第38話 外側では見られてた
美晴は起きていた。正確には『意識』だけなのだが。
自分が幽体離脱のような感覚になり、何故か車に乗っている妹と悪友の様子がはっきりと覗くことが出来て『夢かどうか』すらわからなくなっていたのだ。
今日は休日だが、システムエラーが出ないように成樹の自宅の近くで借りてるマンションで寝ていただけ。
まさか、妹と成樹が出かけるまでの仲に戻っているのに安心しかけていたのだが。いきなりの尋問のやり取りに何事と思うのも当然。
聞いていくうちに、これは本気の現実ではないかと思い……起きようにも、後ろでけらけら笑う声が聞こえてから、この場にいる理解が追いついてきた。
「お前さんか。俺をこんなのにしたん?」
『いやいや、こっちへの対応が早過ぎたからさ? 様子見させれば、シゲの方もこんがらがっていたわけで。見せときゃ、あとあとの説明への矯正もしやすいだろ?』
ポイ活アプリ制作の『依頼人』。本来は彼だと、成樹から聞いていたが実質美晴と同じ魂の核はあれど別人どころか、あちらでは『神』の存在と同等らしい。
ただし、その地位にいるだけで、万能でも何もないとは言ってはいたが。ちょくちょく助けてくれているので、美晴側としても助かっているところはある。
特に、こう言う場面で妹の持つもうひとつの『障がい』をどう対処していけばの方法についても。完全に完治は難しいものの、ADHD以外の障がいが既に出ているのだ。
余計に刺激し過ぎないために、普段はのんびり過ごさせるように両親らもフォローしているのには気づいていないだろう。美晴も一応似た診断は受けているので、先に理解してくれているからの行動だ。
これについては、ふくらんだ風船に何回か針を刺して破るくらいの勢いが出てしまうので、デメリットが心身ともに負荷がかかる。そればかりは個人差もあるので、絶対正解があるわけではない。
「……対応早いって、藍葉のあれは」
『逆に考えろ。一個二個の手順に慣れ過ぎて、省略したら演出が派手になっているのはこちら側も同じだ。あの『藍葉』すげーぞ? 起きたら、ファームのサーバーとか見てみな? 絶対に話し合わせた方がいいのは断言出来る』
「……まさか、器用過ぎるのが仇に?」
『なってたんだよな? んで、こっちでは今その現象見たから話し合いどころじゃない』
「……シゲ、マジで損な役回りさせた!!」
たしかに、成樹であればこっちとの口裏合わせくらい可能だ。今も藍葉を宥めているあたりは、惚れ直した女へのフォローを頑張っているところだろう。そして、会話はまだ聞こえていたが美晴を起こして……とかでたので、こっちのハルに振り返れば、手でしっしとされた。
『ファームの方もなんとかすっから、あと頼んだ』
その言葉を最後に、はっと目が覚めて体が持ち上がる感覚がした。久しぶりのてんかん症状と錯覚するようなそれだったが、汗はびっしょりだったから大丈夫だろう。
スマホを確認したところ、藍葉からのメッセとかはまだだったのでシャワーではなく風呂に入ってしゃっきりするかと気合いを入れ直した。
ちゃんとした運営のスタートは、利用者への不安を煽ってはいけないなとこれから打ち合わせするのも大事だと今回で気づいたのだった。
次回はまた明日〜




