4 話しかけられた
郁也の登校二日目となると、教室へ行くのに他の生徒たちも昨日程の騒ぎにはならずに済んだ。
例えるならばハチの巣を突いたような雰囲気から、パンダを遠巻きに眺める雰囲気に緩和されている。
つまり、遠巻きにされることには変わりない。
それでも郁也が遠巻きにされるのはある意味今に始まったことではないので、内心寂しさを覚えつつも、教室のある階の廊下を歩いていると。
「ねえねえ、橘郁也くん?」
背後から女子の声に呼びかけられた。
「……!?」
郁也は授業やプリントの受け渡しなどでの必要なやり取り以外で、生徒から声をかけられるという事がこれまでなかったため、とんでもなく驚いた。
≪ビックリしたぁ~!
もう、後ろから声かけると怖いじゃん!≫
なんなら脳内のポン助まで何故か驚いている。
この両者、隙がある時になにかされるのに弱いという所が似通っているようだ。
要するにビビリというわけだが。
そのビビった瞬間に頭とお尻がムズっとしたので、郁也は幸いまだなにも現れていないソコを慌てて手で押さえながら、「出るな~、出るな~」と心の中で念仏のように唱える。
「ねえ橘くん、聞こえてる?」
すると、再度女子に話しかけられる。
そうだ、誰かに呼ばれたのだったか。郁也はポン助の方に意識が持っていかれて、無視する形になってしまった背後にいるであろうその女子を振り返る。
そこにいたのは、小柄な可愛らしい娘だった。
色白で華奢な、くせ毛なのかちょっとウェーブのかかっている髪をボブカットにしていて、田舎にしてはそこそこお洒落だという評判の制服をお洒落に着こなしている。
雑誌の読者モデルをしていてもおかしくはない、そんな女子だ。
そして制服についている校章を見るに、二年生の先輩である。
ズバリ言えば、郁也がこれまで近寄ったことのない類の娘であった。
そして何故か郁也は彼女にどこか既視感を覚えたが、絶対に初対面だろうから、きっとテレビかなにかで似たような人でも見たのだろう。
「えっと、俺? に何か用、です、か」
郁也は同年代から遠巻きにされずに正面切って話しかけられるのに慣れておらず、スマートに言葉が出なくてつっかえながら尋ねると、彼女がニコリと笑う。
「うん? えっとねぇ、特に用事ってわけじゃないんだけど。
橘くんって部活とか入っているかな? って思って」
「部活?」
運動部からは一通り勧誘されたが、それらは全て断った。
どこか漏れのある運動部があったのだろうか? 郁也が不思議に思っていると。
キーンコーンカーンコーン
ホームルームの予鈴のチャイムが鳴った。
「あ、時間なくなっちゃったぁ!
まあいいや、次にお話聞いてね♪」
彼女はそう言って廊下を駆けて階段へ向かう。
――なんだったんだろう? あ、名前聞いてない……。
しばし彼女が去った方をボーッと見ていたが、そのことに気付いて郁也はがっくりとする。
相手はこちらを知っていたのだから、せめて名前くらい聞くべきだろうに。
これがコミュ力高めであったなら、この短時間にでも簡単な用件を聞き出せたのだろうか?
≪ニンゲンってせわしないなぁ≫
一方ポン助は落ち込む郁也に構うことなく、チャイムが鳴った途端にそれぞれの教室に一斉に移動する生徒たちを見て、感心した風である。
(ここは学校だから、時間でやることが決まっているんだよ。
今は教室で待つ時間)
≪自分はココにいるじゃん≫
ポン助に言われてから廊下に突っ立っている自分に気付いた郁也は、教師が来る前にすぐに自分も教室へと向かう。
そしてホームルームが終わって授業を受けると、その女子のことを忘れてしまっていた。




