第十二章 -Treasure hunt- 能無しの俺と、能無しの僕
「そんな訳でリガルドは、東の大陸中心にちったぁ名の知れた一門でな」
全員に飲み物のお代わりが行き渡ると、気を取り直した様に親方は語り始めた。
「大戦が終わって千年も経つってぇのに、未だに戦争し足りねぇバカどもが、まだまだこの世界にゃわんさかいるらしくてな……」
そう言って本当に苦々しそうな顔を浮かべる。
「アンクーロなら、あそこは自由都市だからそんな事もねぇんだろうが、ここは王都の息が掛かってる街だからな。ただでさえリガルドは、東の大陸からはあまり動かねぇ。最近はあちこちでキナ臭ぇ動きもあるらしくてな。要するに俺に武器を打たせる代わりに資金援助してやろう、ってまぁそんな話だ」
肩をすくめると、新しく入れ直したコーヒーを啜る。
「いくら腕が良かろうが、どれだけ優れた楽器を作ろうが、それを使う人間がいなきゃ話にならねぇ……。結局この店ん中に飾ってある楽器も、本当にただの飾りにしかなりゃしねぇ……」
「そんなに演奏者は少ないんですか?」
ずっと気になっている事ではあったけど、楽器を売っている人間に聞くなら、これほど確実で手っ取り早い方法もないだろう。
「ああ、少ねぇ、って言うよりほとんどいねぇ……。まぁ一つ一つが決して安いもんじゃねぇから、食うにゃあ困らねぇが、それでも限度はある」
「親方……」
ミンクが寂しそうに呟く。
そんな空気を変えようと思ったのか、急に親方が楽しげに続ける。
「ミンクはドワーフハーフでな。見た目はこんなチンチクリンだが、これでもとっくに成人してるんだぜ」
『え”っ!?』
小学生ぐらいだと思ってた僕だったが、それはティアレも例外ではなかった様だ。
「チンチクリンって、私これでも親方よりはちょっと大きいでしゅよ! って言うか今2人もビックリしてたでしゅ! ショックでしゅ!」
「そういう事は、もうちっと出るとこが出てから言いやがれ。お前ティアレにも負けてるじゃねぇか」
「はわわわわわ……、な、な、なんということでしゅか……。ち、ちなみにティアレはいくつなんでしゅか……?」
「……15になりましたけど……」
「はわわわ……、最悪でしゅ……、お先真っ暗でしゅ……。ティアレずるいでしゅ……、裏切りでしゅ……」
「いやぁ……、ずるいって言われても……」
なんだか、さっきまでのしんみりムードを吹き飛ばすかの様な、急な賑やかさである。
「ガハハハハッ! まぁそんでも腕は保証するぜ。こと楽器に関して、この世界で俺と同じレベルの物が作れるのは、コイツぐらいなもんだろうよ。……、そのあんちゃんのギターとやらを除いて、な」
テーブルの上に置かれたままの僕のギターを指差すと、親方は急に真剣な顔でそう言った。
「俺ぁどっちにしても、もうそろそろ見切りつけて、アンクーロ辺りで新しい事でも始めようかと思ってた所でな。この『トッド・ムーシカ』もミンクに譲って、『ミンク・ムーシカ』でも何でも、好きな様にやれって話は前々からしてたんだ」
「で、でも、親方――」
「ところが、だ」
ミンクの言葉を遮って、親方が声を上げる。
「あんちゃんのそのギターを見て、気が変わった」
「えっ!?」
ニヤリと笑う親方とは対照的に、戸惑いと驚きが混ざったようなミンク。
「そんな凄ぇもん見せられて、すごすごと引き下がる訳にゃあいかねぇ。これしか脳のねぇ俺が『出来ません』じゃ、プライドが許さねぇ。リガルドの名に掛けるようなもんは持ち合わせちゃいねぇが、これは俺の楽器職人としての矜持の問題だ」
「そ、そ、それじゃあ親方……」
「ああ、こんなとこで立ち止まる訳にゃあいかねぇ……」
決意に満ちた表情の親方と、涙目ながらも本当に嬉しそうに笑うミンク。
何よりも親方の、『これしか脳のねぇ俺』という言葉が深々と胸に刺さった……。
「実は……僕も……、これしか脳が無いんです……」
そっと相棒のギターに手を置いた。
「……2人共……、手を貸してもらえますか?」
「そうこなくっちゃなぁ!」
「も、も、もちろんでしゅ!」
2人揃ってガッツポーズを決めた後
「それに、第一な……」
そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべる親方。
「こと楽器に関して、この2人以上にあんちゃんの助けになれる人間は、この世界にゃあ早々いねぇと思うぞ」
僕ら4人は、改めて決意の握手を交わすのだった。
「……で、だ」
仕切り直した僕らに、早速切り出してくる親方。
「店の方は都合が良きゃ、このままここに残すも良し、丸ごとアンクーロに引っ越すも良し、それは追々考えるとして、だ」
「?」
「そのあんちゃんの、本業の方はもちろん聴かせてもらえるんだろうな?」
「あ……」
そう言えばリュートを弾いただけで、ギターも歌もまだ聴かせていなかった。
「イッチーさん、イッチーさん。そういう事なら、ほら……」
名案とばかりに、ティアレがいつもの人差し指&ウインクを送ってくる。
「あ~……、そうか。どうせいつものがあるのか」
「そういう事ですっ」
『???』
親方とミンクが、全く話についていけないといった様子で首を傾げている。
「えっと、今夜……じゃあもう遅いか……。夕方……、いや、何ならもう今から僕らと一緒に、『三毛猫亭の酒場』まで来てもらえませんか?
(今までのパターンを考えれば、夕方に行っても、もう入れない可能性すらある。それならいっそ僕らの関係者って事にして、一緒に入ってしまった方が手っ取り早いだろう)
「三毛猫亭の?」
「酒場でしゅか?」
「あんちゃん、それはどういう事だ?」
相変わらず首を捻っている2人。
「え~っと、それは――」
「それは来てもらえば分かります。ねっ、イッチーさん?」
僕の説明を遮って、ニッコリと笑うティアレ。
(まぁ確かに、サプライズにしておいた方が、面白そうと言えば面白そうではある)
「何か良く分からんが、とにかく三毛猫亭に行きゃいいんだな?」
「はい。……とりあえず見てもらった方が、早いかと……」
「うふふふふっ、楽しみにしてて下さいね」
「はわわわわわ……、何だかティアレが悪い顔してるでしゅ! 怖いでしゅ!」
今まで散々僕の騒動に巻き込まれてきたティアレとしては、ようやく仲間が増えて嬉しかったのかもしれない。
――トッド・ムーシカの店内に、ティアレの『うふふふふ』という笑い声と、ミンクの『はわわわわわ』という情けない声が長く響いていた……。





