第24話 ドワーフの事情
「これ、魔石の粉末が入ってるよね? 魔力の巡りがちょっとおかしい」
私がそう指摘すると、たちまちモードンさんの表情が凍り付いた。
魔石の粉末というのは、文字通り、モンスターから取り出した魔石を細かくすりつぶしたものである。
特に味はなく、一般的には魔力が欠乏して危険な際に回復用に用いる薬だ。
が、何もない状態でこれを呑むと魔力過多に陥って二日酔いに似た症状を引き起こしてしまう。
特に後遺症が残るわけではないが、ある種の劇薬と言っていい。
「そんなもの、お酒に入れるわけがないじゃないですか。だいたい、魔石の粉なんかが入っていたらララートさんも魔力酔いを起こしているはずですよ」
「私は魔力容量がバカでかいからね。魔力酔いを起こさせたければ、こんなしょぼいモンスターの魔石じゃなくてせめてドラゴンの魔石ぐらい持ってこなきゃ」
体内を巡る魔力の量からして、使われた魔石は先ほどのビッグアームの物であろうか。
これで私に魔力酔いを起こさせようなんて、ほんと千年早いよ。
しかし、私の追及に対してモードンさんは渋い顔をしつつも引き下がらない。
「……どうして、私がそんなことをする必要があるのです?」
「さっさと私たちを追い返したかったんでしょ? 本当は適当に観光させて、満足したところで返すつもりだったけど私たちが何かに気付きそうだったから早めた」
「何かとは、何です?」
「さあ? それを知るのは今からだよ。ま、見当はついてるけど」
そう言うと、私はモードンさんの眼をまっすぐに見据えた。
基本的に温厚でゆるい私だけど、流石に劇薬を盛られて黙っていられるほどのお人好しでもない。
それに私だけならともかく、可愛いイルーシャにまで一服盛ったのだ。
本当なら、魔法の一発でもぶち込んでやりたいところだ。
すると私が本当に怒っていることを察したらしいモードンさんは、たちまち蒼い顔をして怯む。
どうやら、もともとこう言ったやり取りには慣れていないらしい。
「…………イルーシャさんには通用したのに」
「ありゃ普通に酔っただけだよ。魔力酔いじゃないから」
イルーシャの魔力量は私に比べると少ないが、それでも人並外れて多い。
あれでも私が徹底的に鍛えてきたからね、そんなに軟じゃないのだ。
それを聞いたモードンさんは、どこか気の抜けたような顔をして座り込む。
「完敗ですよ」
「んじゃ、どうしてこんなことしたのか教えてくれる?」
「……はぁ」
モードンさんの口から、諦観に満ちた深い深いため息がこぼれた。
彼はゆっくりと、視線をこの部屋唯一の窓の方へと向ける。
そこからは、ぼんやりと光る黄金石が見えた。
「すべては、あの黄金石のためなのです」
「詳しく訳を説明してもらおうか」
こうして、私はモードンさんからゆっくりとこの国の事情を聴くのであった。
――〇●〇――
「つまり、黄金石に込められていた魔力が尽き始めたのがそもそもの発端だったと」
「そういうことです」
モードンさんから説明を聞いた私は、椅子に深くもたれかかりながら内容を整理した。
事の始まりは今からおよそ一年前のこと。
太陽のごとく地底を照らしていた黄金石が、朝になっても暗いままという事件が起きたらしい。
そこでモードンさんを始めとする城の学者が調査したところ、黄金石に蓄えられていた魔力が枯渇しつつあったそうだ。
そのため、書庫で発見された古文書を参考に魔石から抽出した魔力を注ぎ込んだそうなのだが……。
「補充はできたけど、モンスターに狙われるようになってしまったと」
「ええ。もともと黄金石はモンスターを退ける力を持っていたはずなのですが、夜になると逆に引き寄せるようになってしまいまして。大量の魔石を捧げることで、一時的にその性質を抑えることはできるのですが……」
うーん、まるで自ら生贄を求めているみたいだな……。
窓の外でぼんやりと光る黄金石が、急に何か禍々しいもののように見えてきた。
やっぱり、先ほど感じたどこかゾッとしない気配は正しかったようだ。
「もしかして、魔石が高騰しているっていうのもあなたたちのせい?」
「そうです。人間の領主に感づかれないように、いくつかの商会を通して魔石を密かに買い集めたのです。その費用を捻出するために、親方衆には少し無理をしてもらって武具の量産もしていました」
「親方さんたちは、このことを知ってて協力してるの?」
「いえ……。彼らには食料の買い付けに使っていると説明しています。表向き、黄金石の不調は既に解決したことになっていますから」
「でも、こんな状態は長くは続かないよね」
私がそういうと、モードンさんの顔がさらに険しくなった。
彼だって、この状態が持続可能でないことは分かっているはずである。
既に価格が高騰するほど魔石を買い集めているのだ。
そのうち買えなくなるのは目に見えているし、あの領主さまだって気付くのは時間の問題だろう。
そうなれば、モンスターの大群に襲われるか人間との戦争が起こる。
「我々も、それは分かっています。ですが、この国には黄金石がどうしても必要なのです」
「この地底を照らす太陽みたいなものだもんねぇ……」
黄金石が無くなれば、ドワーフたちの暮らしが立ち行かなくなるのも目に見えている。
はてさて、いったいどうしたものかな。
私は腕組みをしながら、少し考え込み始める。
「城から見つかった古文書には、本当に魔石から抽出した魔力を注げってあったの?」
「ええ。そのための具体的な方法も書かれていました」
「うーん、どうも正しい方法とは思えないね。その古文書、私にも見せてもらえない?」
ここで私は、あえてサラッとした感じで話を切り出してみた。
するとたちまち、モードンさんはとんでもないとばかりに勢い良く首を横に振る。
「いやそれは……! 城の重要な文書を、部外者には見せられませんよ!」
「部外者って、もうしっかり巻き込まれちゃってるんだけど」
「それは……。ですが、そう言われても私にそれを決められる権限など……」
身を小さくして、完全に困り顔のモードンさん。
確かに、一回の学者である彼に決めるのは無理そうだな。
明日、イルーシャが起きたら相談してみるか。
「しょうがないなぁ。今日のところはもう遅いし、寝よっかな」
「おやすみなさい」
「言っとくけど、手を出したら今度こそただじゃおかないからね?」
「わ、分かってますよ」
そう言ってモードンさんを脅しておくと、私はフェルと一緒に部屋に戻った。
こうしてその日はゆっくりと眠りに就いたのだった。
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