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ぐうたらエルフののんびり異世界紀行 ~もふもふと行く異世界食べ歩き~  作者: キミマロ


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第64話 極上の味

 あれが、テイオウイカの辛子漬けか……!

 皿に盛りつけられたものをパッと見た感じは、イカそうめんのようだった。

 しかし、その色はルビーのような透明感のある美しい紅。

 見た目はまるで、宝石か何かのようだ。


「うわぁ……綺麗ですね……!」


 食べる前から、うっとりとした顔をするイルーシャ。

 私も、吸い込まれるような紅の色彩に目を見張る。


「でも、こんなに赤いと辛くないかな?」

「だ、大丈夫だと思いますよ。街の名物なんですし」

「それは確かに……」


 そうは言いつつも、お互いに一度はえらい目に合っているのである。

 なかなか安心しきることはできなかった。

 だがそうしているうちにも、店長さんとウェイトレスさんは皿を各テーブルに配膳していく。

 そしていよいよ、私たちの前にもテイオウイカの辛子漬けが置かれた。

 するとたちまち、ふわっと食欲をそそる香りが漂ってくる。


「……んん、いい匂いですね」

「これは……なんかキムチみたいだなぁ」

「キムチ?」

「ああえっと……お野菜の漬物の一種? 遠方のお料理だよ」


 危ない危ない、またうっかり日本の言葉を使ってしまった。

 いや、これは韓国の言葉なのか?

 まあとにかく、イルーシャに変な疑いを持たれないようにしないとね。


「さて……いよいよ……食べますか」

「ですね」


 フォークを手にすると、私はゆっくりとイカの身に刺した。

 ――サクッ!

 ねっとりとした感触かと思いきや、想像以上に固い。

 これは、水分がほどよく抜けてるのかな?

 固めの寒天みたいな感じで、食感もなかなか楽しそうだ。


「……んん!!」


 新鮮なイカ独特のストンと切れるような歯ざわり。

 直後、口の中いっぱいに濃厚な旨みと辛さが広がった。


「おぉ……!!」


 これぞ、まさに旨辛だ!

 噛めば噛むほど溢れ出す旨みを、程よく抑えられた辛さが引き立てている。

 山椒も少し入っているのかな?

 舌がしびれるような独特の刺激があった。

 でも決して不快ではなく、むしろ食欲をぐいぐいと増進させる。

 食べているのに、お腹が減ってくるような不思議な感覚だ。

 この味わいは、絶対に他では楽しめないだろう。

 テイオウイカという食材の性質があってのものだ。


 ――つるん!


 最後に名残惜しさを感じつつもイカを飲み込むと、そののど越しは何とも心地よかった。

 つるっとしていて、そうめんみたいな感じである。

 しかも、辛いものに独特の喉に残るような刺激もない。

 あとには心地よいイカの旨味だけが残されていく

 すごい、後味まで完璧じゃないか!

 むしろ、噛まずに飲み込んでのど越しを味わいたいぐらいである。

 いや、でも噛めば噛むほど味が出そうな感じもあるし……。

 うぅ、なんて幸せな悩みなんだ。

 私にはとても選べないよ!


「これは、ちゃんとハードルを越えてくれたよぉ……」


 私の過剰な期待に、見事答えてくれたテイオウイカ。

 その美味しさに、もはや感謝の念しか湧いてこない。

 私はそのまま手を合わせると、無言で涙を流し始める。


「ラ、ララート様?」


 まだ辛子漬けを食べていなかったイルーシャが、驚いたような顔でこちらを見た。

 それに対して、私は黙ってサムズアップをする。

 ――食べればわかる。

 そう、渋いおじさまの声で語り掛けたいような心情だ。

 いや、私は幼女だし声高いんだけどさ。

 何かそういう心境なのだ。


「いただきます……」


 私の無言の圧力に押されて、イルーシャもまた辛子漬けを口に入れた。

 ――パクッ!

 小さなお口にイカが入った途端、イルーシャの顔つきが変わった。

 眼が大きく見開かれ、ハッとしたような表情だ。

 そしてその直後、限界まで開かれた目が今度は心地よさそうに閉じられる。


「食感が最高ですね……! 噛むほどに旨味も出てきて……!」

「でしょ! 新鮮なイカならではだよね!」

「はいぃ……。それに……あの唐辛子がこんなにおいしく……」


 辛子漬けを噛みしめながら、とろけた表情で語るイルーシャ。

 あ、いつものモードに入ってるな。

 ふにゃふにゃっとしたイルーシャの顔は、何とも言えない色気があった。

 どことなく官能的な感じである。

 そんな彼女を見た周囲のおじさんたちは、たちまちにやーっと生温かい目をする。


「こらっ! みんな食べ物に集中して!」

「わはは、すまんすまん!」

「いや、あんまり可愛いもんだから」


 まったく、油断も隙もあったもんじゃない!

 イルーシャをそういう目で見て良いのは私だけなんだからね!

 師匠の特権を勝手に冒さないでもらいたい。

 私がそんなことを考えていると、イルーシャの白い喉がごくんっと動いた。

 そして小さなお口から、ふぅっと吐息が漏れる。


「舌に残る刺激も……いぃ……!」

「良かったね、イルーシャ。私も大満足だよ」

「わんわん!」

「お、フェルも起きたね!」


 いつの間にか、酔っぱらった状態から復活していたフェル。

 彼はささっとテーブルに昇ると、辛子漬けを口に入れた。

 途端にその眼が大きく見開かれ、持ち上がった頬が満面の笑みを形作る。


「わうぅーん!!」

「あはは、フェルが遠吠えした!」

「美味しかったですねえ、よしよし」


 テーブルの上で声を上げるフェル。

 その背中を撫でながら、私たちは幸せいっぱいになるのだった。

 ほんとに、この辛子漬けは食べないと人生損する味だったね!

 私はほっぺたを撫でながら、満足感に浸るのだった――。


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