第30話 悶えてしまう
アップデートしたことで、他のモニターとの交流が出来るように仕組みは整えたのだが。
『リーナ』を派遣した先で、『クルス』と接触した時の彼の慌て様は自分になぞらえたかのように……仕様が似過ぎているような気がした。
『リーナ』の性格を似せたように、『クルス』も性格が似通うにしても疑問が浮かんでしまうが。
「……ヘタレなんは自覚しとーけど。お互いに『相手』を似せたせいなんか?」
成樹は端末越しにゲームクリエイトを続けてみたのだが。どの短縮ルートを作成しても、『リーナ』が『クルス』に接触するのが一番速い。
移動販売の炊き出しで、他の支援物資と交換出来ないかの試みだったものの……向こうの美晴が考えたものなのか。こちらで見える箇所では、結局その通りとしか見えないのか。
とにかく、藍葉が無邪気な子どもの時の性格を模した『リーナ』をキャラデザインしたら……こちらのコマンドを最低受け取ると、律儀に応えるものもあれば自発的に進めたりするものもあった。
再会した、今の藍葉はまだまだ遠慮がちな箇所は多いが、自発的なところはそのまま。
もしくは、『リーナ』こそが藍葉のそのままかもしれない。
整いつつある人工骨手術の手筈。それを知らせたとしても、人間の性格はそう簡単にがらりと変わるわけではない。就職は確実に成樹の部下として置くためにも、『身体障がい』を出来るだけ軽くする手助けは絶対だ。
傷つけた心もだが、距離を短くするためにもなんだってしたかった。先日馳走になった手料理を毎日のように口にする機会は、他人に譲る気はない。
隣に立つのは、成樹だけだ。
「なーんて、藍葉の気持ちをちゃんと確認しとらんのに。勝手に決めてはいかんが」
それでも、成樹を若干模したキャラデザをするあたり……脈がないとは言い切れない。確信は欲しいが、二度と心の傷をつけて距離を置かれることはしたくないし、受けてほしくない。
自分でやらかした分、ツケは大きいのだ。きちんと手順を踏むくらいは、成樹も弁えてはいる。
「……けんど、笑えるくらいフレンドリーな女やなあ?」
相手の懐に入るのがうまい。うま過ぎて、『クルス』が悶えているのだが……実に面白い。藍葉の端末ではキャラが少し雑な3D画像でNPCのように動いているようにしか見えないため。成樹に繋がれた端末内の『アニメ映像』ぽく詳細を確認出来ない。
会社側の業務は基本片付けたので、適当に飲み物と菓子を揃えてから眺めてみることにした。台詞がバナーに記載されていたため、録画モードできちんと残すことも忘れずに。
『リーナ』と『クルス』の距離が空いたのは、炊き出しのスープとパンを配膳し終えたあとになってから。画面と睨めっこも二時間以上かかったが悶えつつ見てたので、飽きはしなかった。
次回はまた明日〜




