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ポイ活で、異世界ファームを育成しよう!  作者: 櫛田こころ


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第58話 相当重症だったらしい

 気が付いたら、自宅じゃないところで寝ていた。感覚的に昨日今日ではない気がする。誰かの寝息を近くに感じ、重い体を起こしてみれば成樹が椅子に座って眠っていたからだ。



(……わぉ)



 声を上げなかったのは、自分の両手に栄養補給などに使う点滴が刺されていたからだ。股の間には管が繋がれていたため、一日二日でこの状況を作られたわけではないらしいが。


 この状況だと入院なのは確実だが、『何科』で入院しているのか気になった。足のリハビリ訓練以外で入院した経験は過去に一度ある。たしか、そう。



「熊野さーん。はいりますよー」



 成樹の名を呼ぶ看護師か医師が声をかけてくれた。こちらが返事をする前に扉が開ければ、若手の女性看護師が点滴の袋を持って中に入ってくる。その音で、成樹もうつらうつらから、ぼーっとしていたが藍葉が起きているのを見れば、『はっ』と言わんばかりに立ち上がった。



「藍葉!? 起き」

「熊野さん、ストップ。小鳥遊さん、起きたね? お腹空いた? 水分はほしい?」

「……えと、どっちも欲しいです」

「うんうん。しばらく起きれなかったし、お腹が空いているなら大丈夫。あと五分くらいで朝食だから、ご飯はもってくるね。トイレはもうちょっと我慢してくれる?」

「あ……はい。大丈夫です」

「結構寝てたからね。お兄さんは昨日は帰っちゃったけど、熊野さんが代理で付き添いしてくれてたのよ? 今日、何月何日かわかる??」

「……10月12日?」

「残念、10月15日」



 成樹の誕生日まで、三日以上意識が戻らなかっというのか。起きているような自覚はあったものの、あの夢と行き来していたのであれば『何か』があったかもしれない。


 別に異世界トリップやら、臨死体験をしたわけでもないようだが……成樹は何かを知っているのか、黙っている間もどう説明しようか考えているみたいだった。


 看護師は血圧などを測ったあとに、点滴は今あるものが完了したら外すからと言って退室していった。



「……辛く、ないんか?」



 ふたりだけにはなったが、何を最初に切り出せばいいのか悩んだ言い方。それも仕方ないなと、藍葉は苦笑いするしかない。



「起きたらこんな?な気分だよ。……あたし、どうしたの?」

「四日前から、ずっと昏睡しとったんじゃ。俺とか美晴が何回も声かけても起きんかった」

「……ごめん。誕生日にこんな」

「……覚えとったんか?」

「……忘れないよ」



 ニット帽の作成も中途半端なので、まだ完成には程遠い。


 受け取ってくれるかはともかく、想いを伝える手段には使おうとしていたのを……今は少し恥ずかしくなっていた。健康面でなにか悪いところがあっては、結局成樹の負担になるだけだ。今も仕事に行けないという迷惑をかけているというのに。


 だけど、気にするなという感じに彼は藍葉の頭を優しく撫でてくれた。



「覚えとってくれただけで十分じゃ」

「……最悪なバレ方、だなあ」

「なんでじゃ。俺こそ、外堀埋めようと必死になっとったんじゃよ?」

「……ハイ?」



 今、聞き違いでなければ大変重要な御言葉とやらをいただいたのでは……と思ったが、朝食が来たので話は中断。しかも、両手に点滴を受けているから動きにくいだろうと成樹が食べさせる介護をしてくれるという。



「仲がいいカップルですね~」

「そうじゃろ」



 看護師はからかったつもりだろうが、成樹が断言したので照れ笑いしながら退室していってしまった。藍葉はやはり、告白されていたのかと再確認しつつも……意外に美味しい病院食に舌鼓を打ちながら、食べ終えてからのことを頭の中で考えることにした。


 成樹とのこともだが、あの『狭間』の出来事を話せるのは、今のところ会社抜きに彼しかいないからだ。

次回はまた明日〜

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