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第十五章 -Summer time blues- 神龍ロドンゴ

「コントロールマジック、ホーリーライト、コピーマジック」

「お~、凄いねティアレ」


 崖の様な傾斜にポッカリと口を開けた、闇の深淵へと続く巨大洞窟。

 しかしティアレが新しく開発した術によって、洞窟内の闇はそのほとんどが払われていった。


 今までのぼんやりと周囲を照らす灯りではなく、僕らの後方から前方へと指向性を持たせたその光は、まるでサーチライトの様に力強く、しかもそれが二つに増えている。


 あまりの巨大さ故に全容を見通せなかった洞窟も、全てを視界に収める事が出来る様になった分、その異様な大きさを殊更実感してしまう。

 この大きさの意味が分かっているだけに、恐怖こそないものの、やはり畏敬の念は抱いてしまう。


 とりあえず今回、わざわざここを訪れた理由も意味も分かっている僕とティアレは、迷う事無く洞窟の先へと足を進める。

 ただ洞窟自体は前回と違ってやや下り勾配になっているらしく、その距離も考えると結構な深さの地下へと続いている可能性が高い。


「イ、イッチーも、ティアレも……、ニャんでそんな当たり前みたいに、グングン進んで行くのニャ~……」

「そ、そうでござるよ……。一体何があるか分からないでござる。こ、ここは慎重に行くべきではござらぬか……?」

「あ~、うん。まぁ確かにそれはそうなんだけど……」


 全ては僕らの予想と希望的観測でしかないとは言え、仮にそれらが外れていたとしたら、それこそ僕らでどうこう出来る様なレベルの問題じゃない。

 開き直る訳ではないけど、精霊達に導かれてここまで来た以上、僕らに出来るのは進む事だけだった。


「絶対大丈夫、とは言えないけどさ……、多分、大丈夫だと思うから。それにここまで来て引き返すって訳にもいかないでしょ?」

「私もイッチーさんと同じ意見なんです。事情はどうあれ、精霊に呼ばれて来た事には変わらない訳ですし……」


 ティアレの後押しのお陰か、はたまた進むしかないと諦めたのか、2人揃って「ハァ~」と大きな溜息をつくと、足早に僕らに追いついて来た。


「けど、ニャんだか2人だけ意気投合しててズルいのニャ~」


 そう言って右腕にしがみついてくるスズ。


「な、何かあった時の為にも、固まっていた方が良いでござるな……」


 良く分からない言い訳で、僕の背中に張り付くセツカ。


「……。(ニコッ)」


 そして無言の笑顔でプレッシャーを掛けてくるティアレ。


「ハァ~……、歩き難いでしょ、どう考えても……」


 今度は僕が溜息をつく番だった。


 黙って差し出した左手をティアレと繋ぐと、僕ら4人は一塊りになって、再び洞窟の奥へと足を進める。


(歩く速度が目に見えて遅くなったのは、もうこの際諦めるとしよう……)


 何一つ危険の無い広々とした洞窟の中を、意味も無く団子状態になってノロノロと歩く僕ら4人。

 前回同様、急に光が届かなくなった広大な空間に辿り着いた頃には、僕は既に別の疲労感に包まれていた。


「さすがにここから下りは危ないからね? 僕とティアレが先に行くから、スズとセツカさんは後からついてきてくれる?」

「え~、ズルいニャ……」

「ズルいとかじゃないから……」


 ブツブツ言ってるスズを置いて、とりあえずティアレと2人でゆっくりと坂を下りていく。

 傾斜が緩やかになり、平坦に戻った辺りで一度足を止める。

 すぐに追いついて来た2人は、明らかにさっきまでとは違った、どこか切羽詰まった真剣な顔で再び僕に寄り添ってきた。


 確信は無くとも、この2人の事だから何かを感じ取ったのかもしれない。

 右腕を掴むスズの手にも、両肩に乗せられたセツカの手にも力が入るのが分かった。


 それは理屈ではなく、本能に直接訴え掛けてくる、生物としての根源的な畏怖。


 僕らも二度目という事で、多少は心の準備が出来ていただけで、とてもじゃないけど慣れと呼べる様な物じゃない。

 事実左手に繋いだティアレの右手からは、小さな震えが伝わってくる。


 ぼんやりと霞んだ岩山にしか見えなかった影が、近付くにつれ徐々にその異形を(あらわ)にしていく。



 強化されたティアレの術ですら、その全身を照らし出せない程に馬鹿げたスケール。

 見上げても尚、その姿を視界に収める事も出来ない高さに(そび)える巨躯。


 僕とティアレにとっては二度目の邂逅。


 南の大陸を守護する守護龍であり、そして神の名を冠する伝説の龍。


 山吹色に輝く龍鱗を纏った威風堂々たる出で立ちは、まさしくその名に相応しいとも言える。


 ついに僕達の前にその姿を現した、『神龍ロドンゴ』。



 静かに開かれた双眸に怪しい光が宿る。


「……待ちくたびれたぞ、小さき者共よ」


 セフィラートのそれよりも更に低い、重厚感のある声が周囲を振動させる。


「……で、伝説の……、土龍様ニャ……」

「……あ、あ……、し、神龍ロドンゴ様……。ま、まさか本当に……」


 セフィラートに遭遇した時のティアレがそうであった様に、伝説として伝え聞いている分だけ、スズやセツカの衝撃は遥かに大きいのかもしれない。


「名乗るが良かろう」


 そんな2人の困惑など歯牙にもかけずに、淡々と告げる神龍。


「あ、どうも初めまして。僕はイッチーといいます」

「初めまして神龍ロドンゴ様。私はティアレーシャ=ルスク=コドレーと申します。どうかティアレとお呼び下さい」

「……お、おう……。(あれ、なんだこっちの2人は……。やけに落ち着いてやがるな……。まさか俺様にビビってないのか……?)」


 何か小声でボソボソ言ってる気がするが、内容までは聞き取れない。


「ニャニャ……、ア、アタシ、ワ、ワタクシハ……、スズ=バルハイドニャ……、でございますニャ? ニャ~?」

「ひ、姫様、どうかお気を確かに! 拙者は姫様の側仕えを務めさせて頂いております、セツカ=キキョウにござりまする」


 パニックで気を失いそうなスズと、代わりに自分がしっかりしなければと気丈に振る舞うセツカ。


「フーッハッハッハ! これはまた愉快な顔ぶれが揃ったな。バルハイド、ルスクを継ぐ者に加えて、どうやらそっちの兎も相当な手練と見える」

「そ、それは、一体如何様な……?」


(なんだろうこのデジャヴは……。何か神龍達の間でのテンプレでもあるんだろうか……)


「あっ、イッチーさん手伝いますよ」

「うん、ありがとうティアレ」


 ティアレの手を借りて背中のケースを降ろすと、さっそく準備に取り掛かる。


「……オ、オイ……、キサマらは一体何をしておるのだ?」

「あ、どうぞお構いなく。気にせず続けて下さい」

「イッチーさん、ハーモニカはどうしますか?」

「えーっと、じゃあGキーをお願い」

「(な、何なんだコイツら……、メチャクチャやりにくいぞ……)」


 また小声で何か言ってるが、やっぱり良く聞き取れなかった。


「……コ、コホン。……フーッハッハッハッハ! キサマらをここに呼んだのは他でもない。ワシはとにかく退屈でな。まぁキサマらを喰らったところで大した暇潰しにもならんだろう」

「ニャ!? ス、ススス、スズを食べても美味しくないのニャ! し、知らないけど多分美味しくないと思うのニャ!」

「そ、そんなっ! せ、せめて、ここは拙者一人の身でお許し願えませぬか!?」


 完全にテンパり始めたスズを庇う様に前に立つと、迷う事無く地に伏して頭を下げるセツカ。

 不謹慎かもしれないが、こういう時にこそ、その人の本質が見えるものなのかもしれない。

 そういう意味ではセツカのスズに対する忠義は、紛れもなく本物と言えるだろう。


「フッハッハッハ! キサマらの都合なぞ知らんわ! しかしワシとしては、退屈さえ凌げれば形は問わぬ。せっかく集まった面白そうな面子だ。一戦交えてみるというのも悪くはないな」

「ひいいいい……、そ、そんな……。神龍様相手に滅相もない……」

「むむ、む、無理ニャ……。そ、そんなの無理ニャ……」


 この様子だと、さすがのスズとセツカでも、神龍相手ではどうにもならないらしい。

 果たしてフューレンさん辺りならどうかとも思うが、今はそんな事を考えても仕方が無いだろう。


「フーッハッハ……ハ……、ハ……、で、キサマらは、さっきから何をしておる?」

「あ、終わりましたか?」


 一段落したのか、丁度こっちの準備も終わったタイミングで、ようやく僕に話が回って来た。


「……は?」

「いえ、神龍様はさぞ退屈だろうと僕なりに思う所ありまして……。スズ! セツカさん! 例の物用意してくれる?」

「ニャニャ?」

「へっ?」


 (こんな時に一体コイツは何を言ってるんだ)という感情を隠しもせずに、(いぶか)しげに僕を見つめる2人。

 そんな2人と全く同じ思いなのか、呆気に取られて成り行きを見守る神龍ロドンゴ。


「イ、イッチー殿、例の物というのは、まさか()()の事でござるか……?」

「うん、もちろん。その()()()()()()の事だよ」


 そう、出発前に僕がフューレンさんにお願いした事。

 バルハイドに伝わる宝物(ほうもつ)であり、本来なら絶対に持ち出しが許される物じゃない。


 二つに分けたそれを、スズとセツカの2人でそれぞれ背負い、ここまで運んで来てもらった。


 恐らくはこの世界でスズだけが使いこなす事が出来る、6連の打楽器。


 それこそが、僕が対土龍用に考えた()()()()



 そして、僕だけが、僕にしか出来ない事の為。


 それが僕が自らこの地へと赴いた理由だった。

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