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27.

 シエルと想いを確かめ合った翌日、私とルチアは民の前に立ち、話をした。

 前国王のこと、妖精の守護のこと、そして今後の国のあり方についてを。


 特に妖精の守護と国の在り方については、守護は確かに便利で頼りがちだけど、今回のようにいつ何が起こるかは分からない。

 そのため、妖精に傾倒することなくあくまで共生という形を保ち、皆が協力し合って自然と共に生活していけるように設備を整えていこう、という話をした。


 それから……。




「本当に、よろしいのですか?」


 恐る恐ると言ったふうにルチアに尋ねられ、「えぇ」と迷うことなく頷き答える。


「シエルとも、きちんと話をしたわ。

 その上で私は、ラーゴ王国に帰国するのではなく、ルチアが安心して女王の座に着くことが出来るよう、補佐する道を選んだ」


 そう、シエルは今日、ラーゴ王国へと帰国する。

 理由は、ラーゴ王国の国王である彼が長くこの地に滞在すべきではないから。

 そして、本来帰国すべきはずの私だったけど、前国王が私とシエルの婚姻を認めていなかったらしく、婚姻届が受理されていなかったこともあり、もう少しの間だけこの地に自分の意志で留まることにした。

 それは、先ほども述べた通り、ルチア一人では心配だったから。


「ルチアが女王となることに変わりはない。

 だけど、前国王と私のせいで、公務に携わったことのない貴女一人に責務を負わせるのは違う。

 だから、一年を目処に、貴女が女王となるのを見届けてから、シエルと一緒になることにするわ」

「でも」


 なおも戸惑ったように言葉を発しようとしたルチアの言葉を遮ったのは、私の後ろから現れたシエルだった。


「気にしないでください。たった一年待つことくらいなら造作ないです」

「そ、そうなんですか……?」

「はい」


 ルチアに向け涼しい顔をしてそんなことを言いのけるシエルに、私は内心身悶えていた。


(嘘よ、昨日は“一年分の愛をください”と言って、私のことを手放さなかったくせに)


 彼を待たせてここに残ると言った私が確かに悪いかもしれないけれど、でも、昨夜はおかげでほとんど眠ることが出来なかったわ、と抗議の目を向ければ、シエルはそんな私に気が付き、顔を近付けて耳元で囁いた。


「それとも、またここで息もできないくらいの愛を示してくれますか?」

「!?」


 バッと耳を抑え、彼を見やれば、シエルは長い指先でトントンと自身の唇を叩く。


「〜〜〜調子に乗らないっ!!」

「いででで」


 シエルの片頬を摘めば、大して力を入れていないというのに大袈裟に痛がる彼の頬から手を離し、息を吐くと。


「シエル」


 居住まいを正して彼の名を呼べば、シエルもまた「はい」と真剣な表情で言葉を返す。

 そんな彼に、柔らかな笑みを浮かべて言った。


「ありがとう」

「礼には及びません。貴女の、お望みのままに」


 そうして頭を垂れるシリルに近付き、皆に見えない方の耳に囁いた。


「もう少しだけ待っていて。私の、大好きで愛しい人。愛しているわ」

「!!」


 私の言葉に、目の前にあるシエルの肩が揺れる。その一瞬片頬に口付け、サッと後ろに身を引いて言った。


「元気でね」

「〜〜〜エレオノーラ様、これはいくらなんでも心臓に悪いです……。もうすでに、待てなくなりそうなんですが」

「耐えてちょうだい」


 昨夜のように私もやられっぱなしではいられないわ、と態度で愛を示したら、シエルに効果覿面だったらしい。

 まあ、シエルが喜んでくれていそうなので良いわよね、と結論づけ、別れを惜しみながら彼が乗った馬車を見送る。

 しばらく馬車が見えなくなった後も見つめていたけれど、気持ちを切り替えるように城の方に向き直り言葉を発した。


「……さて、行くわよ、ルチア。まだまだやるべきことは沢山残っているわ」

「はい、お姉様!」


 ルチアの返答に、「良いお返事ね」と笑みを浮かべ、二人並んで城へと向かって歩き出した。







 ―――……一年後


「……あ」


 城門を出て少し歩いた場所に、よく知る人物の姿を捉える。

 心が震え、思わず立ち止まった私の元に、その人は歩いてきて、膝をついて言った。


「お迎えにあがりました、エレオノーラ様」


 その声、その姿に泣きそうになるのをグッと堪え、膝をつく彼の手を取り言った。


「お迎えありがとう。でも、立ってちょうだい。

 私は、これからは貴方と対等に話がしたいわ」

「それは、難しいお願いですね……」


 そう言いながらも、渋々私の手を取り立ち上がるシエルを見上げ、微笑みながら言った。


「ただいま戻ったわ」

「! ……おかえり、なさいませ」


 辿々しく答えたシエルに吹き出し、彼もまたつられて笑みを溢す。


「一年、長かったですね」

「あら、そんなことを言って、魔法で私に何度も会いに来てくれたじゃない。おかげで、寂しくなかったわ」

「あれだけしか会えていないのに、寂しくないんですか?」

「一年の間に一度も会えないことを覚悟していたから、その分嬉しかったのよ。

 これからは、ずっと貴方の隣にいるわ」

「〜〜〜エレオノーラ様!」

「わっ」


 シエルは嬉しいという感情を、包み隠すことなく私を抱き上げその場で回る。

 あはは、と笑いながら、彼は私を抱き上げたまま立ち止まり、尋ねた。


「さて、これで私も貴女も人間界での使命は終わりました。

 これから、どこに行きましょうか」


 そう、私はもうファータ王国の女王補佐ではない。

 そしてシエルは、ラーゴ王国の国王ではない。

 それらは、他ならない私達が願ったこと。

 一年の間に、身辺整理をしたのだ。

 だから、シエルの言葉に、私は……。


「貴方とならどこへでも!!」

「わっ!?」


 シエルに思い切り抱きつけば、彼もまたギュッと抱きしめ返してくれる。

 その温もりを、幸せを噛み締めながら、見つめ合った私達は、どちらからともなく誓うように唇を重ねる。

 しばらくそうして再会を喜び合った後、私達は互いに手を取り歩き出しながら、言葉を交わした。


「人間界で暮らすのも楽しそうよね」

「スローライフ、というものでしょうか」

「そう! 楽しそうではない?」

「そうですね、楽しそうです」

「……そう言う割には、あまり楽しそうに聞こえないけれど」


 私の言葉にシエルは立ち止まると、笑いながら言った。


「実は、その後のことは何も考えていなくて。ただ私も、貴方といられれば何でも良いのです」

「! お揃いね」


 そうして笑い合っていると、今度は妖精達が姿を現す。


「どうして笑っているの〜?」

「これからはシエルと二人で一緒にいられると思うと、自然と笑みが溢れるのよ」


 シエルと視線を合わせながら言葉を返すと、妖精達もまたキャッキャッと声を上げた。


「二人が幸せそうで、私達嬉しい!」

「二人についていく! 助ける!」


 その言葉に、私とシエルはもう一度顔を見合わせてから微笑みを浮かべ言った。


「「ありがとう」」


 そうして私達は、手を取り再び前を向いて歩き出す。


(シエルとルチア、それから……人間界に祝福を)


 どうかこの国が、この世界が、笑顔と幸福で満たされますように。







こんにちは。作者の心音瑠璃です。

皆様の応援のおかげで、ついに無事物語を完結することができました…!

大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ございません!

その間にも、いいねや評価等、ブクマ登録が大変励みになっておりました。


今回は元は人間ではない二人と妖精の物語でしたが、いかがでしたでしょうか?

恋愛模様に加え、エレオノーラが伝えたかったことの考察含め、楽しんでお読みいただけていたら嬉しいです…!

最後まで応援、お読みいただき本当にありがとうございました!!

またどこかでお会い出来ますように。


2025.7.8.心音瑠璃

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