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ポイ活で、異世界ファームを育成しよう!  作者: 櫛田こころ


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第53話 夢は偽物じゃない

 藍葉は気を失ったというのはわかっていたが。自分が起きているのかどうかがわからないでいた。


 身体があるかないかわからないのに、視覚と聴覚はきちんと機能しているそれのせいで『目の前』で起きている光景がよくわからないでいたからだ。現実にはあるとは信じがたい植物や木の実。それらが当たり前に実ったりしている場所が少しおかしい。


 金貨の幻影がちらほらみられる『異世界ファーム』のそこに、藍葉は間接的に意識が繋がってしまったのかと錯覚した。夢は偽物、薬によっては『悪夢』を見せるものもあると聞いてはいたが『異世界ファーム』をわざわざ悪夢に仕立てたくはなかった。


 成樹と繋がりを再び持てるきっかけとなった、大切な『企画』。そのはずなのに、藍葉の意識はファームの手前まできちんと動いていたのだ。触れることは出来ないので、見たり聞いたりしか出来ない。


 少し奥の方に行こうにも、なにかに固定されているせいで足が動かない。



(これが、現実だったら……)



 ディキャンプなどの一端として、アミューズメント施設でも成り立つだろうか。そんな現実的なことを考えても、ここが夢に投影された具現だけならなんの意味もない。藍葉が成樹とせっかく幼馴染みのやり直し以上の出来事をがんばっていたのに、何故彼は近くにいないのか。


 気を失う前に医務室がどうとか言っていたので、もしかしたら事情を説明しているのかも。そう思うと、この夢から早く覚めなくては。起きても覚えているかはわからないが、また何かを提案する上での知識程度に覚えていたらいい。


 目のような箇所を何回かまたたくと、奥の方で誰かがこちらへ駆け寄ってくるのが見えたが意識が揺らいだので……顔までは確認できなかったが、必死なのは感じ取れた。



「藍葉!!」



 呼ばれた声に目を何回かまたたけば、右手を握りながら泣いていた成樹がそこにいた。後ろにはほっとした様子の兄の姿まで。どうやら、救急車とかで病院に運ばれたらしい。医務室ではなくきちんとした診察室のベッドで寝かされていた。



「シゲ……く」

「……起きた。よかった」

「んだな? シゲ、ちょいどけ。せんせ、来るぞ」



 美晴の言葉通り、看護士がすぐに呼んできてのか白衣の男性医師が入ってきた。二人は離れ、藍葉はベッドにもたれながらの診察を受けることとなった。どうやら、随分と待遇のいいところらしい。



「頭痛、吐き気は?」

「……全然です」

「感情が高ぶったりして、涙とか鼻が出たりは?」

「……前は。今はないです」

「では、処方薬を少し変えてみましょう。いつものかかりつけ医との連携は取りますので、一旦薬を飲んでから帰宅してください」

「……ありがとうございます」



 若干の鬱症状がある自覚はあったので、心療内科などにかかりつけではあったが。それに類似するか別の症状が出たのだろうと医師は診察してくれた。錠剤をいくつか飲んだあと、受付までは車椅子で移動することになった。杖は成樹が持ち、車椅子は美晴が久々に動かしてくれた。



「腹減ったやろ? 途中でなんか食いに行くか?」

「お兄ちゃん、車? シゲくんのは?」

「シゲのはこっちにあるし、俺電車や。あいつの車で好きなもん食いに行こ」

「……シゲくん。ショック受けてないかな」



 わざわざ、今は会計で支払いを済ませているので大変申し訳ない気分になっている。正社員でもないのに、労災がでるわけじゃないが……それ以上に、近しい人間としての対応をしているのかもしれない。


 身内でも、幼馴染みかそれ以上か。それ以上をもらうにしても、あんなにも気遣い上手の男性は引く手数多なのに……藍葉にはもったいない相手だ。それでも、惹かれる気持ちだけは膨らんでいく一方だ。



(……それに。あの夢、なんとなくだけど。覚えている)



 異世界ファームが現実のどこかで存在しているかのような……疑似世界。それが本当に異世界での『誰か』を救済措置したとなれば、成樹らの仕事は何に繋がるか知りたい気持ちもできた。


 とはいえ、今は自分のことが大事なタイミングなので……忘れないようにすることだけにしておいた。

次回はまた明日〜

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