第47話 金策は容易でない
ポイ活のバグらしき光景は端末でも相変わらずなので、移動しつつのポイントが貯まっても放置しようと成樹に言われた。
「逆に、高速使ってのがどれだけ貯まるかの実験にさせてくれんか?」
責任は成樹が請け負うからと、藍葉は頷く。というよりも、それしか出来ない。IT関連にはもともと弱い方だし、パソコン教室に通ってもまだキーボード以外にソフトの使いこなしに必要な問題を解くのに必死だ。
十歳くらい年が離れているし、お願いできることはきちんと頼もう。変に卑屈になって嫌われたくないのもあったが、得意分野が違うせいだと自分に言い聞かせた。
「結構走っているけど……まだ凄いね」
たとえていいかわからないが、アニメの演出効果に近いようなキラキラしたものが画面を包み込むようでいて。端のバナーにポイントの数字が貯まっていくばかり。クルスがバグで消えていないか気にはなったが、そこは成樹の自宅で必死に修正作業をしている美晴の仕事だ。素人の藍葉には無理なので素直に任せておくしかない。
「ポイ活いうんは、徒歩移動とか隙間時間利用しての『還元活動』じゃからな? ちょいちょい広告見てはリワード稼ぎする方法もあっけど……それやと、飽きるじゃろ? 普通に」
「うん、あたしもそういうの苦手。シゲくんたちのこれはすっごくやりやすい」
「言い忘れてたかもじゃけど。インターンには藍葉とは違う障がい雇用枠に考えているやつもおるんじゃよ。だから、藍葉だけを贔屓し過ぎているわけじゃない。皆同じじゃ」
「……事業計画みたいな?」
「そうじゃな。けんど、半分は福利厚生費に近い。それくらい、こっちもがつがつは金出せんから」
「……たしかに」
投資、にも似ていて違うような。けど、ユーザーである『自分』で稼いだお金になるのなら、使い道は自分で決めてもいい。藍葉の場合は半分賭けではあっても、足の治療に使いたかったのは本気だ。今まで無理だったことを少しずつでも進めていきたい。そのうちのひとつに、成樹へのプレゼントに必要な毛糸が明日くらいに来るのを思い出したが、それはそれ。
ポイント還元が今日だけでどれほど貯まるかはわからないが、さすがに三桁の還元まではいかないだろう。成樹も同じなのか、運転に集中したいのかそこまで藍葉に声をかけてこなかった。
(道の駅って、高速でわざわざ向かうくらい遠いのかな……??)
市内でも少し離れたところにあるイメージしかもっていないし、両親らと出かけるのも最近減ったので公共機関を使っての遠出もしていなかった。友人知人誰もいない、ただの遠出など味気ない感じもしていなかったので……ポイ活をする前もあとも、家で引きこもりしがちだったのは否めない。
それが今、好きな相手とふたりきりのドライブなのだ。わくわくもどきどきもするし、どこへ向かうかも気になってしまう。
「藍葉、あそこ見てみ?」
「ん?」
どこかサービスエリアにでも入るのかと思いきや、看板を見るように言われると『道の駅ささら』と書かれた文字が見えた。高速からも入れる商業施設かとここで納得できたのだ。
「結構でかいし。帰りのこと考えたら高速の方が楽なんじゃ。……まだバグ終わらんか?」
「あ、うん。……全然」
「だったら、それはケース入れたまま座席置いとけ。ほかが触れんかったら、ここでチェックインしても意味なかろ」
「そうだね」
言われたとおりにしてから車の外に出たのだが、その間にこっちに回って藍葉が座席から降りやすいようにエスコートしてくれるのだから……また、顔が熱くなっているかもと思いつつも厚意には甘えた。初めての車で変なところにぶつけて、自分も車にもけがをさせたくなかったからだ。
「さーて、久しぶりに来るが。美味いもん、なにがあんじゃろ」
「……あの。シゲくん? 手」
「腕の方がいいか?」
「そうじゃなくて」
降りてからも、藍葉には杖があるのに自分が支えてやるという意識は何なのか勘違いしてしまいそうになるものの。やはり、期待と同じくらい『好き』が強くなり、ついつい甘えそうになる。向かう先は階段が多くてスロープが少ない理由にしても、触れあいたいのかどうか成樹の本心がよくわからなかった。
次回はまた明日〜




