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ぐうたらエルフののんびり異世界紀行 ~もふもふと行く異世界食べ歩き~  作者: キミマロ


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第42話 名物の事情

「がは、ごほっ……! みず、みずぅ!!」


 いきなり、とんでもない辛さが喉の奥から襲ってきた。

 パンチがあるどころの騒ぎじゃない、もはや大砲でも撃たれたようだ。

 これ、もう辛いというより痛いよ!

 口全体がヒリヒリして、火傷しちゃったみたいな感じだ。

 あまりのことに身体がびっくりしたのか、咳まで出てしまう。

 ついでに涙まで出てきたから、もう大変だ。


「は、はいどうぞ!!」


 大慌てで水を差し出すイルーシャ。

 私は即座にそれを飲み干すが、口の中の火事は収まらない。

 むしろ、中途半端に水を飲んだせいでますます悪化した気がする。


「全然足りないよぉ!!」

「わ、わかりました! ウェイトレスさん、お水! お水!」

「わわっ!? すいません!」


 こちらの異変に気付いたウェイトレスさんが、大慌てで金属製のピッチャーを持ってきた。

 私はそれを手にすると、直接口を付けて水をがぶ飲みする。

 このぐらいしないと、口の中の火事がまったく収まらないからね!


 ――ゴクゴクゴク!


 一心不乱に水を飲み続けることしばし。

 おなかがタプタプになってきたところで、ようやく口の中が少し収まってきた。

 ああ、ほんと死ぬかと思った……!


「ララート様、大丈夫ですか?」

「……うん、ちょっと落ち着いた」

「すいません、辛みが強く出すぎちゃったみたいで……」


 青い顔をして、必死に頭を下げるウェイトレスさん。

 どうやら、辛子とタコの組み合わせがあまり良くなかったらしい。


「どうした? 何かあったのか?」


 私たちが話していると、厨房からエプロン姿の男性が出てきた。

 かなり大柄で、日に焼けた太い腕は何とも頼もしい。

 包丁を持って戦いそうな感じの店長さんだな。

 海軍とかで働いてそうな気配だ。


「実は、辛子漬けがとんでもなく辛かったみたいで」

「味見をした時は問題なかったんだがな。どれ……」


 そう言うと、店長さんはまだ残っていた辛子漬けをつまんで食べた。


「特に変な味は……ぐぉ!!」


 初めのうちは怪訝な表情をしていた店長さんだったが、いきなり思いっきり目を見開いた。

 目玉が飛び出しそうなその姿は、さながら金的でも喰らったようだ。

 彼はそのまま厨房へと駆け込むと、流しに置いてあった桶の水で口を洗い始める。


「はぁ、はぁ……。こりゃやべえな。とんでもないものを出しちまった、本当に申し訳ない」

「味見はしなかったんですか? 少量でも流石に気づきますよね?」

「その段階では普通だったんだ。ひょっとすると、時間が経つと辛みが出てくるのかもしれん……」


 腕組みをしながら、やってしまったとばかりに顔を伏せる店長さん。

 そんな彼に向かって、すぐさまイルーシャが質問を投げる。


「前に出されたお客さんは、何も言わなかったんですか?」

「最近、製法を変えたんだよ。もっとテイオウイカの辛子漬けに近づけるためにな」

「大失敗だね……。これはちょっと食べられないよ」


 辛さに弱い人なら、倒れてもおかしくないぐらいだからね。

 流石にちょっとあれはないだろう、激辛専門店でもアウトだ。

 私が大きなため息をつき、怒った様子を見せると店長さんはすごい勢いで頭を下げる。


「本当に申し訳なかった! 今日のお代はもちろんタダにさせていただくんで、なにとぞ!」

「お金は別にいいけど、これからは気を付けてよ」

「もちろん! こんな出来損ないをお客様に出すようなことは、二度としやせん!」


 そう言うと、店長さんは深々と土下座をした。

 それに続いて、ウェイトレスさんまでもが土下座をする。

 そこまでされちゃったら、流石にもう何も言えないなぁ……。


「わかったわかった、もういいから」

「ありがとうございます、ありがとうございます」

「しかし、名物料理がちゃんと食べられないのは残念だなぁ……」


 代用品でもそれなりのものが食べられれば、私は満足したんだけどねえ。

 流石にあれでは満足感は低いというか、ほぼない。

 途中まではいい感じだったけど、いくら何でも後味が悪すぎる。

 美味しいものを食べ終えようとしたところで、いきなり殴られたようなもんだからね。


「テイオウイカの辛子漬け、そんなに楽しみにしてたのかい?」

「うん。定期船のチケットを売ってるおじさんが、食べなきゃ人生損してるって言うから」

「あー、レギンの親父は大好きだったからなぁ。材料さえ手に入れば、すぐにでも作ってやるんだが……」

「そんなに手に入らないんですか?」


 イルーシャが首を傾げながら尋ねた。

 すると店長さんは大きなため息をつく。


「半年ほど前までは、馴染みの冒険者が定期的に卸してくれたんだ。それがだんだんと来なくなって、しまいにはギルドに依頼を出しても断られる始末だ」

「なるほどねえ……。冒険者やギルドが絡んでくるってことは、そのテイオウイカってモンスターなの?」

「ああ、イカの化け物だな。テイオウっつーだけあって、半端なくでけえ。ちっせえ船ならひっくり返すこともある」

「ふむふむ……。なら、私たちが捕まえて来ようか?」

「え?」


 そう言うと、店長さんは私とイルーシャの身体を上から下まで見回した。

 そして、がははっと豪快に笑い出す。


「そりゃ無理だろう! 言っただろ、テイオウイカは半端なくでけえって」

「大丈夫だよ。私、もーっとでっかいドラゴンを倒したことあるし」

「またまた、冗談がうまいな」


 完全にこちらを信じていない様子の店長さん。

 子どもが冗談を言っているとしか思ってないらしい。

 いつものことながら、まったく失礼しちゃうね。


「本当だよ。えっと……何かあったかな……」


 私はマジックバッグをまさぐると、何か証拠になるようなものがないか探した。

 お、ちょうどいいのがあるじゃん!

 私はバッグの口を開くと、どっこいしょっとそれを取り出す。


「ほいさっ!」

「うおっ!? なんだ!?」

「牙……?」


 私が取り出したのは、アースドラゴンの牙だった。

 何かに使えると思って、ドワーフたちに譲ってもらったのをしまい込んでいたのである。

 たぶん、結構なお宝なのではないだろうか。

 それを見た店長さんとウェイトレスさんは、たちまち顔を引きつらせる。


「こりゃすげえ……。お客さんたち、ほんとに一流の冒険者だったのか」

「ララート様はこう見えて、竜級魔法が使える大魔導師ですからね」

「いっ!?」


 竜級魔法と聞いて、ますます店長さんたちの表情が強張った。

 私を見る目が、もはや魔王でも見るかのようだ。

 筋骨隆々のおじさんが幼女に怯えるという、何ともすごい絵面が生まれる。


「これは失礼しました、竜級魔導師様なんて知らなかったもので……」

「別にそういうの良いから。私がイカを持ってきた時に、最高に美味しく料理してくれればいいからさ」

「もちろんでさぁ!」


 うんうんと力強くうなずく店長さん。

 よしよし、あとは材料を取ってくればいいだけだね。


「ふふふ……。待ってろよー、テイオウイカ! 絶対おいしく食べてやるんだから!」

「ララート様、よだれよだれ!」

「おっとっと!」


 微妙に締まらない感じになってしまったが、それはそれこれはこれ。

 テイオウイカを倒すことを決めた私たちは、そのままギルドへと向かうのだった。


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