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23.*

前半エレオノーラ、後半ルチア視点です。

ついに悪しきファータ王国の国王、成敗回の幕開けです…!

 そして。


「準備はよろしいですか?」


 シエルの言葉に、私とルチアは視線を合わせて頷くと、シエルが私を見て笑って言った。


「良い顔をされていらっしゃいますね。緊張されていないようで何よりです」

「いいえ、緊張はしているわ。けれど、シエルとルチア、妖精達もいてくれるから、とても心強いの」

「「……!」」


 私の言葉に、二人が固まってしまう。

 いつまでも返事が返ってこないことを不思議に思い、声をかけた。


「えっと、大丈夫? 何か変なことを言ったかしら?」


 私の言葉に、ようやく我に返った二人が、今度はそれぞれ明後日の方向を見てからもごもごと口にした。


「これだから、エレオノーラ様は……」

「お、お姉様の天然って凄い……魔性の女ってお姉様のような人のことを言うのね、きっと……」

「な、何か?」


 話が読めないでいる私に、二人は気にしないよう言ってから、今度こそとシエルが気を取り直して言葉を発した。


「それでは、参りましょう」


 シエルが私の手を、私はルチアの手を繋いで。


「“ファータ王国へ”」


 そうシエルが唱えたことで、私達の身体は眩いばかりの光に包まれた。






(ルチア視点)


 謁見の間には、多くの騎士達の姿があった。

 そして、中央にある階段の上の玉座には、国王陛下のお姿がある。


(国民が寒さや飢えに苦しんでいるというのに、国王陛下だけは変わらず痩せているどころか肥えている……、それだけでない、護衛の騎士も多すぎる。

 この惨状で国民からの非難を買っていることで、自分の身が危ないからと貴重な人員を護衛に回しているんだわ)


 怒りを通り越して呆れながらも、頭を垂れて跪く私に、国王陛下は偉そうに口にした。


「妖精の愛し子、ルチアよ。この城へ戻って来たということは、隣国からの援助は受けられたということだな?」


 国王陛下の言葉に、私は心底落胆した。


(分かってはいたことだけれど……、労いの言葉をかけるどころか、自分のことしか考えていない発言だわ)


 でも、おかげで覚悟は決まった。

 国王陛下に情けをかける必要はない、ということを。

 私は深く息を吸うと、落ち着き払った声音で口を開いた。


「恐れながら、陛下。隣国であるラーゴ王国からの援助は、受けることが出来ませんでした」

「……何?」


 陛下の怒りが交じった声音に、いつもだったら震え上がっていたけれど、今は違う。

 もう一度、今度は顔を上げてはっきりと告げた。


「断られた理由を申し上げます。

 それは、『貴方が独り占めするのが目に見えているから、貴方には一ミリたりとも支援したくない』と。

 ……つまり、自分のことしか考えていない自己中な貴方に国王を名乗る資格などない!!」


 あえて敬語を外した私に、国王陛下は案の定激昂し、玉座から立ち上がる。


「っ、この役立たずが……っ!!」


 国王陛下が階段を一歩下がろうとした、その時。


「役立たずとは、一体誰のことだろうか?」

「!? うわあああーーー!!」


 突如として国王陛下の背後に現れ、耳元で囁いたその人を幽霊だとでも思ったのだろう。

 国王陛下は哀れなことに階段を踏み外し、盛大に階段から転がり落ちた。


「っ!? 痛い痛い痛い!! だっ、誰か! 早く医者を」

「必要ない」


 悲鳴交じりの国王陛下の声を無情にも遮ったのは。


「!? シエル・ラーゴ……!!」

「お前からの援助の申し出を断ったのは私だ、哀れで愚鈍なファータ王国の国王よ」


 壇上に忽然と姿を現した二人の内の一人、無様に転げ落ちた国王陛下を冷笑するラーゴ王国の国王・シエル様だった。

 シエル様はそんな国王陛下を見下ろし、言葉を続けた。


「この惨状を招いたのは、他でもないお前だ。

 そんなお前を援助しようとは誰も思わないが、そこにいる“妖精の愛し子”の願いとあらば、心優しい彼女が叶えてあげたいのだそうだ。

 せいぜい感謝することだ、使えない役立たずで傲慢な国王よ」

「彼女……?」


 国王陛下が首を傾げる。

 その間に、ゆっくりと前に進み出たのは、ベールを深く被った女性の姿だった。

 そしてその人は、両手を天高く掲げ、声高に告げた。


「妖精女王の名の下に次ぐ! 妖精達よ、ファータ王国に再びの祝福を……!!」


 刹那、眩いばかりの光と風が、女性を中心に巻き起こる。

 目を開けているのもやっとだったけれど、閉じることなど出来なかった。

 だってそれは、あまりにも美しく尊い、今までに見たことのないほどの神秘的な光景だったのだから。

 そうして次第に光と風がおさまったことで、凍りついていたはずの空気が暖かく包み込まれるものに、そして、そのはずみでベールが取れた女性の姿が顕になる。


「……エレオノーラ様」


 ポツリと呟いた名は、エレオノーラ様の耳には届いていないはずなのに、エレオノーラ様はこちらを見て慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

 その笑みは、昔から変わらない安心する笑み。

 だけど、先ほどまで暗かった空が嘘のように明るく、窓から差し込む陽の光を一身に受けたエレオノーラ様のお姿は、まさに妖精女王そのもの。

 神々しいばかりの美しさと温かさに、知らず知らずのうちに張り詰めていた思いが、涙となって頬を伝い落ちていくのを感じた。

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