第18話 自分と『自分?』
会社ではなく、自宅に来いと成樹に言われた美晴だったが。
休日出勤でもないし、お互い在宅ワーク業務も請け負っているので別段ズル休みでもなんでもない。時代の流れとやらで、自宅業務を増やすきっかけが出来始めただけだ。
もともと専門職の一端でも、仕事に必要なスペックさえ整えれば自宅で仕事をする人材だって多い。主婦で内職なのも、一応扱いに含まれるらしいが……聞こえがいいのは在宅ワークの方かもしれない。
始業時間を守って、『リモートワーク』をするなどもあったりするが……あの時期はあまりいいものでもなかった。
(……俺にもとうとう、『てんかん』まで来たかと思ったわ)
実の妹が健常者でないのは生まれ付きだったが。それをからかって、美晴の名前をいじる意味でいじめるケースもなくもなかった。
それの負荷が積もりに積もり、表面は交流とかを適度にしていただけだった。関西の大学に行ったのも、半分家から逃げたかったかもしれない。
足が悪くとも、自分也に頑張ろうとしている妹を見続けるのも辛くなってきて……言葉も似非であれそちらに染まろうとしていた。結局、就職で転属という形でリモートワークしつつ、関東に戻ったものの……こころの負荷にはまた苛まれようとしていた。
『彼』との夢渡りとやらが、病でもなんでもない事実だと知るまでは。
『おーい、そっちの俺ー? 声聞こえているか?』
社会人になり、適度な負荷に揉まれ続けたことで……とうとう、美晴にも鬱病か何か精神病が来たかと勘違いした。
身体を起こそうとしたが、金縛抜きに動けずに目線で『ちょい理想の自分』が顔を覗き込んで来たのを目で捉えるしか出来なかった。
「だ……誰や」
『まあ、他所のだけど『自分』に声届くとか想定外だよな?』
「……マジなん? これ、てんかんとか感覚過敏違うん??」
『大真面目。そんな個性的なスペック持ってんのは元からじゃね? 並行世界のひとつじゃ、【神】なのに』
「…………ぶっ壊れたん、俺?」
『ある意味ではな? 俺が接触出来るようになってっし』
そしてそこから、昔の悪友と合流しろとか。妹はちゃんと大事にしろとか説教されまくり……溜まってつっかえてたモノがほぐれたのは、そこから『上司』として再会した成樹との和解のおかげだ。
だからこそ、彼が藍葉のために尽くしたいという本気を謝罪も込みで見せてもらった。
美晴自身も、プロジェクトの要になりつつ昇進もしたし、藍葉とのわだかまりのようなのも取れてきたのがわかる。障がいだけで線引きしてた優劣など、個人的に気にしてただけに過ぎなかったのだ。
周りの態度はどうであれ、修復が間に合って良かった。だから、次は成樹と藍葉の番だ。
妹の個性は少しのズレがある以外、健常者と括った世間体となんら変わりない。その生き方と発想力が、今美晴たちに協力してもらえているのだ。
ただし、並行世界とやらの『異世界ファーム』という名目で、国交回復をしているとは流石に教えるにはまだ早いが。
「おーい、シゲ?」
在宅ワークでも、時々共同会議という名目で移動するのに合鍵は持っていたが。
インターフォンを鳴らしても、鍵を開けても返事がない。
呼び出しておいて、無言の返答がおかしいなと職場に使う部屋の方を開けてみたのだが。
「……もうなんじゃ、あれ。正社員に起用してもええんか!?」
などと、ぶつぶつ呟いていた成樹がいたので……そんな状態に出来るのは藍葉しかいないなと、差し入れを適当に置いてから確認するも。
「…………すまん。お前の役に立ちたい意識、強くなったんやろな?」
予想以上に本気を出してマニュアルを作ってしまっていた。であれば、妹と上司のデートくらいは休日プランを提案しようと、兄としては考えるほどに。
恋の力は偉大だと、悪友と妹を見ているとよく理解出来た。
次は、美晴自身がこの『異世界ファーム』と接触しなくてはいけないのだが。あの『神』はそろそろ来てくれるだろうか、と進捗が凄過ぎてよくわからなくなりそうだ。
次回はまた明日〜




