第14話 拗らせているものの
初恋の相手が、十年ぶりに再会するまで……さらに、藍葉好みにイケメンになるのは仕方がないにしても。
実質的な直属の上司になると、娯楽漫画や実写版ドラマで起きるそれと同じに感じた。運命的な恋なのか、たまたま手術費への協力をしてくれているだけにしても。
これで、さらに惚れるかと言えば……内心は耐えているところだ。なぜかと言うと、十年前に彼からなじられるのと同等の言葉を投げられたから。
『うっぜぇんじゃ……』
正確には藍葉ではなく、その時にしつこく告白して来た女子生徒へだったが。近くに居た藍葉自身にも、補助以外で迷惑をかけていたと小学生でも理解した。あの頃は、まだ松葉杖でも付き添いがいないと難しい時期だったから。
そこから、社会性への協調が低くなり。ひとりで生きていけるかどうかの試行錯誤ばかりして来たのだ。
だけど、今は違う。
コーヒーショップという目立つ場所でも、個人としての謝罪はしてくれたし。上司としても、逐一報告はしてくれないかとの提案もあった。
拗れに拗れた藍葉の内面は、どうしても混乱したけれど。
「……結局は、ずっとずっと惚れてたんかい」
部屋に戻って来てから、まあ自分なりの声量で叫んだが。ベッドに転がっても、くすぶってた恋心は燃え尽きていないことを理解したのだった。
自分で自分を傷つけても、結局は茂樹への恋心は壊れていなかった。むしろ、いつか告白してやるために健常者への道を見出せるんじゃ……と、美晴からの提案を受けたのかもしれない。本能的に。
とは言え、ポイ活のモニター側としては無理をしない方がいいなと……端末の指示表は複数増やしてみた。
まさか、キャラメイクの追加項目の時の声が、向こうに聞こえているとは思っていなかったけれど。
「……ダメだ。似せ過ぎた」
髪色とかは違うようにしたのに。
服装を整え、髪もゲームの中のようにデザインを選んだだけだが。
目の色も合わせれば、数時間前に再会した成樹に似てしまうのも無理はない。リセットしたいところだが、リターンボタンがないので諦めた。
「……あーあ。もう、シゲくん意識してたの。にいちゃんにもバレてたのかなあ?」
受け入れて欲しい。最後には連れてって欲しい。
そんな自分勝手なわがままに、どこまで付き合ってくれるのか。身内以外に友達以上であれば……やはり、成樹以外に考えたくなかったという拗れた恋心が、ずっとあった。
そんな彼に、社会人として少し頼られることになったのなら……ここは、モニター以上の契約が出来ないか。交換したSNSのメッセージで早速送ってみた。
『お疲れ様です。いきなりで申し訳ありませんが、貴社でインターンの受け入れ制度はあるでしょうか?』
ますは、社会人に向けて大学は卒業したいし、いっしょの会社でちゃんと働けるならそれくらいしたかったからだ。
すると、数分後に返事は来たのだが。
『お疲れさん。……美晴、インターンの話せんかったのか? モニターが既にそれぜよ?』
「にいちゃーん!?」
一度も聞いていないことに文句を言いに、介護杖を乱雑に使って兄の部屋に押しかければ。『堪忍』と、口止めしていたことをきちんと謝罪してもらえた。
次回はまた明日〜




