第27話 提案と葛藤
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合同国選依頼が開始されてから四日が経った。
進行パーティが増えたことで、全体像などは徐々に明らかになってきたものの、本迷宮と目される『ヴォーダン城』の進入方法は不明だった。
むしろ、あんなに探索しても何も起きなかった庭園部分に兵士や騎士と目される人型の魔物が発生して近寄りがたくなっている節まである。
ロゥゲの話からも、そしてヒルデの話からも、あそこに入らなくてはならないのは確かだと思われるのだが。
「うーむ……」
「入り方、わからないね?」
コテージの机で他パーティの情報とすり合わせながら可能性を探っていく。
とはいえ、その可能性もすでにすべて試してしまった後なのだが。
そんな中、マリナが何の気なしにぽつりとつぶやいた言葉が、俺にインスピレーションを与えた。
「だいたいさ……お城なんて入ったことないんだから、どうやって入るのが正解かなんてわかんないよね」
「……っ! そうか。なるほど」
マリナの言う通りだ。
あそこが迷宮だということで、俺は可能性や選択肢を随分と狭めていたのかもしれない。
ロゥゲ曰く、『グラッド・シィ=イム』は生きた町だ。廃墟ではない。
……そう考えた時、俺達の行動はどうか?
周囲をうろつき、伺い、時には破壊行動を行って侵入を試みる無法者に他なるまい。
兵士や騎士の類が排除に現れたとて、何の不思議もないわけだ。
さて、では常識的に考えて王城に参上できるのはどういうものか。
有体に言えば、王族かそこで働く貴族、あるいは客や特別に許可された臣民であろう。
「ダメ、だよ」
「ぐ。わかっているとも」
レインが浮かび上がりそうになった俺の雑案を口から漏れる前に制す。
ダメなのはわかっているんだよ。が、可能性としてはあるべきだろう。
あの、『黄金の指輪』だ。
歪んだ世界の歪んだ住民が身体に持つ、『黄金』。
ロゥゲもヒルデも黄金について触れていた。破壊せよとも言われたはずだ。
つまり、あの迷宮のキーとなる要素であるから、魔物が隠し持つ黄金の指輪にも何か意味があるのだろう。
「あれは、ダメ。よくないよ」
「ああ。そうだな」
あれが何であるかは目下研究中だが……レインがある特性を突き止めた。
魔法道具フリークスの魔術師というのは、発想が違う。錬金術師の俺が形無しだ。
「そういえば、もうすぐわかるって言ってましたね。レイン、どうなったのですか?」
「ボードマン子爵が、機材を製作、してくれてる。そこから、かな」
「あれって結局何なの?」
話がそれ始めたが、良いだろう。
関係のあることではあるし、何か糸口がつかめるかもしれない。
「すごく、原始的な魔法道具、かな。えっと、魔石とか……精霊結晶に、近い」
精霊結晶は精霊の遺骸とも言われている特殊な魔石だ。
シルクも精霊と契約を交わす際に使ったはずのもので、精霊使いが精霊と契約する際に必要となるものである。
「つまり、記憶媒体にもなる?」
「うん。そう。あれには、『グラッド・シィ=イム』の人たちの記憶が収められてる、かも」
「もしかしたら、『ヴォーダン城』の入り方もわかるかもね!」
さて、どうだろうか。
少なくとも、外郭部に現れた騎士や兵士タイプの魔物の指輪を使う必要はありそうだ。
「……提案しても、いい?」
レインが、少し不安げな様子で俺を見る。
「もちろん。何か案が?」
「ルンに、手伝ってもらう、のが……いいと思う」
ここまでの話で可能性こそ考えていたが、あえて黙っていた選択肢だ。
いや、それも見越しての提案か。
「ルンちゃんをすか?」
「うん」
頷くレイン。
「えっと、ルンは、『グラッド・シィ=イム』の関係者だと、思う」
「それは、そうなんでしょうね」
シルクが頷いた通り、おそらくレインの言うことは正しい。
ルンは名前以外の多くの記憶を失っているが、『黄金の巫女』を名乗るヒルデの依り代となるような特別な少女だ。
そして、黄金にまつわる以上……ルンは『グラッド・シィ=イム』において、高位の立場にあるか、高貴な血筋である人間の可能性が高い。
彼女であれば、『ヴォーダン城』はその門を開いてくれるかもしれないとは思う。
だが……。
「危険すぎる」
「そうだよ! ルンちゃんはまだ小さいんだから!」
「ですね。レインにしては、少し無茶な提案に思えます」
みんなの声に、目を伏せてレインが首を振る。
「ううん。わかって、るの。でも……ボクの中で、何か引っかかる。あの子を、連れていくべきだ、って」
「レインにしては直感的な意見だな」
「ボクにも、よくわからないの」
調査も四日目に入って大きな成果はない。
むしろ内部の危険さは増していくばかりで、決行するなら早い方がいいとも思う。
だが、安全圏に逃した子供を、またあの危険な『グラッド・シィ=イム』に連れて行くなど、褒められた話ではないし、なんだか利用するようで気が引ける。
悩む俺達の沈黙に、扉をノックする音が差し込まれた。
「ユーク君、いるか」
声は、ルーセントだった。
紳士な彼は女性メンバーが多い『クローバー』のコテージをいきなり開けたりしない。
「どうぞ」
「失礼するよ」
鎧を脱いでラフな格好をしたルーセントが、長身痩躯の老人を伴につけて入ってきた。
魔術師のモリアだ。かなり古参のAランク冒険者で、優れた魔術師。
「今後の方針について相談を詰めておきたいと思ってな。……どうした? 問題か?」
「少しばかり、行き詰まってまして」
レインの提案について軽く説明すると、ルーセントはモリアを顔を見合わせて頷き合う。
「よし、我々もルンの護衛につこう。それでどうかね?」
「え?」
「黄金の巫女であれば、王にとっては賓客であろうよ。ダメなら撤退をかければいい。ユーク君、我々冒険者にとって選択肢というのはね、選ぶものではない。トライアンドエラーで一つずつ潰していくものなのだ」
先輩冒険者のありがたい助言と提案に背を押されて、俺は心を決めた。
いかがでしたでしょうか('ω')





