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ぐうたらエルフののんびり異世界紀行 ~もふもふと行く異世界食べ歩き~  作者: キミマロ


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第66話 いざ旅立ち!

 あれから三日後の朝。

 秘書さんから連絡を受けた私とイルーシャ、そしてフェルは待ち合わせ先として指定された埠頭へとやってきていた。

 さてさて、私たちが乗る船はいったいどれかな?

 かなり大きな船だと聞いているが、実物はまだ見たことないんだよね。

 朝霧に包まれた岸壁を、散歩ついでにのんびりと歩く。

 日が昇る寸前、白い靄に包まれた海と町はとても幻想的な雰囲気だった。


「お二方、こちらです!」


 やがて、埠頭の先の方から声がかかった。

 そちらに歩いていくと、やがて霧の中から大きな船影が見えてくる。


「おぉー、こりゃ立派な船だ!」


 お魚を思わせるような細身で大きな船体。

 そこから二本のマストが高く伸び、帆が船体に沿うように縦方向に設置されている。

 えーっと確か、こういう形の船はスクーナーって言うんだったっけ?

 全体的にシュッとした感じのデザインで、とても速度が出そうだ。

 さらに船首の部分には女神を模したような彫像が飾られていて、高級感がある。

 なんというか、お金持ちのクルーザーの超豪華版って感じだ。


「まさか、こんないい船が借りられるなんて」

「ちょっと驚いたね!」


 こんなにいい船を貸してくれるなんて、流石は街一番の大商人。

 とっても気前がいいじゃないか。

 私が腕組みをして満足げな顔をしていると、甲板から会頭さんが声をかけてくる。


「こちらです、どうぞ!」

「はーい!」


 こうして私たち三人はタラップを昇って甲板へと移動した。

 うーん、風が気持ちいい!

 甲板の上は高さがあるせいか、海風が心地よく吹き抜けていた。

 陸地から沖に向かって、ちょうど順風である。

 その冷やっこい風に目を細めていると、水平線の向こうから太陽が昇ってくる。


「よーし、旅立ちだね!」

「はい!」


 天気は快晴、風もよし。

 まさに旅立ちには絶好の日和だろう。

 それもこれも、私の日頃の行いが良かったからだね!

 のんびりとそんなことを考えていると、やがて後ろから声が聞こえてくる。


「おーーい!」

「あ、リュート! もしかして、見送りに来てくれたの?」

「ああ!」

「俺たちもいるぜ!」


 いつの間にか、岸壁にはウェブルの街で知り合った人たちが大集合していた。

 霧に隠れていて見えなかったけど、わざわざ私たちの旅立ちに合わせて集まってくれたらしい。

 こんな見送りをしてくれるなんて、ちょっと感動だなぁ……!

 朝早くから集まってくれたみんなの姿に、目頭が熱くなってくる。

 涙もろい方ではないけど、これは流石に心にくるよ。


「そうだ、これを受け取ってくれ!」


 やがてリュートが布にくるまれた何かを取り出した。

 彼は急いでタラップを昇ると、私にそれを差し出してくる。

 受け取ってみると、ずっしりとした重さがあった。

 とっさに身体強化を掛けなければ、落としてしまいそうなぐらいだ。


「なに、これ? 重たいけど」

「開けてみてくれ」

 

 言われるがまま布をほどくと、中から出てきたのは大きな瓶詰であった。

 おー、ダスチの砂糖漬けだ!

 しっかりと熟して黄色くなったダスチが、これでもかというほどギッシリ詰め込まれている。

 そりゃ重いわけだよ、たっぷりだもん。


「船じゃ壊血病が怖いからな! 毎日一個ずつ食べてくれ」

「ありがと! いやー、リュートはいい旦那さんになるわー。こういう気づかいができる子はなかなかおらんて」

「……急にばあちゃんみたいなこと言うな」

「年齢的にはおばあちゃんだからね」


 かれこれ何百年も生きてるんだから、そりゃたまにはおばあちゃんっぽくもなるよ。

 リュートの方はどう思っているのかわからないが、私からしたら完全に孫感覚だし。

 今の私の見た目で、孫ってのも変な感じだけどね。


「それと、あのさ」

「なに?」

「船長とも話し合ったんだけど……。昨日のお金で冒険者学校に通い直すことにしたんだ」

「へえ! そりゃいいじゃん!」


 私が渡したお金で夢を叶えようなんて、素敵じゃないの。

 あまり好きそうでなかった漁師の仕事も、真面目にこなしているリュートのことだ。

 学校で魔法を学んで冒険者となれば、それなりに成功するだろう。

 あの泳ぎっぷりを見る限り、身体能力も高そうだしね。

 魔力については、まあこれから鍛えれば行けそうって感じかな。

 努力次第だけど、資質はそんなに悪くないと思う。


「だから、必ず立派な冒険者になってお金は返します! 必ず!」

「……わかったよ」


 そこまで言われたら、お金は受け取ってあげる方がいいだろう。

 リュートにとっても頑張るモチベーションになるだろうしね。

 私は微笑みを浮かべると、リュートの額をちょんと指で突いて言う。


「でも言っとくけど、私への返済は大変だよ? 美味しいものを探して、世界中どこへでも行っちゃうからね!」

「ああ、ちゃんと探し出して返すさ」

「じゃ、期待して待ってるからね」


 ふふふ、そのうちリュートが返しに来るのが楽しみだ。

 十年後かな、それとも二十年後かな?

 仲間と一緒に尋ねて来てくれたりしたら、嬉しくて泣いちゃうかも。

 今からすっごく楽しみだなぁ……。

 それで一緒にご飯を食べてお酒を飲んだりしたら、思い出話に花が咲きそうだ。


「おーい、出発するぞ!」

「わかった! じゃあ、またな! 絶対、絶対にまた会い行くから!」

「うん!」


 船員さんに声を掛けられ、大慌てで船を降りるリュート。

 それと同時にゆっくりと錨が引き上げられ、畳まれていた帆が広げられた。

 大きな船が、ゆっくりゆっくりとではあるが岸を離れていく。


「元気でなー!」

「また、飯でも食いにこーーい!」


 大きく手を振りながら、声を張り上げる街のみんな。

 やがて彼らの後ろに大きな旗が現れた。

 お、あれは大漁旗だ!

 その場に集まった漁師さんたちが、それを大きく振り回す。


「また、必ず辛子漬けを食べに戻ってくるね!」

「みなさーん、お元気で!」

「わん、わん!!」


 岸の方を見ながら、三者三葉に声を上げる私たち。

 こうしてウェブルの街での一件を終えて、いよいよマーセル王国へと向かうのだった。


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