第12話 マニエラの信頼と手紙鳥
本日も更新頑張ります('ω')
初回迷宮攻略から帰って翌日。
俺は、マニエラが詰める指令所の一角に呼ばれていた。
「それにしても、妙なことになったねぇ……」
煙管を燻らせながら、マニエラがため息と一緒に煙を吐き出す。
その煙を思いっきり浴びながら、俺もどうしたものかと考えた。
あの後、すぐさま引き返した俺達は、指令所に詰めていたマニエラと王立学術院の現地統括責任者であるボードマン子爵にすぐさま報告を行った。
ただ、配信を見ていたはずの彼等と俺達の報告がいくつか噛み合わなかったのだ。
まず、共通の認識として地下水路を抜けた先は謎の都市になっているという部分は一致した。
地下水路で行われた鎖男との戦闘も配信で記録されていたし、その後のねぐらに向かうところも、マリナのダンジョン飯配信もちゃんと映っていた。
だが、あの怪しい老人……ロゥゲの姿と声は、配信に映っていなかった。
俺も記録映像を見たが、一連のやりとりもまるで一人芝居のようになっていて、記録には残っていない。
学術院の見解としては、階段を上った瞬間に何らかの幻惑状態に陥ったのではないかとのことだ。
確かにその可能性は否定できない。
あのロゥゲという老人が実在であるかどうかは、実際に関わった俺ですらいささか疑問な部分がある。
「とりあえず、依頼に関してどうするかはこっちで協議しておくよ。完了にするなり、続行にするなりの答えが出るまで、しばらくこのキャンプにいておくれ」
「はい、よろしくお願いします。それで……彼女はどうしましょうか?」
「あの子については、迷い込んだ人間として、いまドゥナや近隣の村に照会をかけているところさ。もう少し、待っとくれ」
黄昏の王都『グラッド・シィ=イム』を後にする直前、マリナが見つけた小さな少女。
意識を取り戻した後も、いまいち彼女については不明点が多い。
一言もしゃべらないので、どういう状況であの『グラッド・シィ=イム』にいたのか……それすらもわからないのだ。
ただ、迷宮の生物というのは、生け捕りできないというのが基本的なルールである。
生きたまま迷宮を出入りできたという事は、少なくとも魔物ではない。
おそらく、何らかの理由で迷宮に迷い込んだ一般人だろうというのが、俺達の見解だった。
「わかりました。では、しばらく俺達のコテージにいてもらいますね」
「ああ、悪いけど頼んだよ。できるだけ早く街に移送する手はずを整えるからさ」
一応、このキャンプ地には救護所もあるのだが、彼女がマリナにくっついて離れなかったのだ。
そこで無理に引き離すのもどうかと思った俺が、しばし『クローバー』に用意されたコテージで面倒を見ると申し出ることにした。
マリナになついているし、迷宮で怖い思いをして言葉を失ったらしい少女に、これ以上のストレスをかけたくはない。
「では、一旦コテージに戻ります」
「なあ、坊や」
「はい?」
席を立って、コテージを出ようとした俺をマニエラが呼び止める。
「あんた、あそこはなんだと思う?」
「まだわかりません。推測も記録に取りまとめているはずですが……」
「お堅い一般論が聞きたいんじゃないんだよ。あんたは、どう思ったんだい?」
まったく、こういうところだけベンウッドに似ている。
一冒険者である俺の主観なんてものを、どうして求めるんだろうか。
「それは、あんたがサーガの身内だからさ」
俺の表情から心の中を読んだのか、マニエラがにやりと笑う。
訂正しよう、彼女はベンウッドよりも性質が悪い。
「これは、戯言の類だと思ってください」
「いいともさ。冒険者は直感が大事だよ」
「……。あそこは、異界じゃないかと思います」
言葉を探し、もっとも適していそうな単語を口にする。
「異界?」
「はい。『無色の闇』の中と同じか、もっと濃い違和感を感じるんです。どうにもあそこは、世界の端を越えた感触があるんですよ」
「その口ぶりだと、『無色の闇』が何だったか、もう気が付いてるんだね?」
「まだ、推測の域を出ませんけどね」
マニエラが煙を静かに吐き出して、俺を見る。
「その推測は多分あってるよ。ほんと、サーガに似てるね……。あんた、隠し子とかじゃないだろうね?」
「そうだったらいいと思ったこともあります」
冗談めかして笑ったマニエラが、俺の言葉にすっと真顔になる。
「実際、今でもそうじゃないかと思ってるくらいさ。だからこそ、あんたの直感とセンスをあてにさせてもらうよ。各地の異常直後に現れたこの迷宮……『黄昏の王都グラッド・シィ=イム』は、きっとでかいヤマになる」
経験と直感が入り混じった、熟練冒険者の眼差しとなったマニエラが俺を見据える。
「何にせよ、あたしはあんた達『クローバー』に仕事を投げるつもりさ。期待させてもらうよ、坊や」
「あまり過度な期待はしないでくださいよ」
そう答えつつも、俺自身、この『黄昏の王都グラッド・シィ=イム』について、惹かれている部分はある。
いずれにせよ、仲間たちと協議の上となるが。
「それでは後ほど」
頭を下げ、今度こそ指令所コテージを後にする。
内部は魔法道具で暖房が効いていたが、外に出ればそれなりに冷える。かなり南に近いので、フィニスよりはましだが。
……そういえば、『グラッド・シィ=イム』も寒くはなかったな。
やはり、この世界とは隔絶した場所なのだろう。
キャンプ地の端に設置された、冒険者用コテージ──事実上、俺達『クローバー』専用だ──へと小走りで向かう。
その俺の頭上を、何かが追い越していった。
「ん?」
青空に映えるそれは真っ白で、鳥の形をしている。
……手紙鳥だ。
ドゥナ冒険者ギルドの長はさっきまで一緒だったので、ベンウッドからだろうか?
いや、それもおかしいな。
あれは個人あてに飛ばすものなので、『クローバー』宛ならばパーティリーダーである俺に向かって飛んでくるはずだ。
さて、それでは誰に宛てたものなのだろうか?
首をひねりながらコテージへと急ぐと、扉からレインが出てくるのが見えた。
コテージの上を旋回していた手紙鳥はふわりと降りて、レインの前で手紙へと変じる。
レイン宛の手紙? 珍しいな。
「あ、ユーク」
「手紙鳥で手紙なんて珍しいな」
「うん。誰から、かな?」
封筒を裏返し差出人を見るレイン。
その顔が見る見るうちに青ざめていった。
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