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最後の大聖女の災難と幸福【一章完結】  作者: 隠居 彼方
最後の大聖女の災難

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回想/神官



 シェスが学院を卒業して正式に聖女に任命されると同時に、ソルも神殿騎士に叙任された。

 彼はそのままシェスの護衛におさまり、初任地でも共に過ごすこととなる。


 本来であれば、聖女には国からも騎士がつけられるものだ。

 けれど当たり前のように、シェスにはそれは当てはまらなかった。

 それどころか国は当初、神殿騎士がシェスの護衛をすることすら許さなかったのである。

 たださすがに、それには神殿から否と声が上がった。

 そうして、ソルがシェスの護衛につけることになったのだ。


 こうした事情を、シェスは初任地へ向かう途中で聞かされた。

 教えてくれたのは、アミティエだ。

 彼女は神官として、シェスのサポートをするために駆けつけてくれたのである。


 聖女の補助を神官が行うのも、決められたことである。

 それさえも国に阻止されそうになったが、神殿が抗議した末、アミティエと、彼女の補佐として準神官が一人ついてくれることになった。


「国の振る舞いは異常です……。聖女様にこんな扱いをするなんて、いくら何でも許されません」


 アミティエは黒髪黒瞳の怜悧な美貌の持ち主なのだが、それだけに険しい顔をすると大層な迫力があった。


「エヴァジオンとして、断固、待遇の改善を要求します」


 エヴァジオンは、ローワ王国において、王家の次に特別な一族である。


 かの一族は、貴族ではない。

 王国での貴族とは、これまでに聖女を輩出してきた家系を指す。

 つまり、女神から浄化の力を与えられた末裔だ。

 その中でも特に力の強い聖女が生まれやすい家であったり、数多くの聖女を輩出してきた家が、高位貴族と呼ばれるようになったのである。


 一方でエヴァジオン家の祖先は、男性だったために浄化の力を受け取ることはできなかったものの、女神から別の使命を与えられていた。

 その全てはエヴァジオンしか知ることができないが、国民が広く知っている彼らの役目は、聖女を守り、世界の浄化を助けること。


 だからこれまでエヴァジオン家は、聖女に尽くし、女神の末である王家に尽くしてきた。

 神殿をつくり、神官を教育し、女神のことを人々に伝え続けるとともに、聖女を支える体制を王家と共に構築してきたのだ。


 アミティエはその、直系なのである。


 彼女はエヴァジオンであるが故に、聖女への仕打ちに尋常でなく怒っていた。

 しかもその聖女が、長く妹のように共にいた大切な存在なのだから、尚更怒りはおさまらないという様子だった。


 ソルと、アミティエと。

 二人がいなければ、シェスはあの町で野垂れ死んでいたかもしれない。


 貴族家出身であるシェスは、生活する上で一人ではできないことも多く、そこをアミティエはこまごまとサポートしてくれた。

 ソルはソルで、家事の腕は完璧だ。護衛としても、罵詈雑言を吐き乱暴な振る舞いをしようとした町民を、決してシェスに近付けなかった。


 魔獣討伐も、二人がいてくれたからこなせたのだ。

 神聖力を持つシェスは、浄化も可能ならば五大元素の操作もできるが、聖女としての特性というものか攻撃は不得意なのである。

 そのため、討伐には必ず攻撃役が必要だった。


 シェスとソルとアミティエと、三人のパーティはバランスが取れていて、討伐の際に損害を受けたことはない。

 シェスが結界を張り回復を行い、ソルとアミティエが攻撃をする。倒した魔獣をシェスが浄化する、というパターンで、毎回危うげなくやれていた。

 ソルとアミティエは剣の腕も魔術の腕も優れていて、シェスが惚れ惚れとすることも多かったものだ。


 シェスが女神由来の神聖力を持つ一方で、元々のこの世界の住民である人々は魔力と呼ばれるものを持っている。

 魔力で行えるのは、簡潔に言うと五大元素の操作だ。それを魔術という。

 魔力量などによって実際に行えることは変わってくるが、ソルもアミティエも相当な力量の持ち主だった。


 シェスはそんな二人が自分についてくれることを確かに分不相応だと感じつつ、だからといって離れることは考えられなかった。

 孤独を恐れたせいもある。そんな自分を卑怯だと自覚している。


 けれど、そんなシェスに、自分を大事するようにと、他でもない二人が何度も繰り返してくれるから。

 だから、シェスも二人を守りたいと――必死に聖女としての務めを果たしていたのだと思う。


「逃げてもいいと思うけどな? どこでだってやっていけるって、オレたちならさ」


 疲れ果ててベッドから起き上がれなくなっていたシェスに、ソルはそう言って笑った。

 その瞳の奥に、シェスへの気遣いが溢れていたことを、彼女は知っている。

 彼はシェスと共にあることを、全く疑っていないようだった。


「どこまででも、あなたがあなたの選んだ道を歩んでいけるよう、お支え致します」


 アミティエも、心強く微笑んでくれた。


 ソルもアミティエも、シェスの幸せを願ってくれていたのだ。


 シェスの心はいつも揺れていた。


 ソルの言う通り、逃げてしまいたくて。


 この国にシェスの居場所はどこにもないとまで感じるようになっていたから、それはとても甘美な誘惑だった。


 けれど、シェスが逃げたら、北の町はどうなるのか。


 北の町やその周辺を覆う結界は、シェスがいなくなれば数日の後には綻びてしまう。

 新たな聖女の派遣が間に合わなければ、瘴気や魔獣が幾人もの人々の命を奪うだろう。


 聖女たちの負担が増えることも心配だった。

 そんな風に考えることはおこがましいのかもしれない。

 だが、神聖力の減少が進んでいる現状、聖女が一人でも減ることは避けるべきだった。

 この国に暮らす、多くの人々のためにも。


――それより何より、これ以上二人を、巻き込むなんて……。




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