼女は双子ではなく一人っ子だという。
世の中には同じ顔の人間は三人いると、どこかで聞いたことがあるけれど。
≪うわぁ、やっちゃってるぅ~!≫
脳内でポン助が何故かはしゃいでいる。
フラアッ
郁也はその声が遠くに聞きながら、気が遠くなっていき――
ポンッ!
なにか身体に違和感が発生したまま、気を失った。
「おやまあ、こうきましたか」
意識を失った郁也が床に倒れたのを、清水が目を丸くして見下ろす。
そこにはなんと、でっかいタヌキが横たわっていた。
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郁也は夢の中のポン助のところにいた。
今回は身体ごとポン助と向かい合っている。
≪もぉ、情けないなぁ、あのくらいで気絶するなんて!≫
ポン助が、尻尾で床をテシテシと打ちながら文句を言ってきた。
プリプリ怒っているポン助だが、情けなさでポン助にやいのやいのと言われるのは、郁也としては不満である。
ビビったらパニクるのは、ポン助だってどっこいどっこいだろうに。
「だって怖いだろう?
同じ人間が二人いるんだぞ?
どんなオカルトだよ!」
郁也が文句を言い返すと、ポン助が首を捻る。
≪『おかると』っていうのがなんかわかんないけど、アレの片方は『あまのじゃく』だよ≫
「あまのじゃく?」
ポン助から出た言葉に、郁也は首を傾げる。
なんかの昔話で読んだ気がうっすらとするが、確かなにか悪さをする妖怪だっただろうか?
「そんなのが、学校にいるのか?」
≪あいつらも食うに困って、人里まで出てきたんじゃないの?≫
どんぐりが採れない熊みたいなことを言われた。
妖怪とはもっと人を陥れようとか、騙そうとか思って出てくるものだと思ったが、どうやら違ったらしい。
≪でも、騙したり嘘ついたりするのが得意なだけで、大したヤツじゃないよ≫
ポン助が尾をフリフリそう言うので、郁也は「そうなのか」とホッとする。
だったら、ポン助の力でどうにかしてくれないだろうかと考えていると。
≪あ、ちなみに僕はアイツに比べても激弱だから、アテにしないでよね!≫
そんな風に釘を刺された。
全く頼りにならないタヌキである。
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