5 昼休みになって
午前中の授業が終わり、昼休みになった。
郁也は一人で弁当を広げる。いわゆるボッチ飯だ。
郁也はこの学校に入学してからずっとこうなので、慣れてしまったものの、寂しさは消えない。
中学時代は弁当を一緒に囲む相手くらいはいたものの、それだって仲間だからという間柄ではなくて、単に席が近い者同士でなんとなく固まっていたというだけの、積極的弁当仲間というわけではなかった。
教室には外が雨のせいか、天気が良ければ外で食べる生徒が留まっているため、普段よりも人が多い。
人が多いと、余計にボッチ加減が増す気がする。
隣の男子に「一緒に飯を食おう」と、一言いえばいいのだとはわかっているのだ。
けれどその一言が出せれば、苦労しないのである。
郁也が楽しい昼休みに似合わない大きなため息を吐いて、鞄から弁当箱を取り出す。
――今日の弁当はなにかな?
昨日はキャラ弁だった。
今日も祖母がウキウキと弁当箱をつついていたから、用心のためにできれば他の視線が気にならない所で食べたいのだが、そんな日に限って雨。
なんともついていないな、と郁也がため息を吐いた時。
「あ、いたいたよかった、橘くーん♪」
教室の出入口から声をかけられた。
突然のことにポン助共々ビクッとして、ムズった頭とお尻を気にして、この流れに覚えがあることに一人首を傾げる。
「ねえねえ、橘くん?」
すると声の主が居室へ入って来る。
≪あ、あの朝のニンゲンじゃん≫
ポン助の言う通り、声をかけてきたのは朝話しかけてきた女子の先輩であった。
そう言えば、次にどうのと言われたのだったか。
すっかり忘れていた。
というか、本当にまた来ると思っていなかった。
「えっ、と……」
「あ、まだお弁当食べてないカンジ?
じゃあじゃあ、一緒に食べながらお話しよ~、そうしよう♪」
郁也がなんの用かと問いかける前に、彼女は一人で喋って勝手にそう決めると、郁也の弁当をひょいっと持ち上げる。
「あ、あの」
「わたし、今日学食なの♪
ママが寝坊してお弁当ナシになっちゃったぁ」
まだ「いいよ」とは言っていない郁也はアワアワとするものの、彼女はそれに構うことはない。
これだと女子と二人で昼食を食べることになり、郁也はこれまでの人生で女子と二人きりになった経験はない。
いや、もしかしたら連れて行かれた先には集団が待ち構えているかもしれないが、それはそれで怖い。
「でも、その」
なんとか自分の意見を言おうとする郁也だが、突然口が滑らかに動くような奇跡は起こったりはせず。
「ゴー、ゴー♪」
彼女は郁也の背中を押して、強引に移動させる。
≪キミ、あの坊主相手と違うね。
アワアワしちゃってぇ≫
(仕方ないだろう、女子相手って余計に緊張するんだよ!)
ポン助が「情けない」と言いたげなのに、郁也は脳内で反論する。
というか、ポンコツポン助にやいのやいのと言われたくない。
こうして郁也が教室から拉致られた後。
「おい、橘がヤバい先輩に連れていかれたぞ」
「大丈夫なのか、あれ」
教室内がしばしざわついていたなんて、郁也の知る由もなかった。




