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第十二章 -Treasure hunt- 『トッパード=リガルド=バトス』

「すまねぇミンク、皆にお茶でも入れてやってくれねぇか」

「はいっ、お任せくだしゃい!」

「あっ、じゃあ私も手伝いますよ」


 僕も――、と言い出すよりも前に、ティアレはサッサとミンクと連れ立って奥の部屋へと行ってしまった。

 振り向きざまに目配せしてきた所を見ると、男同士女同士に分けたという事らしい。


 とは言っても、男2人(中身はおっさん2人)何を話したものか暫く無言の時間が流れる。

 奥の方からは、食器のカチャカチャという賑やかな音と、女の子2人の楽しそうな声が聞こえてきた。


「……」

「……なぁ、あんちゃん。……あんちゃん一体何者なんだ……?」

「……え~と、それは、ちょっと僕にも――」

「いや、すまん。今のは忘れてくれ」


 隠す隠さない以前に、この世界で1週間以上が過ぎようとしても尚、僕には状況をどう説明したものか良く分からない。

 『僕はこの世界の人間じゃないんです』なんて言っても、確実に頭のおかしい人認定だろう。

 僕ならあまり関わり合いたくはない。


 でも親方はそんな僕の様子とは無関係に、先に質問を打ち切ってしまった。


「これは俺自身の問題で、あんちゃんが何者とか、そもそも関係ねぇ話だ。すまねぇ、余計な事を聞いた。それに他人の詮索なんて趣味が悪ぃな」

「いえ、別にそんな事全然気にしてないですけど――」

「はい、どうぞ~」

「お待たせでしゅ」


 丁度お盆を持った2人が戻って来た所だった。


「トッド親方はいつもコーヒーらしいので、イッチーさんのもコーヒーにしましたけど、良かったですか?」

「うん、わざわざありがとう」

「ティアレまで手伝わせちまって、悪ぃな」

「いえいえ、好きでやってるだけですから」


 女の子2人は紅茶にしたらしい。

 

「さて……、どこから話したもんかな……」


 全員に飲み物が行き渡り、ミンクが『うんしょ』と言いながら椅子に座った所で、親方はそう独り()ちた。

 どこかここではない遠くを見るような目で、コーヒーを一口啜る。



「……俺ぁ元々、東の大陸の、『アウルム』って土地の出でな……」


 そう切り出すと、親方は語り始めた。

 親方の半生とも言える、長い、長い、昔話を……。



「さっきは言いそびれちまったが、俺のフルネームは『トッパード=リガルド=バトス』。あんちゃん……、はともかく、嬢ちゃんはどこの出だい?」

「レディウス村です」

「そうか……、リガルドの名に聞き覚えは?」

「……すいません、多分ないです」


 すいません、と言ったティアレに対して、親方はなぜか安心したように優しい笑みを浮かべた。


「いいや……、リガルドを知らねぇってのは、ある意味幸せな事かもしれねぇ。それだけ西の大陸はまだまだ平和って事だからな……」

「どういう意味ですか?」

「リガルドってのはな、早い話、500年も1000年も『戦争の道具』を作り続けてきた、頭のおかしい一門だ」

「戦争の……」

「道具……」


 正直僕には言葉の意味は分かっても、イメージは全く湧いてこない。

 平和な日本で生まれ育ってきた人間なら、大抵はそうなのかもしれないが。


「剣、刀、ナイフ、レイピア、槍、弓、弩、ボウガン……。要はいかに効率よく、優れた『人殺しの道具』を作れるか。飽きもせずにそんな事に数千年も情熱を傾けてきた、正真正銘どこか頭のネジの外れた連中さ……」

『……』


 『人殺しの道具』という生々しい響きに、僕もティアレも言葉を失くす。


「人を守る為の道具でもある、なんてぇのは結局詭弁だ。

 最強の矛がなきゃ、最強の盾も必要にはならねぇが、最強の盾だけあっても、最強の矛が必要な理由にはならねぇだろ。

 要するに、脅し、殺し、奪う必要が無きゃ、そもそもそんなにご大層な武器なんて物は必要にはならねぇのさ……。


 獣を狩りその日の糧を得る、魔獣や魔物からその身を守る。

 必要以上に優れた武器なんて物は、大抵ロクな結果にならねぇ……。


 うちはオヤジも、ジイ様も、そのまたジイ様も鍛冶師っていう、代々筋金入りの鍛冶の家系でな。

 俺も例に漏れず、おしめが取れる前から金槌を握ってたような、まぁそんな家だ。


 ただ俺ぁ、ずっと細工師になりたくてな。

 鉄をぶっ叩いてるより、木を彫ったり、革をなめしたり、布を織ったりしてる方が性に合ってた。

 『そんなものは女子供にやらせておけ』、なんつぅオヤジやジイ様とは、それでよくぶつかったもんだった。


 リガルドを継ぐ者は、成人すると自分の工房を持つのが習わしでな。

 ようやく自分の工房を持つ頃にゃ、もうすっかり村一番の変わり者、の出来上がりさ。

 まぁそのお陰で、誰にも邪魔されずに、好きな事が出来るようになったのは有難かったがな。



 それから何年か経ったある日の事だった。

 たまたま旅の吟遊詩人が村に立ち寄ってな。

 もっともさっきのあんちゃんと比べたら、ハナクソみてぇな演奏だったがな。

 名前は『ルドマス』といった。


 ルドマスは腕はへっぽこだったが、まぁ気の良い奴だった。

 俺らは不思議とすぐに打ち解けて、ルドマスの奴も毎日俺の工房に顔を出すようになった。

 暫く村に滞在するって事で、結局は俺の所に転がり込んできたような格好だ。


 ルドマスはとにかく楽器に関する知識が豊富な奴でな。

 元々は楽器の研究者で、それが高じて、自分でも演奏するようになったって話だった。

 俺が奴の持つリュートに興味津々だったのもあったんだろうな。

 それからは、とにかくルドマスの楽器の話を聞くのが、毎日楽しみでしょうがなかった。


 実際奴自身も演奏してる時より、楽器の話をしてる時の方が活き活きしてるような変わり者でな。

 まぁ変わり者同士、息が合ったのかもしれねぇ。

 奴が滞在した数カ月の間、図面を描いたり、試作品を作ってみたり、そりゃあもう楽しかった。

 俺が楽器職人になったのも、ルドマスのせいっつぅか、ルドマスのお陰っつぅか、まぁそんな感じだ。



 奴が村を出て行った後も、結局俺は楽器を作り続けた。

 奴が出て行く前に交わした『次に会う時にはお互いもっと成長していよう』って約束もあったが、それ以上に単純に楽器を作るのが楽しかったってのもあるがな。



 奴との約束が果たされたのは、それから数年後の事だ。

 前と同じように、ふらっと村に現れてな。

 演奏の方は相変わらずだったが、ずっと楽器の研究に明け暮れていたらしい。


 久しぶりの再会って事もあって、その晩は奴の下手クソな演奏を肴に工房で飲んでてな。

 そんな時だった……。



 元々東の大陸ってのは、大戦時にゃ北と南真っ二つに分かれて、派手にドンパチやってたらしくてな。

 その頃の名残なのか知らねぇが、魔族とドワーフは昔からすこぶる仲が悪ぃ。

 恐らく村のどこかの奴隷の子供が、たまたまタイミング悪く抜け出してきた、とかそんなとこだったんだと思う……」

「ど、奴隷って……、でも奴隷は、新神(しんかん)協定で禁止されてるはずじゃあ……」


 初めてティアレがそこで口を挟んだ。

 黙っていられずに、思わず口が出てしまった。ティアレの様子からするとそんな感じだった。


「『表向き』はな……。

 けどそんなのは所詮建前だ。

 手を変え品を変え、世界中のありとあらゆる所で、実際に奴隷は取引されてる……、今でもな……。


 この『ミンク』も元々は奴隷でな。

 訳あって俺が面倒見る事になったが、『ミンク=リガルド=フーワ』。

 リガルドは継がせたもんだが、フーワは俺が勝手に付けたもんだ。

 拾った時、コイツは()()()ミンクだった……」


 そう言って、隣に座るミンクの頭に優しく手を置く。

 ミンクはくすぐったそうにはにかんでいた。


「魔人種の年は良く分からねぇが、……そうだな、多分4歳とか5歳とかそんぐれぇだったんじゃねぇかな……。

 とにかくその子供が扉の影から、リュートを爪弾くルドマスの姿をじっと見つめてやがった。


 俺らはもうすっかり出来上がってた頃だったのもあってな。

 2人してあまり深く考えずに、その子を中に招き入れちまった……。


 ルドマスの奴が一つ音を奏でる度に、目をキラッキラさせながら喜んでてな……。

 俺も調子に乗って、ようやく形になってきた自作のリュートを弾かせてやったりもしちまった。


 村の連中に見つかるまで、そう時間は掛からなかった。

 なんせ石頭通り越して、鉄頭みてぇな連中の集まった村だ。

 『神聖な神具に、汚れた魔族の手で触れるとは何事か!』ってな……。

 普段楽器作りなんて、小馬鹿にして鼻で笑ってるくせによ……。


 あっという間に連れ出されて、囲まれて、袋叩きよ……。


 『ごめんなさい、ごめんなさい』ってその子の泣き声がな……、

 『もう二度と楽器には触りません、許してください』って叫び声がな……、

 10年以上経った今でも、俺の頭から離れちゃくれねぇ……。


 そんな事を許した俺もルドマスも同罪だとかでな。

 ルドマスは外の人間だったから、そこまで酷い事にはならなかったが、俺はその子と一緒でボッコボコよ……。



 ようやく目が覚めた時には、ルドマスの姿も子供の姿もどこにも見当たらなかった。

 その後2人がどうなったのかは、未だに分からねぇ……。


 俺ぁもう、心底そんな村が嫌になってな……。

 逃げるようにして村を出て、コイツを拾ったこの街で、本格的に楽器屋を始めたのが、もう10年も前になる……。


 コイツを拾ったのも、どこかその時の罪滅ぼしの気持ちがあったのかもしれねぇ……。

 跡を継ぐ必要なんかねぇって、散々言ったんだけどな。

 困った事に、コイツは本当に才能がありやがる……。

 リガルドを継がせたのも、決して伊達や酔狂って訳じゃねぇ……」


 そこまで話すと、親方はハーっと長い溜息を一つ吐いた。


「……と、まぁ……俺の昔話はここまでだ……」


 最後にそう言って、すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干した。



 ようやく吐き出せた気持ちからなのか、まるで懺悔を終えた後のように、どこか救われたかのように、


 トッド親方の表情は、少しだけ晴れやかに見えた……。

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