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第十六章 -Part of your world- ハリボテの英雄

「おお~……」


 お風呂から出て来たムースを見て、思わず感嘆の声が漏れた。

 馬子にも衣装と言うには、多分あまりにも土台が良すぎるのだ。


 セツカに切ってもらった空色の髪をロングボブにまとめ、これもまた所々空色のリボンをあしらった白いワンピースに身を包んだその姿は、さながらお人形さんかお姫様といった佇まいだった。


 とは言っても、初対面で女神と思った程のティアレと、ボーイッシュで可愛い系な本物のお姫様であるスズと、凛々しい和風美人のセツカという3人といつも一緒にいる僕が言うのもおかしな話ではあるが。


 ワンピースはやや大きめではあるものの、途中で切ってしまったのか長さは丁度良くなっている。

 スズがこんな服を持っていた事も意外だが、そこはやっぱり()お姫様といったところだろうか。

 サイズ以上に胸回りの方に問題がある気もするが、今はとりあえずこのまま我慢してもらうしかない。


「お兄ちゃん、ムース変じゃない?」

「いや、全然変じゃないよ? とっても可愛いと思うよ」

「えへへ……」


 照れ臭そうにはにかむと、ムースはまた僕の膝の上によじ登って来た。

 危ないので後ろから両脇に手を差し込むと、そのまま持ち上げて座らせる。


「イッチー殿は、随分と子供の扱いに慣れているのでござるな」

「あ~……、そう……かな……?」

「確かに言われてみればそうですね……。ノーベンレーンでもそんな感じでしたし」


 自分の子供とは違って、単に可愛がればいいだけの姪っ子ちゃん達のお陰なのは間違い無かったが、色々と話に齟齬が出そうなのはそれは伏せておく。

 とは言え、子供はおろか結婚すらしていなかった僕が偉そうに子供を語れた立場じゃないけど……。


「ニャるほどニャ……、イッチーは子供が好きなのかニャ。これはアタシも頑張らないといけないのニャ~」

「な、何を言ってるんですかスズさん!」

「そそ、そうでござるよ! スズ様にはまだ早いでござる!」


(いや、早いとか遅いとかそういう問題じゃないから……。と言うか子供の前で止めなさい)


 とりあえずとっさに耳を塞いで誤魔化してはみたが、不思議そうな顔で見上げてくるムースの無垢な視線が痛いのでニッコリと笑顔で返しておく。


 その時、良いタイミングでコンコンッと控え目に扉を叩く音が聞こえて、会話は一時中断となる。

 あまり深く突っ込まれても困る話題なので正直助かった。


「はい、どうぞ」

「あっしです、遅くなってすいやせん」


 素早く席を立ったセツカが開けた扉の向こうに立っていたのは、先程甲板で別れた船長だった。


 元々4人用の船室なので当然椅子も4人分しか置かれてないが、セツカは遠慮する船長を半ば無理矢理座らせると、自分はそのまま船長の為に飲み物を用意し始めたみたいだ。

 ムースは僕の膝の上で何の問題も無いが、セツカはコーヒーを持って戻って来ると、そのままスっとスズの横に控える様にして立った。


「何かすいやせん……。あっしがもてなされてちゃ世話ないんですが……」

「それより気になってたんですけど、どうして僕らの部屋が分かったんですか?」


 これは甲板で別れた時にも気になっていた事だが、実際こうやって船室に姿を見せたという事は、あの時点で既に僕らの部屋を把握していた可能性が高い。


「あ~……、そりゃあ特別な乗客はきちんと把握してますぜ。これも仕事ですから」

「特別……?」

「いや、だってアンタ楽士のイッチーさんでしょ? 今ルベルスで楽士イッチーとその一行を知らない奴ぁいませんぜ?」


 どうやって部屋が分かったのかの方についてはこれで解決したが、なんでそんな事になってるのかの方が全く分からない……。


「黒のローブに身を包み不思議な形のケースを背負う楽士、透ける様な肌のルスクを継ぐエルフの魔道士、小柄な猫耳のバルハイドの姫さん、長身黒髪の兎耳の剣士。これだけ一致してて分からない方がどうかしてると思いやすぜ?」

『……』


 船長の言葉に揃って言葉を失った僕ら4人とは対照的に、ムースだけは相変わらず不思議そうに僕を見上げていた。


 多分と言うより、絶対エリオが一枚噛んでいる気がしてならない。

 それはルベルスに戻った時に確認するとして、今はとにかく話を進める方が先決だろう。


「えーっと……、それで実際の所……この子はどうなるんですか……?」


 『この子はどうなる』。自分でそう口にしながら、未だ何一つとして事態が解決していない事を再認識してしまう。


「う~ん……。()()()()、このままルベルスに戻り次第衛兵に引き渡し然るべき処分を、って所なんでしょうけどな」

「そんな――」


 真っ先に口を開いたティアレに続いて、色々と言いたげなスズとセツカを静かに手で制する。

 何となく船長の言い方が引っ掛かったのだ。


()()()()?」

「へい。……あー、嬢ちゃんの名前を聞いても?」

「えっと、ムース……、レムースラシアスというみたいです」

「フム……。レムースラシアス……、あまり聞かねぇ名前ですな……」


 これに関してはどうやら船長も他の皆と同意見らしい。

 腕を組んで呻り始めた船長が怖かったのか、ムースがビクビクと胸に顔をうずめている。


「大丈夫だよ。怒ってる訳じゃないから」

「すいやせん……、怖がらせちまいましたか……」


 いかにも海の男といった出で立ちで筋骨隆々の体に加え、見た目がまるっきり狼なのでムースが怖がるのも仕方がないとは思うが、そうやって済まなそうにシュンと体を縮める様子から見ても、どうやらとても良い人なのは間違いなさそうだった。


「あ~……、その……、嬢ちゃん、パパかママはいるかい?」


 船長なりにかなり気を使ってくれたのだろう。

 誰もが一番聞きにくい質問を、口篭りながらも切り出してくれた船長。


「……パパとママ……、ムースに良い子でお家で待ってなさい、って言ったのに……、ムース約束破ったから……、パパとママもうお家に帰って来ないのかなぁ……」


 途切れ途切れにそう答えるムースの声は既に涙声で、時折しゃくり上げる様にして体を震わせていた。

 小さな手で僕の服をギュッと強く握り締める姿を見て、胸に刺さる様な痛みが走る。


「……そんな事ないよ……」


 僕はそう返すのがやっとで、後は空色の髪をゆっくりと撫でてあげる事しか出来なかった。


「うーん……、嬢ちゃん、あれこれと聞いて悪いが、お家の場所は分かるかい……?」

「……うん……、分かるの……」

「そうか……、そいつぁ良かった」


 ムースに怖がられる事の方がよほど堪えるのか、ホッと胸を撫で下ろした船長の顔には安堵の色が浮かんでいた。


「どうするんですか?」

「いえ、実は今向かってるモルド島はあっしの故郷なんですが、弟がそこで漁師をやってましてね。腕の方は島一番と言われるぐらいなんで保証しやすぜ」

「……でも、いいんですか?」


 色々と協力してもらえるのは有難いが、正直僕らで勝手に話を進めていいものなのかどうか判断が出来ない。


「いや~……、だって楽士イッチーとその一行って言ったら、例のイルミドナ教団を壊滅させた上に、誘拐されたノーベンレーンの子供達とバルハイドの姫さんを助け出した英雄でしょ」

「それならそこに『神龍ロドンゴ様を鎮めた』、も加えるといいのニャ~」

「……は?」


 あんぐりと口を開いたまま硬直した船長。


「ちょっとスズ……。だからそれは――」

「イッチー殿、事実は事実でござるよ。(それに名前に箔が付く事で行動の幅が広がるなら、むしろ都合が良いのではござらぬか?)」


 身を寄せそっと耳打ちしてきたセツカは、意味ありげにニッコリと笑うと、優しくムースの髪に手櫛を通した。


(なるほど……、ムースの為にも、この場はそういう事にしておいた方が話が早いという訳か)


「ハァ……、そうですね……。確かに南の大陸ではそんな事もありました……」


 まるで自供でもする気持ちで、諦めた様にそう口にする。


「いやいや……、そんなとんでもねぇ人達相手に、もうあっしの出る幕じゃねぇですよ。それに……」

「……それに?」

「船にも乗客にも一切被害はありやせんでした。あっしにとってはそれが全てです」


 キッパリと迷い無くそう言い切った船長の顔は、先程までとは違い自信と威厳に満ちている。

 その言葉に嘘偽りが無い事を示すには、充分すぎる程雄弁に語っている表情だと言えた。


「それは……つまり……」

「へい、あっしは何も見なかった、聞かなかった。気が付いた時には、楽士イッチーとその一行が例のセイレーンの問題を全て解決していた。それで構いやせん」

「でも、本当にそれでいいんですか? その~、変な言い方ですけど、立場的にと言うか……」

「アッハッハッハ。それこそあっし如きの立場なんて何も変わりゃしやせんぜ」


 船長はそんな僕の質問に対して豪快に笑っていた。そして


「……ただ……」


 ほんの一瞬だけ考えを巡らせる様な素振りを見せると、急に言葉を濁しながら照れ臭そうに頭を掻き始めた。


「ただ……どうしたんですか?」

「そのぉ……、実はうちの娘がイッチーさんの大ファンでして……。偶然三毛猫亭での演奏を聴いたとかで……、それ以来その話ばっかりしてるもんでね……」

「はぁ……」


 急にそんな事を言われてもという以上に、話の行き先が全く見えない。


「それで……、もし、後で、サインでも貰えたら、娘が喜ぶんじゃねぇかなぁ、と……」

「……はい?」


 一体どんな条件に繋がるのかと身構えていた僕は、予想だにしなかった要求に思わず間抜けな声を洩らした。


 周りからはクスクスと押し殺した笑いが漏れ聞こえる中、モフモフの顔ですら赤面してると分かる程に顔を真っ赤にした船長。


 そして不思議そうな顔でキョロキョロと目線を彷徨わせていたムースも、そんな皆の様子に釣られたのか、ようやく安心した様に無邪気な笑顔を見せてくれたのだった。

2019年最後の更新になります。

ご挨拶は活動報告の方でさせていただきます。


ありがとうございました。

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