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傾界の聖女  作者: たま露
【水・土の領地 編】
246/318

245 古代と印象

「火の精霊?!」


(ぼくは土~。ネディーネは水で、フィニルは風。思い出した~?)


 ジルの腕のなかで、ぬいぐるみのような橙色の体が傾いだ。思い出してはいない。しかし、古代に存在したとされる精霊をジルは知っている。遺失魔法は廃れた術だ。遠い昔に精霊は姿を消し、目視できる人間はもういないはずで。


 ――これも、私の魔力が関係してるのかな。


(ヒトがきた)


 突如、ムーノの気配が引き締まった。落ち込んでいても、どこかのんびりとしていた土の精霊はジルに抱えられたまま、ここではないどこか遠くを見ている。来た、ということはジルたち以外の人間を指しているのだろう。


 土の神殿を囲む森はソルトゥリス教会が管理しており、部外者は軽々に立ち入らない。一番高い可能性として思い当たるのは、管理小屋で遭った神官だ。先刻、神殿への路を拓くためにムーノが地を震わせたから様子を見に来たのかもしれない。


「その人は神殿に入ってきたの?」


(ん~ん、森にいる。見つかる前に、土のなかにかくさなくちゃ)


「待って! もしかして私たちごと、神殿を地中に埋めようと思ってる……?」


(わるいヒトが、入れないようにするの~)


 橙色の光が強くなった気がして、ジルは慌ててムーノを眼前に掲げた。向き合った土の精霊は、なにを言われているのか分からない、と見た目通り幼い子供の顔をしている。


 ルゥの精気を護るために、ムーノは土の神殿へと続く路を閉ざしたいのだろう。ジルとしても侵入していることは隠したい。しばらく潜伏してやり過ごせるならいいけれど。


「神殿が土に埋まったら、空気はどうなるのかな?」


(くうきってなあに?)


「皆さん今すぐ神殿から出ましょう! ムーノ、私たちが地上に出たら埋めてもいいから、もう少しだけ待って」

「強化魔法使えます?」

「誰に訊いてんの」


 ムーノの声はデリックとクレイグには聞こえていない。にも関わらず、二人はジルの唐突な掛け声に問い返さなかった。


 神殿を地中に隠すとはいっても、建物内まで土に埋め尽くされるというわけではないだろう。しかし、新鮮な空気を取り込めるのか疑問だった。ゲームの通りなら、土の神殿ヘの入口は毎年異なっている。それはつまり、儀式の日以外は空気の通り道がないに等しい。


 ジルの目線に浮かんだムーノは小さな体を前に折って、さらに小さくなった。


(いたいの、ごめんなさい。ぼく、まもってるから)


「うん、わっ」

「オレはジル抱えて走るんで、ミューア先生は自力でお願いしまっす」


 クレイグが不機嫌そうに鼻を鳴らしたと思ったら、景色は風を切って後ろへと流れていた。あっという間に横抱き状態になっていたジルは落ちないように気を付けながら、デリックの背後へと目を向ける。


(ルゥおこってなかったって、サンラドに言っとくね~)


 白い空間にぽつんと浮かぶ橙色の光は、手を振るように揺れていた。


 ◇


 三人が地上へと続く坂道を登りきった直後、森が大きく震えた。


 ムーノが土の神殿を地中に隠したのだろう。運んでくれた騎士に礼を伝えつつ振り返れば、そこには森が広がっていた。周囲とおなじ樹々や草が生えており、先ほどまで地下へとつづく通路があったとは思えない、地上に出ているはずの主塔もすっかり見えなくなっていた。


「精霊ってすごい」

「ご無事ですか……!」


 呆気にとられていたジルの後方から、焦りの滲んだ声が近づいてきた。草地を踏み鳴らしやってきたのはジルの予想した人物だった。一度だけでなく二度も大きな揺れが起きたのだ。クレイグの姿を確認した神官は、安堵の息を漏らしていた。


「オレも土の神殿も変わりない。聖堂に帰れ」

「ご心配くださった神官様に、そのような言い方は」

「いえいえ、わたしが勝手に戻ってきたのです。皆様おケガはなく安心致しました。お預かりした薬種、確かにお運び致します」


 出会い頭に追い返されたにも関わらず、神官はにこやかに一礼して森の出口へと踵を返した。去っていく神官も町の人たちと同じ、女神先生の信奉者なのだろうか。今の時刻から土の聖堂を目指した場合、到着は深夜を大きく過ぎる。


 土の神殿を擁する森は夕陽に浸かり始めており、深まっていく秋を感じさせた。


「神官様は、外の教会に宿泊されないのでしょうか!」


 影を濃くした樹々に交ざり動いていた人影が足を止めた。ジルの問いに振り返った神官の表情は見えづらい。


「土の大神官様のご指示に従い、薬を待つ人々を優先致します。わたしも魔法の心得がありますので、ご心配には及びません。それに、もしもの時にと土の大神官様から薬を頂戴しているんですよ」


 その声に不服は含まれていなかった。神官はクレイグの日頃の行動から、あの短い言葉の本意を推察したのだろう。土の聖堂に配属されているのだから、ジルよりも土の大神官と接する機会は多いはずだ。


 ――ゲームの印象に、引きずられ過ぎてるのかも。


 ジルは引き留めてしまったこと詫び、道中の無事を祈って神官を見送った。

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