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ぐうたらエルフののんびり異世界紀行 ~もふもふと行く異世界食べ歩き~  作者: キミマロ


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第65話 仲直りと船

「あー、幸せいっぱい……」

「ですねえ」


 ほんとに、この辛子漬けは食べないと人生損する味だったね!

 こうして、おいしいものを食べながら皆でのんびりとしている時だった。


「あっ……」


 ここで、リュートのハッとしたような声が響いた。

 振り向けば、お店の入り口のあたりに船長さんたちが立っている。

 どうやら彼らも、この店に辛子漬けを食べに来たようだった。


「リュート、お前も来てたのか」

「まあね。辛子漬けは俺の大好物だし」


 お互い、何とも言えない空気を醸し出すリュートと船長さん。

 あー、この二人っていろいろと仲悪そうだったもんなぁ。

 テイオウイカの討伐が終わった後も、まだ仲直りしていなかったらしい。


「……まぁ、とりあえず船長さんも食べたら? 美味しいよ」

「ああ、そうだな」


 私の勧めに従って、船長さんたちもまた辛子漬けを注文した。

 こうしてテーブルの上に運ばれてきた辛子漬けを、船長さんはゆっくりと口に運ぶ。

 すると――。


「……うめえ。こんなにうめえのは初めてだな」


 しみじみとした口調でつぶやく船長。

 やがて彼は、リュートの方へと振り向いて言う。


「すまなかったな」

「え?」

「ぜんぶ、お前の言っていた通りだったな。だからその……申し訳なかった」


 そう言うと、船長はリュートに向かって頭を下げた。

 あの船長さんが自分から謝罪するなんて、ちょっと驚きである。

 頑固なおじさんだと思っていたが、そうではなかったらしい。


「……謝るなら、俺じゃなくて爺さんしてくれよ。ほら吹き呼ばわりして」

「そうだな。爺さん、すまなかった」

「そう言えば、そんなこと言われたのぅ……。まあ気にしておらんから、頭を上げてくれ」

「ありがとう」


 許して貰えて、ほっと胸を撫で下ろす船長さん。

 うんうん、良かった良かった!

 喧嘩していても、いいことなんて何もないもんね!

 こうしていると、今度はリュートの方が少しばつの悪そうな顔をして切り出す。


「俺も悪かったよ。冒険者学校を辞めることになって、ちょっと不貞腐れてたんだ。それで必要以上にヤバいって煽って……」

「お互いに、悪いところがあったってことだな」


 そう言うと、船長さんはリュートに向かって手を差し出した。

 リュートはそれを取り、固く握りしめる。

 二人とも、多少のわだかまりはあれど仲直りすることが出来たようだ。


「よーし、今日は記念日だね! せっかくだし、ご馳走をいっぱい食べちゃおう!」


 そう言うと、私は財布の中から金貨を取り出した。

 そしてそれを店長さんに向かってほいっと投げ渡す。


「これでいろいろ作って!」

「いいのか?」

「うん! あぶく銭みたいなもんだし、こういうのは気前よく使わなきゃね!」

「わかった!」


 腕まくりをすると、すぐさま厨房へと戻っていく店長さん。

 その背中を見送ると、私は改めてみんなに言う。


「今日は私のおごりだよ! いっぱい食べてね!」

「おぉ、そりゃ最高だな!」

「ははは、食えるだけ食うぜ!」


 こうして、次々と運ばれてくる料理をこれまた豪快に食べていく海の男たち。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていくのだった――。


――〇●〇――


「え、船を貸してくれるの?」


 白帆亭での一幕から数時間後。

 改めてトーマス商会を訪れた私たちに、会頭さんは予想外の一言を告げた。

 マーセル王国へ向かう私たちのために、船を貸してくれるというのだ。


「前にも言ったと思うが、私が個人で所有している船があってな。そちらをお貸ししよう」

「マーセル王国って、けっこう距離あるけど……大丈夫?」


 定期船を待つ間、私たちもマーセル王国までの航路についてはある程度調べていた。

 外洋の島々を抜けてマーセル王国の港町シェラルへと至る航路は、おおよそ二週間ほどかかる。

 いくら町一番の商会の会頭とはいえ、それだけの長旅が出来る船を持っているのだろうか。

 そう思っていると、脇に立っていた秘書さんが眼鏡をくいっと持ち上げて言う。


「問題ありません。会頭の保有しているマーメイドラグーン号は東方への航海にも使える巨船です」

「そりゃすごいや。そんなのを個人で持ってるんだ」

「これでも、それなりの資産は持っているのでね。また何か困ったことがあったら、ぜひ頼ってほしい」

「うん、そうさせてもらおうかな」


 お金持ちとのコネなんて、作れるときに作っておくに限るからね。

 また何かあったらうまく活用させてもらおう。


「では、船をお借りになるということでよろしいですね?」

「お願いします!」


 私はそう言うと、会頭さんとぎゅっと握手をした。

 するとすかさず、秘書さんが提案してくる。


「では、準備をいたしますので出航まで三日ほどお待ちください」

「やった! これでいよいよ、マーセル王国へ行けるね!」


 嬉しさのあまり、よっしゃとガッツポーズをとる。

 三か月待ちだったのが、一気に短縮だ!

 これでとうとう、魔境へ行けるぞー!

 魔境には強いモンスターがいっぱい、つまりおいしいものがいっぱい!

 ご馳走の数々を想像して、思わず口の端からよだれが溢れる。


「……イルーシャ様!」

「あ、ごめんごめん!」


 いかんいかん、ついうっかりね。

 すかさずハンカチで口の周りを拭くと、秘書さんが呆れたような顔をしていた。

 ……その視線の冷たさに、私はたまらずシュンとする。

 美人が怒ると怖いというが、その典型だね。


「と、とにかく! 船のことはよろしくね!」

「ああ、任せておいてほしい。万事、整えておこう」


 こうして私たちは、船を借りる約束をしてトーマス商会を後にするのだった。


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