表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鮮血の公爵閣下の深愛は触癒の乙女にのみ捧げられる~虐げられた令嬢は魔力回復係になりました~  作者: 束原ミヤコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/36

予言の巫女



 部屋に荷物を置いたあと、アレクシスはラティアを連れて外に出た。

 宿の一階に食堂が併設されているが、夜は屋台街があると言われて、彼は少し考えるとそこに向かうことに決めたようだ。

 

 メルクを腕に抱いたラティアは、彼の隣で大人しくしていた。

 アレクシスに促されて、宿から出て屋台街に向かう。もう日暮れである。街の至る所に火がたかれ、街を優しく照らしている。夜になると火桶に火を入れるのは、魔竜除けの効果があるからだ。


 少なくとも人々はそれを信じていると、アレクシスは言う。

 彼自身は、信じてはいないようだった。ただ、暗がりに罪人は集まり、明るい場所を忌避する。

 魔竜除けの効果はないが、罪人除けにはなるそうだ。


「旦那様は博識ですね」

『君はよくものを考えている人だね』

「そう、ルクエも言っています」

「……お前は今まで、危険な思いはしてこなかったのか?」


 並んで歩きながら、アレクシスが尋ねてくる。

 ラティアは頷いた。危険な目にはあっていない。この世の中には物を盗む人が多くいると彼は言うが、ラティアはいつでも薄汚れていたので、盗むものなどなにもないように見られていたのだろう。それに、実際そうだったのだ。


「特に、怖い思いはしたことがありません。厩で眠ることは慣れていました。馬たちはあたたかくて、優しいです。ディゼルもとてもいい子ですね」

「そうか。……ならばいい。美しい若い娘が、一人で厩で寝ていることが知られたら、危険なことが起こりうると考えたのだがな。何もなく、なによりだ」

「美しい若い娘……?」

「お前のことだが」


 ぱちぱちと瞬きをしたあと、ラティアの顔が真っ赤に染まる。

 うろうろと視線をさまよわせて、それからルクエをぎゅううっと抱きしめた。

 腕の中のルクエが『ぷぎゅ』と、不思議な声を立てる。


「はじめて言われました。いつも、私は……」

「薄汚いネズミ、と」

「は、はい。綺麗にしていただいたので……ファリナさんたちのおかげです。旦那様にとってご不快ではない姿になっていれば、嬉しく思います」

「シャルリアは美しい人だった。遠目に見たことがあるだけだがな。お前もシャルリアに似ている」

「お母様は綺麗な人でした。綺麗で優しくて、大好きでした。……ありがとうございます、旦那様。旦那様がそうおっしゃってくださると、そんな気がしてきます」


 胸にあたたかいものが広がっていくようだ。アレクシスの声は淡々としていて、そこに世辞や嘘が含まれていないことはよくわかる。

 はにかみながら彼の瞳を見上げると、僅かに動揺が走るのに気付いた。

 すぐに視線を逸らされてしまい、ラティアは首を傾げる。何か不快なことがあっただろうか。


「あ、あの、もうしわけありません。余計なことを言いました」

「そういうわけではない。……お前が力を隠していて、本当によかったと思っている。シャルリアには予言の力があった。お前の未来が見えて、力を隠せと言ったのかもしれんな」

「お母様は、私をお産みになったときには力を失っていました」

「最後に、リーニエからの祝福が与えられたのかもしれない。娘を守れ、と」

『その可能性はある。リーニエの祝福は、神獣が与えるんだ。彼女たちが力を使い果たせば、神獣は死ぬ。神獣が弱り、死ぬことで、リーニエの祝福が弱まり消えることを巫女は知る。シャルリアの神獣は、予言の神獣と呼ばれている。僕が、癒やしの神獣というように。神獣はシャルリアを憐れんで、最期の力を使って彼女に未来を見せたのかもしれない』


 ラティアはアレクシスに、ルクエの言葉を伝えた。

 アレクシスは「ただの想像でしかないが」と言った。

 ラティアは彼の言葉を聞きながら、ルクエの死について考えていた。

 できればそれが起こるのは、アレクシスのために力を使い果たした時がいいと思いながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ