第33話 ポイ活合間に
藍葉の卒論へのテーマは、無事に教授らに受け入れられたので……次の段階に取り掛かることにした。
可動区域が家庭内だとどこまで出来るものなのか。
バリアフリー前提ではあっても、藍葉は藍葉で自炊と適度な運動は欠かさないようにしている。身体障がいであれ、まだ杖と手すりさえあれば移動も困難ではない。
ただし、関節の痛みで駆け足以下の走行は難しい。その手術をしようにも莫大な費用がかかるので、今まで諦めてきていたものの。どんなチャンスで、どんな可能性が拾われるかわからない。
もしかしたら、を今までであれば否定してきたのだが。インターシップを通じ、成樹と再会したことでわがままが出てきたかもしれない。認めてもらえるのなら、まだ未来は捨て切ったものではないのだと。
「自炊延長……仕込み、ね? 麹料理のレシピとかでポイント増やすのもありあり」
ファームは特殊な環境なので、温暖な気候でファンタジー食材が育つ育つ。AI搭載のNPCを主軸に生活させるにしても、任務を与えて基礎知識も追加すれば……ポイントがゲームの無料コインのようにザクザクと貯まっていく。
この方式が『健康意識』『障がい者への励み』になればどこまで需要が増えるのか。
藍葉は歩くのが長時間は無理なので、移動のチェックポイントからの還元は当てに出来ない。なので、栄養士の資格をいずれ取れるようにすれば、在宅ワークで出来ることも増えると踏んで。
常日頃仕込んでいた麹がそろそろなくなると見て、通販で取り寄せていた米麹と調味料を用意した。
お湯は今回、電気ケトルで沸かしてあるのを適温まで冷ましている。
「おーい、藍葉ぁ。差し入れ……えげつな、臭い!?」
「おかえり。麹の仕込みだよ」
たしかに、発酵臭なので慣れない人間には臭いとしか感じないだろう。美晴は最初顔をくしゃくしゃにしていたが、興味はあるのか妹の作業を覗き込んできた。
「それ……麹なん?」
「こっちの茶色のは醤油麹。隣のは塩麹。……またシゲくん呼んでくれるなら、料理作るけど?」
「マジ!? いっちょ前に恋する乙女かぁ。ええでー? あいつ、最近柚子胡椒にハマっとるらしいよ」
「柚子胡椒?? 手作り出来るかな……麹とも相性いいし」
「おいおいおい。そこはやり過ぎちゃう?」
「やれるだけやりたい。ポイント貯蓄あるし、使おうかな。材料の仕入れ」
「……にーちゃんの話聞いてや。ま、恋する乙女には無問題かい」
こってりも嫌いじゃないが、さっぱりしつつもピリ辛が好みなのはいい情報だった。たしかに、いきなりの手づくりでは失敗すると思ったので……コンビニへの徒歩リハビリついでにチューブのを買ってから、レシピ追加へのスタートを切ることにしたのである。
『ちょい、話あるけど。日曜日に会えんか?』
リハビリ途中に急なメッセ。携帯を落としそうになったが、行く返事をした後にはメイクを抑えめにしようと気合を入れるしか出来ないでいた。
次回はまた明日〜




