表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/127

第十二章 -Treasure hunt- 能無しの俺と、能無しの僕

「そんな訳でリガルドは、東の大陸中心にちったぁ名の知れた一門でな」


 全員に飲み物のお代わりが行き渡ると、気を取り直した様に親方は語り始めた。


「大戦が終わって千年も経つってぇのに、未だに戦争し足りねぇバカどもが、まだまだこの世界にゃわんさかいるらしくてな……」


 そう言って本当に苦々しそうな顔を浮かべる。


「アンクーロなら、あそこは自由都市だからそんな事もねぇんだろうが、ここは王都の息が掛かってる街だからな。ただでさえリガルドは、東の大陸からはあまり動かねぇ。最近はあちこちでキナ臭ぇ動きもあるらしくてな。要するに俺に武器を打たせる代わりに資金援助してやろう、ってまぁそんな話だ」


 肩をすくめると、新しく入れ直したコーヒーを啜る。


「いくら腕が良かろうが、どれだけ優れた楽器を作ろうが、それを使う人間がいなきゃ話にならねぇ……。結局この店ん中に飾ってある楽器も、本当にただの飾りにしかなりゃしねぇ……」

「そんなに演奏者は少ないんですか?」


 ずっと気になっている事ではあったけど、楽器を売っている人間に聞くなら、これほど確実で手っ取り早い方法もないだろう。


「ああ、少ねぇ、って言うよりほとんどいねぇ……。まぁ一つ一つが決して安いもんじゃねぇから、食うにゃあ困らねぇが、それでも限度はある」

「親方……」


 ミンクが寂しそうに呟く。

 そんな空気を変えようと思ったのか、急に親方が楽しげに続ける。


ミンク(コイツ)はドワーフハーフでな。見た目はこんなチンチクリンだが、これでもとっくに成人してるんだぜ」

『え”っ!?』


 小学生ぐらいだと思ってた僕だったが、それはティアレも例外ではなかった様だ。


「チンチクリンって、私これでも親方よりはちょっと大きいでしゅよ! って言うか今2人もビックリしてたでしゅ! ショックでしゅ!」

「そういう事は、もうちっと出るとこが出てから言いやがれ。お前ティアレにも負けてるじゃねぇか」

「はわわわわわ……、な、な、なんということでしゅか……。ち、ちなみにティアレはいくつなんでしゅか……?」

「……15になりましたけど……」

「はわわわ……、最悪でしゅ……、お先真っ暗でしゅ……。ティアレずるいでしゅ……、裏切りでしゅ……」

「いやぁ……、ずるいって言われても……」


 なんだか、さっきまでのしんみりムードを吹き飛ばすかの様な、急な賑やかさである。


「ガハハハハッ! まぁそんでも腕は保証するぜ。こと楽器に関して、この世界で俺と同じレベルの物が作れるのは、コイツぐらいなもんだろうよ。……、そのあんちゃんのギターとやらを除いて、な」


 テーブルの上に置かれたままの僕のギターを指差すと、親方は急に真剣な顔でそう言った。


「俺ぁどっちにしても、もうそろそろ見切りつけて、アンクーロ辺りで新しい事でも始めようかと思ってた所でな。この『トッド・ムーシカ』もミンクに譲って、『ミンク・ムーシカ』でも何でも、好きな様にやれって話は前々からしてたんだ」

「で、でも、親方――」

「ところが、だ」


 ミンクの言葉を遮って、親方が声を上げる。


「あんちゃんのそのギターを見て、気が変わった」

「えっ!?」


 ニヤリと笑う親方とは対照的に、戸惑いと驚きが混ざったようなミンク。


「そんな凄ぇもん見せられて、すごすごと引き下がる訳にゃあいかねぇ。()()しか脳のねぇ俺が『出来ません』じゃ、プライドが許さねぇ。リガルドの名に掛けるようなもんは持ち合わせちゃいねぇが、これは俺の楽器職人としての矜持の問題だ」

「そ、そ、それじゃあ親方……」

「ああ、こんなとこで立ち止まる訳にゃあいかねぇ……」


 決意に満ちた表情の親方と、涙目ながらも本当に嬉しそうに笑うミンク。

 何よりも親方の、『これしか脳のねぇ俺』という言葉が深々と胸に刺さった……。


「実は……僕も……、()()しか脳が無いんです……」


 そっと相棒のギターに手を置いた。


「……2人共……、手を貸してもらえますか?」

「そうこなくっちゃなぁ!」

「も、も、もちろんでしゅ!」


 2人揃ってガッツポーズを決めた後


「それに、第一な……」


 そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべる親方。


「こと楽器に関して、この2人以上にあんちゃんの助けになれる人間は、この世界にゃあ早々いねぇと思うぞ」


 僕ら4人は、改めて決意の握手を交わすのだった。



「……で、だ」


 仕切り直した僕らに、早速切り出してくる親方。


「店の方は都合が良きゃ、このままここに残すも良し、丸ごとアンクーロに引っ越すも良し、それは追々考えるとして、だ」

「?」

「そのあんちゃんの、()()()()はもちろん聴かせてもらえるんだろうな?」

「あ……」


 そう言えばリュートを弾いただけで、ギター(こっち)も歌もまだ聴かせていなかった。


「イッチーさん、イッチーさん。そういう事なら、ほら……」


 名案とばかりに、ティアレがいつもの人差し指&ウインクを送ってくる。


「あ~……、そうか。どうせいつものがあるのか」

「そういう事ですっ」

『???』


 親方とミンクが、全く話についていけないといった様子で首を傾げている。


「えっと、今夜……じゃあもう遅いか……。夕方……、いや、何ならもう今から僕らと一緒に、『三毛猫亭の酒場』まで来てもらえませんか?


(今までのパターンを考えれば、夕方に行っても、もう入れない可能性すらある。それならいっそ僕らの関係者って事にして、一緒に入ってしまった方が手っ取り早いだろう)


「三毛猫亭の?」

「酒場でしゅか?」

「あんちゃん、それはどういう事だ?」


 相変わらず首を捻っている2人。


「え~っと、それは――」

「それは来てもらえば分かります。ねっ、イッチーさん?」


 僕の説明を遮って、ニッコリと笑うティアレ。


(まぁ確かに、サプライズにしておいた方が、面白そうと言えば面白そうではある)


「何か良く分からんが、とにかく三毛猫亭に行きゃいいんだな?」

「はい。……とりあえず見てもらった方が、早いかと……」

「うふふふふっ、楽しみにしてて下さいね」

「はわわわわわ……、何だかティアレが悪い顔してるでしゅ! 怖いでしゅ!」


 今まで散々僕の騒動に巻き込まれてきたティアレとしては、ようやく仲間が増えて嬉しかったのかもしれない。

 


 ――トッド・ムーシカの店内に、ティアレの『うふふふふ』という笑い声と、ミンクの『はわわわわわ』という情けない声が長く響いていた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ