第13話 これは療養なのか
宝物を埋め、『任務』とやらで生み出された家に滞在して数日経ったが。
身なりを整えるのに、お風呂以外の任務をする日が来てしまったらしい。髪や髭は、たしかに伸び放題だったが……それを整えても『見る相手』がいないのに。
しかしながら、管理人の連絡版に『次は清潔面』と。
適当に伸びていた髪もだが、髭も酷い。こちらが場を用意するから、お風呂後に指示した場所へ。
(……なんや、圧感じるなあ?)
直接会っていないのに、こちらの様子を見られるのは今更だったが。男か女かもわからな相手に、そこまで身なりを気にされるのはいくらか気恥ずかしく感じる。
村での生活でも、親が適当に髪を整える以外はざっくりしたものだった。
(……とは言え、下手すると『神』かもしれんのや。従っとこ)
魔法の家に畑。いつでも清潔なお湯処。
それを貸し与えてもらっているからには、ある程度の敬意を表するのもこちらがすべきことだ。十代の若い頃と違い、多少は相手を気遣う年齢になってきたのだから。
生かされた分、新しい経験をするのもまた一興。
服は汚れても良さそうな着替えを持ち、指示通りの場所へと行けば。
《この部屋へ》
プレートにそう書いてあったので、着替えをしてから中に入れば。
【ほいっと】
妖精のように愛らしい声と同時に、目の前に大風でも吹いたのか……前が何も見えなかった。風の音に混じって、『あーでもない』『こーでもない』と、声が雑音のように聴こえたけれど。
収まってからは、服には髪を切ったような屑がたっぷりと残っていた。
【……そのままお風呂に。着替えは用意しておく】
声をかけられたのだと、少し嬉しくなった。女神に見出されたのかと、浮き足立つ気持ちになったものの。汚いに変わりないので軽くなった髪を整えるのに、もう一度お風呂にと入らせてもらえば。
脱衣室に用意してあった『姿見』で自分の顔を改めて確認した。
細い方ではあるが、歩兵だったことで腕っぷしは多少ある感じ。髪は傷んでいたせいか、清潔にするとここまで黒かったのかと今更気づいた。
「……俺、こんな顔しとったんや」
男前と言っていいのか判断できないが、自己評価としては悪い方ではないと思いたかった。色街に繰り出すこともしなかったから、女の扱いもよく知らないが。連絡版やさっきの声を掛けてくれた『管理人』に、いつかそんな相手を紹介してもらえるんじゃ?と、勝手な妄想が膨らむくらい、いい気分になった。
死ぬ駒扱いだった歩兵の人生は終わり、健康的な第二の目標が決まったのならば。この家にいずれ誰かを呼び寄せてもいいように、整備とかくらいはしようと決め。
明日は、草刈り方法を聞けるか……連絡版に初めて『書き込み』をしてみれば。
【次は、外との交流前の準備。覚悟を決めて、外を見よ】
と、すぐに返事が来たので……そう言えば、国は崩壊したのだと改めて思い出した。
「……せやな。ここから再スタートなんかも、俺やとわからん!!」
のんびり生活はここ数日で堪能したに等しい。次は次で、他者との関わり合いが必要と、クルスも心の英気が整ったようだ。
次回はまた明日〜




