第48話 連絡版が
真っ黒。
としか言いようがないくらいに黒い。
銀の額縁に入っている板は『連絡版』だと思ったのはクルスの直感でしかないが。リーナを見ても頷くだけだったのでまず間違いないだろう。表面を触ってみたが、石のような冷たさしかわからない。
「……なんや、これ」
「あたしんとこもこんな感じだったね? 管理者たちに連絡が取れないだけならいいけど」
「けど?」
「しばらくこのままだと。いきなり勝手に動いたら、『異常』って見られて拘束とかされるかも」
「なんでわかるん?」
「ん? 前にいたとこでの仕打ちも込みで考えただけ」
「おまっ……悪さしてたんか?」
「ちっがーう! 決められたこと以外すると心配かけたりとかあったの!! あんまり言いたくないけど、この種預かるくらいの……まあまあの位持ってただけ」
「あ、そ……か?」
「敬語いいからね? 多分、私の方が年下だもん」
「……それでええんか」
「いいの!」
であれば、次の指示が来るまでは『いつもどおり』に過ごしておいた方がいいのかもしれない。しかし、リーナという隣人の誘いをどこまで受けていいのかも悩みはした。あちらが年下でも、こっちが一定以上の感情を持ち始めている分、いっしょに居過ぎて『異常』を起こしては意味がない。管理者がクルスがリーナに『手を出す』ことをしたら、この楽園に近い住居区から追放することなど簡単過ぎる行為だ。
だからこそ、ここは『年上』としてけじめをつけることにした。
「飯と炊き出しの準備以外、それぞれの家で過ごす。しばらくは、それで様子見や」
「え~? なんでー?」
「自分で言ったやろ? 『異常』が起きたらなんかあるかもって。……俺なりの推測や。あんたに迷惑かなにかかけたらそれに値する」
「……そうかな?」
「とりあえず、試させて。……途中まで送るから、今日は帰りや」
「えぇえ?」
「晩飯はもう食ったやん!! あとは風呂と寝るだけやろ。うら若い女の子が否定したらあかん!!」
「……クーちゃんは淋しくないの?」
「……リーナ。それは好いた男に言いや」
相手の懐に入るのが上手に見せて、違う意図を持つとかは今考えてはいないが。寝るとこは別にしても、頼れるような相手がいるだけで勘違いを起こしてはいけないのだ。それに、リーナが自分で貴族かそれ以上の人間だったと言ったではないか。国が滅んで没落したとしても、それなりの家格を持つ人間といっしょになった方がいい。
クルスなんかのように、田舎者でしかないただの男よりは。
そう思って、胸が痛むのを無視すると……頬に何か柔らかいものが当たった気がした。よく見れば、リーナが顔を寄せてそこにキスをしていたのだ。
「そんな価値、クーちゃんにもあるんだよ?」
ね?と言いながら離れ、少し妖しく微笑む姿は幼く見えない。いっぱしの女性と同じで、親愛を寄せるだけのそれではないと彼女はクルスに言い切った。キスされた箇所に手を当てると、そこから熱が広がると同時に顔全体が赤くなった気がした。
「ば、ちょ!?」
「モテない自分への卑下とか。それは男関係なくよくないと思うよ? クーちゃんは他人を気遣い過ぎなんだから。魅力的じゃないって、きめつけはよくないー。けど、そだね。今日は帰るよ」
手を振って、さっさと玄関へ走っていくリーナ。背中が少し寂しいと見えたのは、気持ちを告げたと似た行為をしたことへの悔しさなのか。
追いかけたかったが、クルスもクルスでその好意を本気で受けてよかったかの迷いが生じ、しばらくその場で動けなかった。
金貨の幻影は建物の外しか見えないが、建物自体はそれ以上の変化はもうなかった。
次回はまた明日〜




