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鮮血の公爵閣下の深愛は触癒の乙女にのみ捧げられる~虐げられた令嬢は魔力回復係になりました~  作者: 束原ミヤコ


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屋台とお肉と人間嫌い



 街の中心は、赤色のランタンやフラッグガーランドで飾られている。

 バイオリンの心が浮足立つような明るい音楽が奏でられていて、酒を飲みながら男たちが演奏者の女性が奏でる曲に聞きほれていた。


 ヴァルドール領にある中規模の街である。ヴァルドール家のお膝元の街よりは小さいが、産業が発展している程度には大きい。

 狩猟と食肉加工、その流通を主に行っている。新鮮な獣肉を求めて多くの人が足を運ぶのだと、アレクシスは言う。


 確かに屋台には、肉を扱う店が多い。骨付き肉のローストや、揚げ鳥、串焼きなどもある。

 内臓煮込みや、ソーセージ、豚の生肉のパテ、巨大な肉を焼いてそぎ落とし、ピタパンにはさんだものなど。

 食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐる。ラティアの腕の中で、ルクエがすんすん鼻を動かしている。


「旦那様はお肉がお好きですか?」

「好き嫌いは特にはない。魔力を維持するために、栄養を取り込む必要がある。必要だから食っている、それだけだ」

「そうなのですね。では、沢山召しあがらないと」

「お前は何が食いたい?」

「私ですか? 私は、なんでも。食べたことのないものばかりで、どれもこれもおいしそうに見えます。まるで、お肉の宝箱のような場所ですね」

「肉の……」

「はい、お肉の」


 アレクシスは軽く眉を寄せると、溜息をついた。

 何かおかしなことを言っただろうかと不安になりながらアレクシスを見上げるラティアの頭を、彼は幼子にするようにぐりぐりと撫でる。


「宝石やドレスなどでお前を飾る必要がある」

「な、何故ですか」

「それがお前にふさわしいと私が思うからだ。肉は宝石ではない」

「それはそうですけれど、お肉、食べたことほとんどないのです。旦那様に食べさせていただいて、こんなにおいしいのかと驚きました」


 幼いころもラティアの父は母やラティアにほとんど金を使わなかったため、肉は贅沢品だった。

 ヴァルドール家の食卓には、恐ろしいぐらいの豪華な食事が並ぶ。

 当たり前だが、ラティアは全く慣れることはない。

 それにしても、活気のある街である。こんなに多くの人々が楽しそうに酒を飲み食事をしていることに、少なからず衝撃を受ける。

 

『皆、楽しそうだね。ラティアの家とは、違う』

「ルクエは、見ていたのですか」

『あぁ。ずっと君の中で眠っていたから、夢の中で見ていただけだけれど。僕は君が力を使うまで、外に出ないという制約を自分にかけていたから』

「ごめんなさい。寂しい思いをさせました」

『そうでもない。君たち人間も夜になると眠るだろう。生命活動を停止させるように。それと同じ』

「せいめい、かつどう……?」

『生きているのに、死んだようになるよね』

「……その犬は、よく喋るのか?」


 ルクエと話し込んでいると、アレクシスがラティアの肩に手を置いた。

 ラティアは慌てながら、こくこくと頷く。

 ルクエの声はアレクシスには聞こえない。彼をのけ者のように扱ってしまったことに気づいて、ラティアは頭をさげた。


「ごめんなさい、旦那様。ルクエが何と言っているか、伝え忘れていて」

「構わん。重要なこといがいは私に話す必要はない。ルクエと言ったか。神獣の役割とはなんだ? 私はそれを知らない。巫女は神官家に秘せられた存在だ。巫女が下界に降りてくるのは、その力を失ったときだけだ。神官家には巫女が生まれるが、下界に降りた巫女が巫女を生んだという話は聞いたことがない」

『僕たちが、リーニエから預かった力を与えている。その力が消えるとき、僕たちも消える。僕たちは大抵神殿の中で生まれる。ラティアは外の世界で生まれた。そういうことも今まではあったけれど、少ない』

「ルクエが私に力を与えてくれているようです。私の力が失われたら、ルクエも、消えてしまう。お母様には神獣がいませんでした。力を失ってしまったからですね。そして私は珍しいらしいです。いつも神殿で生まれるそうです、私のような者は」

「なるほど。では、神獣は特に害があるものではないのだな。神獣とは、魔力の貯蔵庫のようなものか。お前たちの力は人の体には到底収まりきれないものだ。だからその力を、神獣に預ける必要がある」


 アレクシスは得心がいったように頷いた。

 ずっと難しい話をしているようで、ラティアは混乱しながらも頷いた。


「ええと、よくわかりませんけれど、わかりました。難しいですね」

『おおむねあっているよ。でも僕たちもそれ以上のことはわからないんだ。リーニエの慈悲で、巫女に力が与えられている。僕たちは彼女から遣わされた使者。アレクシス、肉は食べないのかな?』

「ルクエが、お肉は食べないのかなって……あぁ、違います、これは、私が食べたいと言っているわけではなくて……!」

「話している場合ではないな。食事にしよう」


 アレクシスが選んだのは、香草がたっぷり入ったテールスープと、肉が詰め込まれたピタパン。

 それに、砂糖がたくさんまぶされたドーナッツに、ガトーショコラ。

 ルクエは肉を好み、甘いものを好む。ぱたぱた尻尾を振りながら食べている様子は、犬にしか見えなかった。


『おいしい。人間は好きじゃないけど、人間の食べ物は好きだよ』

「人間、好きじゃないのですか」

『うん。僕の巫女たちは皆、不幸になったからね』


 ラティアはそれをアクシスに伝えなかった。

 その代わりむぐむぐとピタパンを食べて、「おいしいお肉の味がします」と彼に報告をした。



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