第44話 まだ打ち明けられないことが
成樹は言い淀んだが、告げることをやめた。藍葉とチャットしていた相手が『自分』だというのを美晴もいる手前、小恥ずかしく感じたのはもちろん。なぜ、女性キャラで遊んでいたのかという忌避感を持たれなくなかったからだ。
今更だが、あれは『ハル神』に頼まれていた異世界の『巫女姫』だという少女。異世界側でいうなれば、あの少女が藍葉らしい。元気溌剌で、現実側の藍葉とは全然違う芯の強い少女。
こっちの藍葉を全否定しないわけではないが、おそらく『環境の差』によって性格などの大きな違いが出てしまっているのかもしれない。ゲームでいうキャラメイクがまさにそれだ。生活環境の差だけで、『推し』『苦手』などの差が出るのも当然。
『クルス』が微妙に成樹に寄せているのも、無意識のうちに好きな相手を投影したのかもしれない。嬉しく思う半分、複雑な感情だ。それくらい、淋しい思いをさせてきたのだから……ここ十年まともに連絡もしてこなかったのに、やはりトラウマがあっても忘れなかったのだろう。
(どれほど時間が経っても……か。ストーカーせんかった女より健気じゃき)
むしろ、その健気さが成樹のときめきに色を添えているとは、藍葉はきっと知らないかもしれない。控えめでいじらしい。それが成樹のツボにハマっているのを本人が知れば赤面以上の表情が見れるだろう。きちんと告白する段取りが決まってから、以前美晴にも告げた通り……指輪のひとつでも藍葉には贈ってやりたかった。
引きずると悪い言い方もあるかもしれないが、それだけ一途にお互いを想っていたのなら……手を取り合うのも大事だ。もし違う答えだったとしても、藍葉を立派な社会人として育てるのも大人の務め。
幼馴染み同士が集うこの場で、藍葉が少しでも落ち着く場を設けられるのならば……いくらでも、それは与えてあげよう。『ハル神』の思惑がどこまで本当かは、成樹でもまだまだ分かっていないことが多い。
とりあえず、『リーナ』のところに『クルス』が邪魔しているとの連絡があったため、別室で少しチャットしながら『連絡版』に書き込みをしていく。
【客人をもてなせ。自分の出来得る限り】
『らじゃー! マスター、クーちゃんになに作ってあげた方がいいかな?』
【……しっかり食事が必要。例の定食くらいの品数は出来ますか?】
『がんばるー! クーちゃんの好きなものね!! よし来た!!』
元気っ娘のゲームキャラ過ぎて、本当にそっち側の『藍葉』なのか信じがたいところではあったが……『ハル神』が嫁さん候補とやらを見つけなければ、こちらでも美晴の恋人候補が見つからないのと同じだ。美晴の端末越しの『ファーム』はもう少し離れたところで育成しているが、ほかのモニターもとい『障がい者』らには該当する人物が見当たらない。
(じゃと、もう少し『一般枠』のモニター増やすか?)
まだ試験段階のツーステップ上がったくらいだが、上役に頭を下げる段取りは本当にしようとしていたし、ほかの展開を告げるのにもタイミングがいい。適当なチャットを終わらせてリビングに戻ろうとしたが、上役から久しぶりにメールが来たので真剣に読むことにした。
「……奈月、が限界近い?? こりゃ、やばい」
ほかのゲームクリエイターとして活躍中の後輩の容態を聞き、これは本格的に『世界災害』が一年も経たないうちに発生すると見た。
ここ五年の間に知った予言とも言える事実ではあるが、『加東奈月』という後輩も別の並行世界で調整を頑張ってくれている。『ハル神』の嫁候補を流暢に探している場合じゃないと急ぎたいが……藍葉が『シェルター』に入れば、足の容態が悪化するかもしれないし……まだ、こちら側の事情を深くは言えない。
どうしたものか、と思っていると端末から『リーナ』がなにか画像を送ってきた。
『クーちゃんと共同料理!! 楽しいよ、マスター!!』
と、添え書きもあるのを見て、『これだ!』と上役への返信を急いで書くことにした。
各ゲームの人工知能搭載も含め、『開発コア』にも対応している『クロニクル=バースト』こと『加東奈月』がコールドスリープから起きても『生活できる』ように。世界災害後の生活を『ポイ活ファーム』のようにして『人類対応』とすればいいのだと。
時間があるようで少ないが、国家予算など簡単に算出できる彼のクリエイターとしての資産があれば、それくらいバックアップで対応できるはずだ。とにかく、急ぐしかないと藍葉たちを少し放置してしまったが。
次回はまた明日〜




