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今話も引き続きルチア視点、中盤からエレオノーラ視点に戻ります。

(誰も私のことを……、私自身を見てくれない)


 お役目があるから、私はここにいられる。

 当たり前だ、だって孤児だもの。

 そもそも屋根がついた場所で三食食べることが今まで出来ていたのだから、それだけでも感謝すべきだ。

 たとえ、妖精の加護を受けられない国になってしまったのが私が原因だと罵られ、捨てられたも同然のように助けを求めて隣国へ行ってこいと陛下に命じられても。


 隣国へなんて行きたくない。

 お姉様に合わせる顔がない。

 どんな顔をして助けを求めれば良いのか分からない。


(私という存在のせいで、お姉様の幸せに水を刺したくない……)


 もう、ここで終わりにした方が良いのかもしれない。

 そうすれば、ファータ王国は滅亡する。

 妖精がいなければ成り立たない国など、滅びてしまえば良いんだ。


(……もう、良いや)


 もう、疲れた…………。


 ―――ルチア


「っ……!!」


 ハッと目を開ける。

 そこにいたのは、見紛うはずもない……。


「っ、おねえ、さま……」


 でも、髪の色が違う。瞳の色も、私が知っているお姉様とは違う。

 だけど、私を見つめる温かな瞳も、目が合うといつも柔らかな笑みを讃えてくれるその表情も、私が大好きなお姉様そのもので……。


「貴女を一人にして、辛い思いをさせてしまってごめんなさい。

 もう、大丈夫だから。どうか私の手を取って。戻ってきて」

「……っ」


 差し伸べられた手。

 その手に幾度となく救われてきた私は、迷うことなくお姉様の手を取った……―――





(エレオノーラ視点)

「ん…………」


 ルチアの口から微かに漏れ出た声を聞き逃さず、祈るように彼女の手を握っていた私は、失いたくないと叫ぶように名前を呼んだ。


「ルチア!」

「!」


 その声の大きさに驚いたのか、ルチアがハッと目を開ける。


「エレオノーラ様、病み上がりの妹君お相手にさすがに刺激が強すぎるのでは……」

「そ、そうね」


 私はコホンと咳払いすると、何が起こっているのか分からないというふうに、今もなお大きな瞳で私を見つめる彼女の顔を覗き込むようにして言った。


「気分はどう? 寒くはない? 何か温かい飲み物を用意してもら」

「お姉様……っ!!」

「!」


 ルチアは身体を起こし、病み上がりとは思えない強い力で私を抱きしめる。

 震える肩と込められた腕の力に、どれほど彼女に今まで重すぎるほどの荷物を背負わせてきてしまったかを思い知る。


「……ごめんね、ルチア。貴女の味方だと言いながら、貴女の元を離れてしまって、そのせいで辛い思いをさせてしまって……」

「っ、いえ、いいえ、お姉様のせいではありません。

 私が、お姉様の代わりに、なれなかったから……」

「……そう。貴女はやはり、全て知っていたのね」

「お姉様も、もうご存知なのでしょう? どうして私が、ここにいるのか。お姉様がいなくなったファータ王国で、一体何が起きているのか……」


 ルチアの言葉に、彼女から身体を離し視線を合わせ、慎重に頷く。


「えぇ。妖精達から全て聞いたわ。けれど、貴女の口からも直接聞きたい。

 妖精の愛し子である貴女から見たファータ王国が、今どのような状況に置かれているのかを」


 ルチアは私から視線を外し、俯いたものの、すぐに意志のこもった真っ直ぐな瞳で私を見つめて言った。


「もちろんです。全て、お話しいたします」



 そうしてルチアの口から語られた現状は、妖精達から語られたものよりも凄惨な状態だった。


「……私がいなくなったことで妖精からの加護を受けられず、そのせいで気候が真逆のものになり、備蓄していた食糧もとっくに底を付き、防寒具もなく、飢えと寒さに民は苦しんでいる……」

「はい。極めつけは、国王陛下含め城の一部の者達のみ食糧を確保し、防寒具もかき集めたものを使用しています。

 また、城内の者達からは一時民を城に避難させてはとの声が出ましたが、防犯上の観点から国王陛下の許しが出ず……」

「……結果、民が皆殺しにされていると」


 ルチアは黙り込む。

 その沈黙を是と捉え、私はすぐさま名を呼んだ。


「シエル」

「いけません、エレオノーラ様」


 誰よりも忠実で誰よりも私のことを分かっている彼が、鋭い眼差しを向けて私を制した。


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