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ぐうたらエルフののんびり異世界紀行 ~もふもふと行く異世界食べ歩き~  作者: キミマロ


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第57話 秘策

「なんだ、これ?」


 その日の夕方、港の端の小さな倉庫にて。

 船の修理を終えたばかりのリュートは、私たちが運んできた唐辛子の樽を見て驚いた顔をした。

 まぁ、経緯を知らなければこの反応も当然だろう。

 私だって、同じ立場ならどうしてこんなものを買ってきたのか不思議に思うに違いない。


「唐辛子の樽だよ」

「唐辛子? あの辛いやつか?」

「そうだよ。これを海にばら撒いて、あのお化けイカに食べさせようってわけ。そうすれば、むせて水鉄砲を撃てなくなるはず」

「そんな上手く行くかなぁ……」


 呆れたような顔をするリュート。

 私はすかさず樽を空けると、中の粉を少し舐めてみるように促した。

 リュートはそっと人差し指を伸ばして粉を付けると、おっかなびっくりといった様子で舐める。

 するとたちまち、その顔が耳まで赤くなった。


「くぁっら!!」

「はい、牛乳」


 あまりの辛さに悶絶したリュートに、私はすぐさま牛乳の入った木のコップを差し出した。

 リュートはそれを奪うように受け取ると、一気に口へ流し込む。

 ――ゴクゴクゴクッ!

 豪快に喉を鳴らし、リュートは大きなコップになみなみと注がれていた牛乳を一息で飲み干した。

 お腹がチャポチャポになっちゃいそうだ。


「なんだよこれ、辛すぎだろ!」

「これなら、あのどでかいテイオウイカにも効くと思わない?」

「……まぁな」


 身をもって辛さを体感したおかげか、リュートは大人しくうなずいた。

 しかし、今度は樽と船を見比べて言う。


「けど、この船にそんな樽をいくつも載せたら沈んで動けないぜ。浮かびはするだろうけど」

「そのために、今日はこの子に来て貰ってるから。おいで」


 私はそう言うと、倉庫の入り口の方を見た。

 その視線に合わせるように、小型犬サイズのフェルが姿を現す。


「わんわん!」

「よしよし!」


 足元に来たフェルを抱きかかえると、どうだと言わんばかりにリュートに見せつけた。

 するとリュートは、よく意味が分からないとばかりに首を傾げる。


「この間の犬じゃないか。その犬がどうかしたのか?」

「この子に船を引っ張ってもらおうと思って。フェルは犬かきも得意だもんね?」

「わん!」

「犬かきも得意って……小さすぎんだろ」


 自分の腰よりも背が低いフェルを見下ろして、おいおいと肩をすくめるリュート。

 するとフェルはそれが気に入らなかったのだろう、一吠えするとすぐに身体を大きくし始める。


「わわっ!?」


 あっという間に、フェルは私たち二人が乗れるほどのサイズとなった。

 そのあまりの変化に、リュートはたまらず腰を抜かしてしまう。


「驚いたでしょ。この子は精霊獣だからね」

「すっげえ……。確かにこのサイズなら、船も引っ張れるかもな」

「でしょ? じゃあさっそく……」


 私は倉庫の端に置かれていた縄で、フェルの身体と船をしっかりと繋いだ。

 そうしている間に、リュートとイルーシャは樽を船の上へと詰め込む。

 こうしてものの数分で、出発の準備が整った。

 気が付けば日も沈み、夜行性のイカが活動を始める頃である。


「おぉー、今日は満月だね」


 夜空に煌々と輝く月を見上げると、私はたちまち息を呑んだ。

 海辺で空気が澄んでいるせいもあるだろうか。

 日本のものと比べて一回り大きく見える月は、静謐でどこか神秘的な光を放っている。


「よーし、必ずあのテイオウイカを倒すよ! 月に誓って!」


 そう言ってこぶしを突き上げると、私はすぐさま船に乗り込んだ。


「フェル、頼んだよ!」

「わんっ!!」


 元気よく返事をすると、すぐさま船を引っ張り始めるフェル。

 たちまち船は石造りのスロープを滑り、そのまま海へと進水するのだった――。


――〇●〇――


「さて、そろそろ着くぜ」

「わん、わん!」


 フェルに船を引っ張ってもらうこと十数分。

 すっかり街の明かりも小さくなり、いよいよテイオウイカのハズレが潜む海域へとやってきた。

 今日も波は穏やかで、黒々とした海は不気味なほど静かである。

 さーて、この間の借りを変えさせてもらおうかな。

 私はマジックバッグから魔石を取り出すと、それを糸の先に結んで投げる。


「イルーシャ、樽を投げ込めるように準備して!」

「はい!」

「フェルはいつでも動けるように! 触手攻撃が来たら、まずは回避するよ!」

「わん!」

「リュートは……特に何もしなくていいよ!」

「そりゃないだろ!」


 私の言葉に、すかさずツッコミを入れてくるリュート。

 まあ、実際にここまで来た時点であんまり仕事ないからね。

 戦闘については私たちが行うし。


「……あれ?」


 こうして、魔石を海に投げ入れてから待つこと二十分ほど。

 海は静かなままで、テイオウイカのハズレはちっとも姿を現さなかった。

 おかしいな、以前はすぐに食いついて来たのに。


「もう少し、大きな魔石に変えてみますか?」

「うーん、ちょっともったいないけど……。そうしてみようか」


 イルーシャのアドバイスに従って、私は渋々ながらも手持ちで一番大きい魔石を取り出した。

 売ればきっと、三か月ぐらい毎日ご馳走が食べられる逸品である。

 これも、もっともっとおいしい料理を食べるため……!

 覚悟を決めた私は、えいやっと魔石を放り投げた。

 しかし、それでも反応がない。


「……ほんとに、この場所であってる?」

「間違いねえよ。灯台の見える位置からして、この前と同じはずさ」


 半島の先の岩場に聳える大きな灯台。

 それを指差しながら、リュートは声を大にして言った。

 ちょうどその時、灯台の近くを船が通り過ぎていくのが見える。

 帆柱が三本ある大型船で、どうやらウェブルの港に向かっているようだった。

 いや待てよ、こっちにイカが現れないということはひょっとして……。

 ここで私はふと、ある可能性に気付く。


「……ねえ、リュート! ウェブルの街で魔石って取引されてる?」

「んん? そりゃ、王国一の交易都市だからな。魔石ぐらい扱ってるだろうぜ」

「……まずいよ! 今すぐあの船の近くに急ごう!!」


 私がそう言うと、リュートは怪訝な顔をした。

 やれやれ、ここまで言ってもわからんのかい!

 察しの悪さに苛立ちつつも、何が起きているのかを説明する。


「あの船に魔石が積み込まれてるんだよ! だからテイオウイカは私たちに反応せず、あの船に向かってる!」

「マジかよ、やべえじゃん!」

「だから急ぐんだよ! フェル!!」

「わん、わん!!」


 こうして私たちは急いで進路を変え、船の救援に向かうのだった。

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