第56話 管理者不在
金貨の幻影が起きてから数日。
敷地内の大幅な変化は落ち着いたものの、問題がひとつ解決していないのにクルスはとても困っていた。
「……連絡版、なんも動かん」
幻影が始まってからしばらくして、今日で三日目くらいか。額縁の中に綺麗に収まっているそれは真っ黒の板のままだった。今までの任務をこなしても、受け取ってくれるがそれくらいうんともすんとも言わない。
リーナのところも似た感じらしいので、仕方ないが自分たちに出来るのは『炊き出し』くらいだと……このあと、それぞれ門から出る約束はしている。
しかし、生活の基盤になっていた『連絡版』がなくなるのは少し困った。自分たちは単に生活しているだけの人間でないのだから、ある程度の任務を言い渡されないと……この広過ぎる仕様になった敷地で過ごしていいのか、さすがに悩む。
「……しばらく、『炊き出し』繰り返しとけばええん? 食材はいくらでも沸いて出てくるくらいに収穫できるけんど」
日課に『炊き出し』を増やす以外は、好き勝手過ごしていい。それを『仕事』にしてもいいのなら、一日がかりで取り組まなくてはいけないので連絡版からの指示が……実はそれなのか。
だが、炊き出しを繰り返しても『国』とやらはどうなのか。
この家こそが『国宝』。リーナの言葉によれば、ここから領主としての任務をスタートさせなくてはいけないと忠告されたが……村でもなにかのリーダー役に付いたことがないクルスに『導く』ことなんて出来るのか自信がない。
それはむしろ、リーナの方が向いているのではないか。炊き出しの誘導をあれだけ、手際よくこなしたのだ。クルスは器に盛り付けるのに手いっぱいだったし、慣れていくにしても『他』がいまいちよくわからない。
だからこそ、連絡版からなにも指示がないのは非常に困るのだ。
「クーちゃーん。できた~?」
先に準備が出来てしまったのか、リーナがこちらにやってきた。連絡版の前でぽけっとしていたクルスを見ても、苦笑いしてくれるだけだ。向こうも似た状況らしいので、これはこれで仕方がないらしい。
「……うんともすんとも言わんわ」
「うちんとこも。……けど、だいたいの基礎が育ったし。この前の金貨のこともあるから忙しいんじゃない?」
「外……の方か?」
「かなあ? あたしも詳しくないけど。とりあえず! 炊き出し、行こ?」
「おん」
心配ごとが増えるのは仕方がないにしても、クルスたちが沈黙していたって意味がない。今できることを少しずつ増やしていき、また金貨の幻影が出ても対策出来るように管理者側が動けていくようにすれば、いいのだろうと決め。
今日もクルスはスープとパン。ほかの主菜になるような料理はリーナが担当することになった。それぞれ門から出て荒れた街に出たが……やはり、向こうはまだまだ雪吹雪が続く荒廃地のままだった。
だが、クルスとリーナが荷車を運ぶのを見れば、子どもたちがまず飛びついてきてくれた。まだ、ここの人間らの希望は失われていないのだなと、少し安心出来た。
次回はまた明日〜




