第28話 家の敷地から??
連絡板を見て、クルスは首をひねることになった。
「敷地から出て、『移動販売』出来るもん作ろう。まずはスープから??」
この敷地を出た向こう側で、生きている国民がいるのか。もしくは、似たような境遇の人間がいるかもしれない。
そんな暗示をしている具合の、指示にクルスは首をひねるばかりだが。いい加減、会話も何もない連絡板以外の『誰か』と会話をしたかったのは本当だ。
その助力になるかもしれない、『移動販売』とやらで会えるかもしれないのは嬉しいものだ。管理者がメニューを希望するのであれば、そのための『道具』は調理場にあるらしいので見に行くことにした。
「……でか」
通常の鍋より深さがあり、寒くても冷めにくいような鉄で出来た大鍋がいくつか。調理場自体も、この鍋で調理出来るような頑丈の竈門みたいな設備が幾つか整えられていた。
それとメモに『このメニュー』とオススメのものが書いてあったので、だいたい記憶してから畑に行って収穫。出来上がったら味見は忘れない。朝飯がわりに一杯ずつ食べたが、どれもなかなかに飲みごたえもとい『食べごたえ』のある食事向きのスープだった。
「パンも焼けたし……行くか」
スープの鍋と器の準備。スープだけではと、黒パンも焼いてカゴに入れ。荷馬車の台車に乗せ、引っ張るのはクルスが請け負う。この土地でしっかり休んだおかげか、重い荷物のそれを引っ張っても短距離であれば問題なかった。
「……お? 開いてる」
雪掻きした敷地より少し先。管理者権限なのか、開かない門があったので……閉じ込められたかと勘違いしかけていた時もあったが。
今日のための準備ができるまで、もしかしたら管理者がクルスの代わりに戦闘して守ってくれていたかもしれない。そう思えば早く開けようと、荷車から一旦出てゆっくり強く扉を押してみる。
「……おぉ」
血の臭いこそはしないが、焦げた鉄臭さなどが鼻をつく。
やはり、外は外で戦争が続いていたのだろう。そう思えば、宝を埋めたがあの場所で護られていたのだなと感謝の感情が込み上がって涙が出そうだった。
まばらに人間や亜人種がいるような影が見えたので、荷車をゆっくりと引っ張り……初経験だが、『屋台』の口上で呼び込みしてみることにした。
「す……スープぅ。あったかい、スープいらんかねー!」
ぎこちない口上にはなってしまったが、影が揺れたのが視界の端に見えた。よろよろ動く影がこちらに近づいてくれば、ボロ布を被った子どもがクルスの前まで来てくれた。
「……かね。お、かね……な、い」
予想の通り、金銭を持ち合わせていない言葉を口にしたが。クルスは連絡板で管理者が注釈に書いてあったことで返事をした。
「ええよ。俺も金欲しいわけで来たんちゃうから」
「……い、いの?」
「おん。販売やけど、気持ちだけでええから」
食べてくれないか?と言えば、細い首を縦に振ってくれた。木で出来た碗とスプーンを渡し、好きな味のスープを入れてやれば……匂いがそこかしこに広がったのか、もそもそと影が動き出してきた。
「いー匂い! ね? 君が作ったの!?」
子どもがはふはふスープを食べているのを見守っていたら、軽く肩を叩いてきた少女が後ろに。はにかみ笑顔がチャーミングだったので、クルスは好みの容姿のそれに少しドキッと胸が高鳴ってしまう。
次回はまた明日〜




