第9話 上司として、あちらの部下として
妹が定期的に自宅で出来る『リハビリ』を少し見てから、美晴は端末のディスプレイを軽くタップして操作を始めた。
藍葉は音楽を聞きながらのリハビリは、少しの物音では動じないことを知っているが。念のためだと、美晴も仕事用のワイヤレスイヤホンを装着した。
「どです? うちんとこの秘蔵っ子ん出来」
通話機能を使ったのか、向こうからの電子音がイヤホンから少し漏れ出る。それでも、社用端末にしては高性能なのか藍葉には届かない。
『……なんなん、あれ。俺の予想を遥かに超えとるじゃろ』
大阪でない方言。四国か中国地方に近いそれでも、美晴は聞き慣れていたので普通にいつもの調子で返答を続けていく。
「俺もびっくりですわ。もともと、発育には身体以外に問題あったのも気づかんと……個性やって、うちん両親は括ってただけですのんに。グレーでも、発達障害あるってわかりましたわ」
『……妹じゃからって、ずけずけと。そうじゃな? 発想力はADHDのグレーに近い。今の芸術家連中を考えれば、軽過ぎて気づきにくいの』
「……だからこそ。足の問題を解決したいんです。あの子には、まだ他の可能性も出てるんですわ」
このポイ活モニターが何に利用されているかを知らない。だからこそ、発表するまでに手術費への資産運用なんて……両親の承諾込みで、美晴がとっくの昔からかき集めていた。今は執刀医を誰にするかを検討しているのも、藍葉は知りもしない。
だからこそ、就活で失敗しまくっていたのは裏で操作していたと……後日、今連絡している部長と謝罪しまくる予定ではいるが。今は今で少し気持ちに余裕が持てているようだ。エアロバイクで音楽を聴く余裕がある時は、昔からその傾向があった。
まさか、『個性』が爪弾きの原因だと誰が思うだろうか。
突発性を求むよりも、慎重派になってしまうのも今の時勢の関係上仕方ないのか。
『じゃが。このAIに似せたのが『異世界の人間』だと知ったら……あいつ、どこまで信じてくれるんじゃろ』
「俺らも数年経っていますが……藍葉の方が飲み込み早いんですよね」
宝物の種。
異世界育成。
それらを昨今、少し注目にされている『ポイント還元活動』に組み込んでみれば。幼い頃、『知育玩具』が得意だった妹がマニュアルをほとんど作成してくれたのに、兄以上の驚きを得た。
これは、開発部にとっては最高の逸材だと。
『……あーあ。本気で、指輪用意せなあかんぜよ』
耳から吹き込まれた音声に、美晴は少し噴き出しそうになったが。この上司が実は……のサプライズも、藍葉には残してあると知れば。妹は最高の環境で、社会生活だけじゃ無い充実した時間を送れることを理解するだろう。
通話の向こう側に、幼い頃に諦めた『初恋相手』がいて。
その本人も、実は諦めていなかったと知れば。友人としてもこの上なく喜ばしい結果となり得る。それを条件に、異世界運営を引き受けたのは部長自身だったが。
「期待しとるで? 成樹?」
『おぅ。まずは再会ステップできるように……お互い遠距離じゃな』
「今どこなん?」
『……スウェーデン』
「……頼む。あの子の別趣味はニット製品作れるくらいや」
『いい毛糸多いんやけど……』
「いきなり贈るもん、それ?」
『放置ポイ活の合間……とかに、内職用とか』
「……不器用、変に出さんで。聞くだけ聞くから」
探りを入れるのは、慕う相手には本気でも空回り……とは本当なんだと理解したのだった。
もう一話あり




