20 帰宅
それから清水が尻尾に満足したところで、郁也は崖から上がって再び清水の車に乗り、山を登っていく。
その頃には、ポン助の耳と尻尾は消えていた。
どうやら気持ちが昂ると出てしまうらしい。
――これ、気を付けないといけないんじゃないか?
都会だったらコスプレしているおかしな男で済ませてくれるかもしれないが、ここみたいな田舎だと、どう思われるか分からない。
心頭滅却の修行でもするべきだろうか?
そんなことを考えているうちに、やがて集落に入り。
「あ、じいちゃんばあちゃんだ」
家の前にある畑で、祖父母が世話をしている姿が見えたので、その前で車が停めてもらう。
「じいちゃんばあちゃん、ただいま」
郁也が車から降りて呼びかけると、祖父母が畑から出てきた。
「郁也、お帰り」
「早かったな、どうしたんだ?
おや、快斗くんも一緒かい」
祖母が笑顔で迎えてくれて、その後ろで祖父が不思議そうに清水を見ている。
早引きをしたので心配をかけてしまっているのに、郁也がちょっと俯いていると。
「大げさなことではないのです。
今日は復帰初日ですし、無理をさせないために午前中で帰すことになりまして。
それならついでだからと、僕が送って来た次第です」
学校で倒れたことを一切口にしない清水に、郁也がハッとして顔を上げると、清水がニコリと笑いかけてきた。
イケメンが笑うと眩しいものであると郁也は改めて認知する。
それと同時に、余計な心配をかけまいとする郁也の気持ちを汲んでくれたらしい、清水の気遣いに感謝であった。
「そうでしたか、それはわざわざどうも」
清水の話に、祖母が深々と頭を下げる。
「郁也はナリなデカいが、気が小さいからなぁ。知らん土地の学校でやっていくのに大丈夫かって心配しとったんだが。
快斗くんが気ぃ付けてくれるなら、安心だぁ」
そして祖父の告げたことに、やっぱり郁也が田舎に馴染めていないのを心配していたのだと知る。
祖父には郁也の性格なんてお見通しだったらしい。
けれどこうして心配をかけて申し訳ない一方で、心配してもらえることが嬉しかったりもする。
なにせ、両親からそんな気遣いをされたことがないのだから。
「生徒はみんな気のいい子たちですから、きっとそのうち馴染みますよ。
こういうのは我々大人がどうこうするより、自然の流れに任せるのが一番です」
こうして心配しきりの祖父母に対して、清水が先生っぽいことを言った。
けれど郁也は自然に任せていたら、たぶん年内の友人は絶望だろうな、と自身を振り返って思っても、今は黙っておく。
たぶんいい雰囲気になっているのだから、水を差すこともないだろう。
≪あ、あのイモ食べたい!≫
けれどポン助のそんな場の空気なんて関係ないセリフで、郁也だけ台無しにされたのだが。
とりあえずポン助があんまり欲しがって、頭とお尻がムズムズしてきたので、郁也はイモを掘って蒸かしてバター醤油で食べたのであった。




