第29話 チャーミングな隣人??
クルスの移動販売の前にやってきた少女くらいに見える女性。
スープを食べている子どもより背丈はあり、象徴とも言える発育が異様なので……多分大人の部類と思っておくことにした。超絶好みなのは横に置いておきに、まずは仕事だと碗をひとつ取る。
「……スープ作ったんや。食べてくか?」
「うん! あ、お金」
「ええよ。今日は試作したもんで回っとる」
「こんなにあるのに?」
「……まあ。うちの都合で」
「えー、迷うー!」
はつらつとした性格にもドキドキしてしまうが、客相手にときめいていてはいけないと鍋の蓋を少しずらしてやった。クリーム、ポタージュ、トマトベース。
その三種類を無くなるまで配膳するのが、今日のクルスの仕事なのだ。
「この三種や。一個だけ選んで欲しい……黒パンもある」
「パンも!? じゃあ、クリームスープ!!」
「おん」
なんとなく、で予想していた味を選んだので。具材のサーモンブロックという木の実を刻んだのをたっぷりと入れてやった。沈殿しやすいのでかき混ぜながら入れるから……別にズルではない、はず。
渡してやれば、これでもかと笑顔になったので顔から火が出そうになるくらい汗が出た。
「美味しそ!! …………ん!? 濃い味付けなのに、こってりし過ぎてない!! 魚も入ってるし、ほかほかがいいね!! あったまるー!!」
「……間にパン食うと、味変なるで」
「ほんと? あ! 合う!!」
名も知らない女性に一目惚れなのか。
城にいた頃の同僚なら笑われるだろうが、彼らはもうこの世にいないかもしれない。忘れかけていた、スープの配膳をと思うと女性の後ろに並ぶ列が見えたので彼女には避けてもらった。
「一杯だけやけど。ゆっくりな! おかわりは悪いけど我慢してくれ」
その言葉を皮切りに、避難民はありがとうなどと言いながら受け取って離れて行き……きちんと食べ終えてからは、先に食べ終えた女性が碗とスプーンを回収してくれた。荷車に適当に入れようとしていたが、それはそれで助かった。
最後の一杯を入れ終わったあと、彼女からまた話しかけてきたので……お互い名乗り合うことにした。
「あたし、リーナ」
「……クルスや」
「ね? 向こうから来たってことは、関所から来たの?」
「関所? しまっとった門か?」
「多分それ。そっか……君もそうか」
「……お前も?」
「そ。…………植えたもので、しばらく隔離されてた人間」
「……てことは」
「ちょっとだけ離れているけど、敷地は近いよ? 変わった作物と綺麗な建物の敷地……クーちゃんのでしょ?」
「…………クーちゃん?」
「あ、ダメだった?」
「……ええけど」
年上か年下かお互いわからないが、不思議と違和感が浮かんで来ない。一目惚れのせいもあるかもしれないが、どうやら同じような事情持ちということで彼女の敷地に今度お邪魔する流れになった。
彼女も彼女で、宝のタネを埋めて生活を続けていたが。今日に限って門を越えて焚き出しの練習をみろと管理者から言われたそうだ。
「ふふ。見つけちゃったもんね! クーちゃんとのご飯交換するんだー!!」
「……やったら、いっしょに移動販売がよくないか?」
「それもいいね!!」
という流れにもなり、なんだかんだで意気投合出来たのだった。
次回はまた明日〜




