第60話 イカ祭り!
「こりゃすごい。思った以上だね!」
「ですね、びっくりです!」
翌日の朝。
私とイルーシャは街の通りを歩きながら、その変わりように少し驚いていた。
昨日まではなかったイカを模した飾り物や食べ物の屋台が、そこかしこに出ていたのである。
そして、通りの入り口付近には『第一回 テイオウイカ祭り』と書かれた横断幕が掲げられている。
いやー、宴会でもやって街のみんなで食べようって提案したのは私だけど……。
まさかたった一日で、ここまでしっかりした催し物を準備してしまうとは。
間違いなく、トーマス商会の会頭さんの仕業だろう。
「ちょうど、街に滞在していたお客様も多くいらしたので。祭りにすれば大きな利益が見込めるだろうとのご判断です」
「わ、秘書さん!?」
いつの間にか、私たちの隣に会頭さんの秘書さんが立っていた。
この人、気配を全く感じなかったぞ!?
驚く私たちを横目に、秘書さんは眼鏡をクイッと上げて説明を始める。
「むしろ、この規模の祭りでもあれだけの量のイカを消費しきるのは難しいでしょう。余った分については、既に肥料にするということで近隣の農家と話がついています」
「流石、お仕事できるなぁ……。こんな秘書さん欲しい」
「わたくしではなく会頭の指図です。それから、こちらが今回の報酬となります」
そう言うと、秘書さんは懐からずっしりと中身の詰まった頭陀袋を取り出した。
それを受け取ると、私はたちまちその重さに驚く。
「うわ、これもしかしてぜんぶ金貨?」
「はい。街の脅威となったであろうテイオウイカを排除していただいた上に、祭りの食材もほぼすべて提供していただいたようなものなので」
「それにしても、ちょっと多くない?」
持ってみた感じ、袋には金貨が数十枚は入っていそうである。
家が買えるぐらいの金額ではなかろうか。
大物を倒したとはいえ、まだ街に被害が出る前の段階でこれだけの報酬を出すのはちょっと怪しい。
すると秘書さんは、微笑みながら言う。
「テイオウイカに襲われそうになっていた輸送船がありましたよね?」
「うん、あったね」
「実は、あの船は我がトーマス商会が所有していた船なのです。もしあれが沈められていたら、莫大な損失が出るところでした」
「あー、でっかい魔石を積んでたみたいだもんね」
海中からでも存在を察知されるほど大きな魔石である。
とんでもない価値があることは想像に難くない。
船自体もあれだけ大きなガレオン船なのだから、沈んだら大損害だっただろうしね。
「そう考えると、もうちょっと貰ってもいいのかも?」
「ララート様、強欲はいけませんよ。だいたい、そんなにお金を貰って何に使うんですか?」
「そりゃもちろん、食費?」
私がそう答えると、イルーシャは額に手を当ててため息をついた。
……常識人ぶってるけど、そういう自分だって最近はおいしいもの食べてるくせに。
「それから、お三方はマーセル王国へ行く予定だったとか」
「良く調べたね、そうだよ」
「そのことについて、会頭からご提案があります。あとで商会に来てください」
「うん、わかった」
私がそう言ったところで、秘書さんは軽くお辞儀をして立ち去った。
ふふん、臨時収入もあったことだし後はお祭りを満喫するだけだね!
いったい何から食べようかなぁ。
辛子漬けは一番楽しみだから後に取っておくとして、どこから攻めよう?
とりあえず、通りを歩いて目についたお店に入るとしようかな。
そう思ってぶらぶらと歩いていると、不意に香ばしい匂いが鼻をつく。
「くぅん……!」
「いい匂いですね、何の匂いでしょう?」
「この匂いと煙は……! イカ焼きだ!」
すぐさま、煙を出している屋台へと走る。
するとやっぱり、焼いていた……イカ焼き……!
しかも、BBQ用のコンロみたいなものを使って炭火で焼いている。
「うわああ……!」
はんぺんのような三角形に切られたイカが、三つずつ串に刺されていた。
その表面には醤油のような黒い液体が塗られ、じゅわっと音を立てている。
この間、船の上でお刺身を食べるときに漁師さんたちが使っていた魚醤だろうか。
漂ってくる匂いと煙が、もうたまらない。
こんなのもう、視覚と嗅覚への暴力だよぉ!
たちまちよだれが溢れてきて、お口の中が洪水状態だ。
「お、どうだい? テイオウイカの浜焼きだ、うめえぞ」
そう言うと、おじさんは匂いや煙が私たちの方へと流れるようにうちわで風を送った。
わざわざそんなことされなくたって、答えは決まってるじゃん!
「とりあえず、いま焼いてあるのぜんぶちょうだい!」
「ぜんぶ? 五本もあるぞ?」
「いいからさ!」
私はそう言うと、さっきの頭陀袋の中から金貨を取り出した。
そしてそれをおじさんに握らせると、有無を言わさずイカ焼きをぜんぶ手に取る。
「ちょ、ちょっと多すぎるよ!」
「いいって、おつりは取っといて!」
「それにしたって……」
「お祭りだからいいの」
そう言うと、私は手にしたイカ焼きをイルーシャに渡した。
ついでに、尻尾をぶんぶんと振って物欲しそうな顔をしているフェルにも見せる。
「欲しいの?」
「わうっ!」
「持てる?」
私が尋ねると、そう尋ねると、フェルは当然とばかりにイカ焼きを口にくわえた
そして前脚を使って、器用にイカ焼きを食べていく。
「わううぅ!!」
「おー、フェルの口にあったみたい!」
よっぽど気に入ったのだろうか?
犬だというのに、猫のような甘えた声を出しながらフェルはその場でゴロゴロと転がり始めた。
どうやら、焼けた魚醤の匂いがいいらしい。
イカ焼きに鼻を近づけて、それはもう幸せそうな顔をしている。
「熱いうちに、私達も食べよ」
「はい!」
こうして、私達もイカ焼きにかぶりつくのだった。
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