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ぐうたらエルフののんびり異世界紀行 ~もふもふと行く異世界食べ歩き~  作者: キミマロ


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第67話 新たな街と白樹様

「見えてきたぞ、シェラルの街だ!」

「おぉー!! 綺麗なとこじゃん!」


 海路を行くこと二週間。

 とうとう、水平線の彼方に港町が見えてきた。

 あれが私たちの目的地であるマーセル王国はシェラルの街らしい。

 街並みはウェブルの街と少し似ているが、こちらは地形がかなり開けていた。

 そして、街の西側には大きな砂浜が広がっている。

 ウェブルの街と比べると、かなりリゾートっぽさがあるなぁ。

 空気もどことなくからっとした感じだ。


「確か、お二方の目的地は魔境でしたね?」

「うん、そうだよ」


 私がそう答えると、船長さんはスゥッと街の奥を指差した。

 そして、いささか険しい顔をして言う。


「魔境へ行かれる前に、温泉に行くのはどうでしょう? 船旅でお疲れでしょうし」

「温泉!?」


 そう聞いては、元日本人として黙っていられない。

 私はたちまち、前のめりになって食いつく。


「その温泉、どこにあるの?」

「街の近くにありますよ」

「それはぜひ行かなきゃね!」


 こうしてあれこれと話しているうちに、船はゆっくりと港へ入っていった。

 そして錨が沈められ、わずかな揺れとともに埠頭へと接岸する。


「じゃあ、行ってきます!」

「皆さん、お世話になりました!」

「わう、わう!」


 三人そろって、船長さんたちに頭を下げる。

 この二週間、いろいろとお世話になったからね。

 すると船長さんたちの方もまた、名残惜しむように言う。


「ではまた! ウェブルの街へぜひ!」

「うん、会頭さんにもよろしくね!」


 こうして私たちは船を降り、シェラルの街へと入っていった。

 おー、これはウェブルの街以上に賑やかかも!

 大通りには人が溢れていて、向こうでは見かけなかった冒険者らしき人も数多くいた。


「この街から魔境までは、歩いて三日ほど。ここを拠点にしてる人も多いみたいですね」

「うん、いい場所に来れたよ」


 マーセル王国の魔境『大樹の森』は、シェラルの街からまっすぐ北へ三日ほど行ったところにある。

 魔境の入り口のあたりに小さな町があるそうだが、ここで装備を整える冒険者も多いのだろう。

 通りにある店のラインナップも、冒険者を意識したものが多い。

 武器防具の店はもちろんのこと、研屋から魔道具屋さんまである。


「これはなかなか見てて飽きないね」

「ララート様が料理以外のことに興味を持っている……!?」

「失敬な。他のことにも興味あるよ」


 そう言うと、私は目についた雑貨屋さんへと入った。

 おー、いろいろと置いてあるね!

 様々な雑貨が狭い店内にぎっしりと並べられ、圧迫感があるぐらいだった。

 中でも一押しはガラス細工のようで、グラスや花瓶などはもちろん、フィギュアのようなものまで置かれている。


「へえ、綺麗ですね!」

「おぉ、この花とか凄いね!」


 ガラスで出来た花瓶に、これまたガラスで出来た造花が差されていた。

 それに陽光が当たって、キラキラと美しく輝いている。

 こういうの、トゥールズの街やウェブルの街にはなかったなぁ。

 観光地っぽいだけあって、こういうところからもどことなくハイソな気配がするね。


「あ、見てください! あそこに大きな時計がありますよ!」

「おぉー、時計塔だ!」


 お店の窓から、広場の奥に大きな時計塔が聳えているのが見えた。

 塔全体は白い石造りで、時計の文字盤は青い石で出来ている。

 えーっと、地球で言うところのゴシック様式ってやつだろうか?

 かなり重厚な造りで、築百年以上は経っていそうな雰囲気だ。

 さらにそのてっぺんには天使の彫像が飾られていて、迫力満点だ。


「おや、あれは何ですかね?」

「噴水じゃない?」


 やがて私たちの視線は、時計塔からその前にある広場へと移った。

 広場の中心には、大きな木を模したようなオブジェが聳えている。

 四方八方に枝を伸ばすその姿は、力強い生命力を感じさせた。

 それでいて幹や枝は真っ白なのが、どこかアンバランスで美しい。


「何だか魅力的な木だね」

「はい、見た目は全然違うんですけど大樹様に似てるような?」


 大樹様というのは、エルフの里の中心に聳えている大木だ。

 樹齢は五千年以上とも言われていて、聖なる魔力で里を守ってくれている。

 私たちエルフにとっては、ある種の神様のような存在だ。


「言われてみれば……。あの独特のオーラみたいなのが感じられるかも」

「あれは白樹様じゃな」

「わっ!」


 ここでいきなり、店の奥から老婆が出てきた。

 高い鉤鼻に鋭い目つき、そして顔全体に刻まれた深いしわ。

 どことなく魔女みたいな雰囲気の人物だ。

 彼女はカカカと不気味な笑みを浮かべながら、私たちに語り掛けてくる。


「あんたたち、耳からしてエルフさな?」

「うん、そうだよ」

「なら、あのオブジェに力を感じても不思議じゃないねえ。あれはな、魔境の森の白樹様を模したものじゃ」

「白樹様?」

「そうじゃ。魔境の中心に聳える、恵みをもたらす特別な力を持った木じゃよ」


 恵みをもたらす木か。

 道理で、大樹様と似た気配を感じたわけだね。

 ひょっとすると、何か繋がりでもあるのかもしれない。


「へえ……ぜひとも見てみたいねえ」

「そうですね!」

「ほう? 魔境へ行く気かえ?」

「うん! まぁ、その前に温泉によって疲れを癒していくつもりだけど」


 私がそう言うと、老婆はほうほうとうなずいた。

 そして、広場の端を指差して言う。


「温泉ならば、そこの道を抜けて行くと近いぞ」

「ありがとう。ああそうだ、これちょうだい」


 いろいろと教えてもらったので、流石に何か買っていかないと失礼である。

 そう思った私は、手近に置かれていた兎のガラス細工を手に取った。

 手のひらにすっぽりと収まるほどの大きさで、とても可愛らしいものである。

 家に置いてあったら、テンションが上がりそうな感じだ。

 ま、今の私たちには家はないんだけど。


「こういう小物を置くための拠点ぐらいはあってもいいかもなぁ」

「おうちですか?」

「そうそう。物置兼たまに帰ってくるぐらいのおうち」

「確かに。おうちがあれば、ハーブとかお野菜とか育てられますね!」


 何ともエルフらしい返答をするイルーシャ。

 そうなると、家を建てる場所は森の中かなぁ。

 あんまり不便だと旅に出る時に大変だし、できれば便利な場所にしたいよね。

 いっそ、魔境の近くとかも割とありかもしれない。


「それなら、銀貨二枚だよ」

「どうぞ」

「毎度あり。気を付けて行きな」


 こうして店を出た私たちは、老婆の教えてくれた通りをまっすぐに進むのだった。

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