第49話 でっかいあいつを打倒せ!
更新ミスをしてしまい、大変失礼いたしました……!
こちらが正しい49話です!
「ここがこのギルドの資料室です」
「おぉ、思った以上に立派だ!」
受付嬢さんに案内されてたどり着いたギルドの資料室は、思っていたよりずっと立派だった。
ドワーフの城の図書室よりもよほど大きい。
交易の拠点となる都市だけあって、いろいろと情報が集まっているようだ。
壁一面が書棚となっていて、数千冊は本がありそうだ。
ひょっとすると、万に届くぐらいの数があるかもしれない。
「好きに使っていただいて構いませんが、資料の持ち出しと複写はご遠慮ください」
「わかったよ」
「ではまた、お帰りになる際に声をかけてください」
そう言うと、受付嬢さんは軽くお辞儀をして資料室を出て行った。
さてと、お目当ての資料はどこかな……。
「イルーシャ、そっちの棚を探してくれる?」
「何の資料を探せばいいですか?」
「テイオウイカに関する資料を一通り」
「テイオウイカ? わかりました」
怪訝な顔をしつつも、資料を探し始めるイルーシャ。
私も端におかれていた脚立を運んでくると、その上に乗って棚を探し始める。
「なるほど、この辺は過去に起きた事件の資料だね。じゃあこっちのは……」
本の数はとにかく多かったが、分類はしっかりとされているようだった。
棚を見ていると、すぐにその法則性がわかってくる。
「モンスター関連は、もう一つ奥の棚かな……」
脚立を抱えて、棚の間を移動する。
よいしょ、よいしょ!
こういう時だけは、身体が小さくなった不便さを感じるなぁ。
以前は割と高身長だったから、どこにでも手が届いたんだけどね。
かと言って、風魔法で飛ぶと部屋の中がえらいことになるし。
あれはあくまで緊急用だ。
「お、あれかな」
少し苦労した甲斐があって、お目当ての資料がある一角へとたどり着いた。
冒険者向けの図鑑のようなものから、研究者が扱うような専門書まで。
流石は冒険者ギルド、モンスターの討伐を生業にしているだけあって資料の数は多かった。
「それとこれと……わわわっ!」
「ララート様、落ちないでくださいよ!」
「わかってるって! そっちはどう?」
「何冊かありましたので、持っていきますね!」
こうして資料を集めた私たちは、資料室の中央に置かれたテーブルでそれを読み解き始めた。
本をどっさりと山積みにして、しばらく読書にふける。
こうして数時間が経過したところで、私はぐぐーっと大きく伸びをした。
気が付けば、窓の外に見える景色がすっかり暗くなっている。
「いけない、いつの間にかめっちゃ時間経ってる!」
「だいたい三時間ほどが経過しましたね」
いたって冷静な様子のイルーシャ。
その脇にはお茶の入ったカップが置かれ、一息ついて待っていたらしい。
やがて彼女は、微笑みを浮かべて言う。
「ララート様は本を読むと時間を忘れちゃうんですから。そこは昔と変わらないですね」
「へへへ、まあ本は好きだからね」
前世の頃から、本は割と読むほうだったし。
その点については、今世のララートさんと一致する部分かもしれない。
「それでどうですか、ララート様」
「私の睨んだ通りかも。ちょっと見えて来たよ、災厄の正体が」
「流石です、ララート様! それで、何なんですか? 災厄の正体って」
「テイオウイカだよ」
「……テイオウイカ? もしかして、イカ墨で海が黒く染まるってことですか?」
眉をひそめ、イルーシャは何やら批判めいた眼差しを向けてきた。
それじゃ、私が小馬鹿にしたタコ墨説と変わらないとでも言いたいのだろう。
「ああ、違う違う。そうじゃなくて、まずはこれを見て」
「これは……テイオウイカの大きさの記録……ですか?」
「そうそう。特に大きな個体についてギルドが記録を取ってたみたい」
「でも、ずいぶんとばらつきが大きくないですか?」
残されている記録は、五メートルから十メートルまでひどく幅があった。
テイオウイカという種は本来どのぐらいの大きさなのか、その基準がわからなくなってしまうほどである。
「恐らくだけど、テイオウイカはずーっと身体が大きくなり続けるモンスターなんじゃないかな。だから、こんなにばらつきがあるんだと思う。でね、このイカってかなり凶暴らしいんだよ」
そう言うと、今度は違う本のページを開いて見せた。
そこには、テイオウイカの生態がリアルなイラスト付きで解説されている。
十本の触手をくねらせる巨大なイカの姿が、何とも生々しい。
まさに神話に描かれるようなモンスターだ。
「これによると、テイオウイカは肉食で他のモンスターを丸呑みしては魔石を吸収しちゃうんだって」
「それってもしかして……」
私の言いたいことをおおよそ察したのだろう。
イルーシャはハッとした表情で息を呑んだ。
「そういうこと。たぶんこの近海にとんでもなく育ったテイオウイカのハズレが居て、そいつがモンスターを食い荒らしてる。大いなる災いってのは、そのうち餌が足りなくなってそいつが暴れ出すことなんじゃないかな」
「では、海が黒く染まるというのは?」
「魚影のことを言ってるんじゃない? こんなバカでかいイカが接近して来たら、海も黒くなるでしょ」
「なるほど……!」
ポンッと手を叩くイルーシャ。
謎が解けてすっきりしたのだろう、その表情は晴れやかなものだった。
だがしかし、すぐに彼女はむむっと険しい顔でこちらを見てくる。
「……ララート様。まさか、この巨大イカと戦いたいとか言いませんよね?」
「言わないと思った?」
「やっぱり! ダメですよ、そんな化け物と戦うなんて! 危ないですって!」
「危ないからって逃げてたら、冒険者なんて務まらないよ。それに……」
私はそう言うと、イルーシャの肩に手を置いた。
そして彼女の目を覗き込むと、ゆっくりと言い聞かせるように言う。
「もし言い伝えが本当なら、こいつを放っておいたら大変なことになっちゃう。ギルドもこの様子じゃあんまり頼れないし、私たちが頑張って何とかしないと!」
「……そう言って、本当は食べたいだけなんじゃないですか?」
何やら白けた顔でツッコミを入れてくるイルーシャ。
その目は明らかに私の言うことを信用していないようだった。
い、いったい何を言っているのだろう?
私は世のため人のために頑張るエルフの大魔導師ララートさんだよ……?
「た、食べたい?」
「ララート様の強い魔物ほどおいしい理論に基づけば、このテイオウイカはすごくおいしいはずです。それで辛子漬けなんて作ったら、最高でしょうね」
「…………そうだよ、きっと最高だよ! だからこいつを倒すの!!」
ええい、もうめんどくさい!
私は思いっきり本音をぶちまけ、テイオウイカの討伐を宣言するのだった――。
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