第36話 ファーム内での激変(①と②があります)
①
クルスは、新たな任務が連絡版に刻まれていたのはいつも通りだったものの。
「移動するだけ?? 歩いて鍛えろってことなん??」
敷地内を適度に巡回し、修理必要な箇所の連絡メモと収穫が必要な作物を倉庫へと。内容だけをみれば、することが多いが『移動』がメインなことには変わりなかった。
宝物を植え込み、住居として住まわせてもらっているクルスとしてはそれは従う任務なので当然のことでも。何故か、今までよりも簡略化し過ぎてピンと来ない気がした。
毎日のように炊き出しをする必要はあるだろうが、自分やこの前会ったリーナは『管理者』から監視されている身なのだ。自発的に動いていい範囲は限られているし、完全に悪人でないのはわかっているからとりあえず従おう。
と思って、順序立てて任務に挑んだのだが。
「は? 金?? いや、幻影……がザクザクしてて吸い込まれた??」
クルスが収穫途中の移動の中で、光る箇所をなんとなしに抜いて見ればじゅわっと金貨があふれ出してきたのだ。しかも、一箇所じゃなく、数ヶ所同時と言うくらいに。それが素手で触れずに、家の方に飛んでいくのを見ていると……幻影は家を包み込んで、少し家自体が膨らんだように見えた気がした。
「……えぇえ?」
急いで家に行ってみれば、少し埃っぽかった板が整えられた木材と同等に。
中を開ければ、暖炉が奥の方に設置されているのかさらに温かい空気が流れてきて心地よい。このままベッドに入れば……と思ったが、家でこれならと外の風呂場へ行けば設備が少し整えられていたのだった。
「……少しでこれって。塀の外もあの光で変わっているんなら」
リーナの所有地がそこまで離れていないなら、自ずと近くなってしまうのでは? まだ一度しか会って話してもいないのに……あの快活な笑みを思い出すと頬が緩む気がする。
連絡をしたいが、管理者の都合もあるので勝手に門から出れるかわからない。ひとまず、まだ光っている箇所を探ってこの環境をよくしようと決めた。
②
魔法の種に近い宝物を埋めたから、『成長』はさらにするだろうとリーナも管理者の指示通り動いてみたのだが。
「やー……これ、貴族さんの別荘くらい整いそうじゃない??」
巫女姫だった頃、たまにだが貴族の茶会に誘われることもあったので、そのような場所に赴くことはあった。だがまさか、自分自身がそのような場所へ住むとは予想外過ぎる。
クルスのところはおそらく、マスターの『藍葉』の指示もあってこの程度の激変は普通に起きているだろう。クルス自身が順応しているか心配になったが、光が落ち着いて建物の安定もなければ、隣人の敷地であれ外へは出ていけない。
心配ではあるが、見守る存在が他にきちんといるから任せるしかないだろう。
ひとまずは、金ではない『ポイント』の噴射が落ち着くまで比較的安全なお風呂にでも入ってのんびり過ごそうと決めたのだった。
次回はまた明日〜




