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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
2話 ひとちがい

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11 大混乱

 ダダダダッ!


郁也はすれ違う教師の視線も気にせず、廊下をダッシュして数学準備室に一目散に駆けている。


 ガラッ、ガタン!


「清水先生いますかっ!?」


そして数学準備室に着くなり、全力で戸を開けて中へ呼び掛けた。


「おや、どうしました?

 青い顔をして、まるで死人のようですよ」


中には、窓際の席でのんびりコーヒーを飲んでいる清水がいる。

 まだ崎山の姿はなく、他の教師の姿もなく、いるのは清水だけだ。

 しかし郁也はそんな状況を冷静に観察する余裕なんてない。

 狭い数学準備室の中に入り、清水の座る机にすがりつくようにして、息せき切って話す。


「あの、あの双子が双子じゃなくって一人っ子で、でも確かに二人見て、どういうことですかっ!?」


「橘くん、落ち着いてください。

 意味がわかりません」


清水の冷静なツッコミも、しかし郁也の耳を素通りする。


「俺、確かにあの女子を二人見たんです!」


郁也の必死の訴えに、清水は不思議そうに首を傾げてコーヒーを飲むが、ふと窓の外に視線をやった。


「橘くんが言っているのは、もしかしてあの女子?」


そして清水が指さしてみせたのは、確かに先程まで会っていたあの女子だ。

 昼休みに見たあの男子にくっついて、仲良さそうに歩いている。


「それに、あっちにもいますね」


次にそちらと逆の方を指させば、未だケンカをしているらしいあの女子二人が、まだあの渡り廊下にいた。

 同じ人物が確かに二人いて、しかし彼女は双子ではなく一人っ子だという。

 世の中には同じ顔の人間は三人いると、どこかで聞いたことがあるけれど。


≪うわぁ、やっちゃってるぅ~!≫


脳内でポン助が何故かはしゃいでいる。


 フラアッ


郁也はその声が遠くに聞きながら、気が遠くなっていき――


 ポンッ!


 なにか身体に違和感が発生したまま、気を失った。


「おやまあ、こうきましたか」


意識を失った郁也が床に倒れたのを、清水が目を丸くして見下ろす。

 そこにはなんと、でっかいタヌキが横たわっていた。


~~~


郁也は夢の中のポン助のところにいた。

 今回は身体ごとポン助と向かい合っている。


≪もぉ、情けないなぁ、あのくらいで気絶するなんて!≫


ポン助が、尻尾で床をテシテシと打ちながら文句を言ってきた。

 プリプリ怒っているポン助だが、情けなさでポン助にやいのやいのと言われるのは、郁也としては不満である。

 ビビったらパニクるのは、ポン助だってどっこいどっこいだろうに。


「だって怖いだろう?

 同じ人間が二人いるんだぞ?

 どんなオカルトだよ!」


郁也が文句を言い返すと、ポン助が首を捻る。


≪『おかると』っていうのがなんかわかんないけど、アレの片方は『あまのじゃく』だよ≫


「あまのじゃく?」


ポン助から出た言葉に、郁也は首を傾げる。

 なんかの昔話で読んだ気がうっすらとするが、確かなにか悪さをする妖怪だっただろうか?


「そんなのが、学校にいるのか?」


≪あいつらも食うに困って、人里まで出てきたんじゃないの?≫


どんぐりが採れない熊みたいなことを言われた。

 妖怪とはもっと人を陥れようとか、騙そうとか思って出てくるものだと思ったが、どうやら違ったらしい。


≪でも、騙したり嘘ついたりするのが得意なだけで、大したヤツじゃないよ≫


ポン助が尾をフリフリそう言うので、郁也は「そうなのか」とホッとする。

 だったら、ポン助の力でどうにかしてくれないだろうかと考えていると。


≪あ、ちなみに僕はアイツに比べても激弱だから、アテにしないでよね!≫


そんな風に釘を刺された。

 全く頼りにならないタヌキである。


~~~

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