第59話 炊き出し好調
「おじさん、ありがとー」
「ん、ゆっくり食べやー」
選んだスープやパンを持って、大事そうに抱えながら帰っていく背中。
それを見て、微笑ましく思わないわけがない。頭の片隅には、考え事はいくつかあるけれど。
リーナのこれからのことは、ゆっくり進めればいいと思うにしても……管理者との連絡版のやり取りが気になって仕方がない。あの指示がなければ、しばらくこの炊き出しを中心に習慣をつくっていいものか気になってしまう。
リーナが言うには神の見習いだったりなんだったりと聞きはしても、やはりここまでクルスを導いてくれた存在に変わりない。宝物の種から同時に生まれたにしても、適切な処理能力は向こうの方が断然上だ。
成長してしまった、あの土地をこれから解放するかどうかをクルスの独断で決めることは出来ない。リーナはなんとなくわかっているらしいが、まだ自分の素性も含めていくつか隠していることがある。それをクルスが聞いていいのか、あの連絡版が復活するまで悩んでいる節があるのだ。
クルスにしても、そこはあやかりたいことではあるので問題はない。
ただ……国の崩壊とやらが、どこまで堕ちたかは知りたかった。
村を飛び出して、歩兵以下だったときの下っ端から養わせてもらった……あの国が。
どこまで堕ちたかを今更知っても、何も意味がないことくらいわかる。だが、ここを知れば彼らに王家再興のきっかけを与えられるのではと思うのだ。クルスには上に立つ役目は似合わない。それは、自分がよく知っているからわかるのだ。
「クーちゃん? 疲れた?」
リーナは自分の炊き出しに用意したものを配り終えたのか、こちらにやってきた。ちらっと荷車を見たが、まだ湯気が立っている。二人でそれぞれ用意した炊き出しが多かったせいか、並ぶ姿もあまり見られない。これなら、別の場所に移動しようか提案も出来そうだった。
「いや、大丈夫。別んとこ回ろうか? 前回はここで手いっぱいやったし」
「そだね? あたしのとこもまだ半分くらいあるよ」
「似たもんやな」
細身なのに、存外力があるリーナはささっと自分のところを片付けたら先に行くと、誘導してくれた。この荒廃した場所に詳しいのはリーナの方なので、クルスも準備してからゆっくりついていく。
一画くらい移動すれば、まだ施しを受けていない避難民がいたため……設置はそこですることにもなったが。
「あんたら、この前も来てくれた炊き出しの連中か?」
格好からして、憲兵よりは冒険者の雰囲気に近い。ガタイもクルスよりはるかにすごいので、おとなしく頷けば横からリーナが割り込んできた。
「そうだよ? 悪い?」
クルスに少し気弱な部分があることを知っているから、こんな風に頼ってしまうのを申し訳なく感じてしまう。しかし、嬉しいと感じるあたり、好意は確実に育っているのか。それはいいとしても、目の前の男は『いいや』と苦笑いしているだけだった。
「少し前に、な? こっちには来なかったが、うまい飯を食わせてくれる男がいたって聞いた。誘導に女もいたって情報があったから確認したかっただけさ」
「……俺も避難民やけど。理由あって、食料に困らんねん」
「ほ~? で、商売より炊き出しか?」
「変、か?」
「いいや。調理もまともに出来んくらいに、市場はめちゃくちゃだ。そこに来てくれて助かった。……俺ももらっていいか?」
「おん。……リーナ、大丈夫やから離れて」
「クーちゃん疑われかけたんだもん!」
「……恋人か?」
「それが残念なことに、違うの~」
「面白いな?」
違う、の言葉に少し胸の奥が痛んだ気がした。しかし、お互いにきちんと告げ合ってもいないのに関係を成立させるのもよくない。ここは一度忘れることにして、ヒューゴと名乗った冒険者の男以外にも並びにきた避難民への炊き出しを始めることにしたが。
今度は町中に近いこともあってか、あっという間になくなってしまった。
「無理ない範囲で、明日はここ中心に炊き出しするか?」
「そだね? 食材は気にしなくていいし、することないもん。それに、慣れたら食材買ってくれる伝手も出来るかもしれないし」
「……あれ、売れるんか?」
「……まずいかなあ?」
「……肉の実とかやで?」
「あはは……」
リーナは手際がいいところはあれど、どこかのお嬢さんだったからか商売関係はずぼらなのがわかった。
次回はまた明日〜




