最後の試練:出立
ナリキンは配信用魔道具を受け取った。
準備すると言われてからきっかり1ヶ月。ギリギリまでダンジョンの調整をしていたのだろうと思われる。
「アルカ殿。ようやく機材が届きましたぞ」
「あら、早かったですね」
そんなわけで、聖女アルカに報告したのだが……この反応を見るに、まだまだ時間は稼げるところだったようだ。1ヶ月ギリギリまでかかった言い訳に、機材の調整が、と言いかけていたナリキンは言葉を飲み込んだ。
「……普通はもっと時間がかかるものなのですかな?」
「ダイード国との距離を考えたら、相当早いですよね。それにスケジュールをちゃんと守ってくれるだなんて……素晴らしくないですか?」
ナリキン様、相当に相手から重要人物だと判断されていますね。とほほ笑むアルカ。
どうでも良い相手なら余裕でスケジュールを越えて遅延するものらしい……教皇候補、ともなれば普通に重要人物なのではないかと思うのだが。
「アルカ殿はスケジュールを遅らされた経験が?」
「ありますよ。聖女とはいえど、他国との力関係もありますから。それに要請を断られることも多々あります、ダンジョンの破壊などは特に」
無限に資源を産む鉱山ことダンジョンを壊させろ、という要請はそりゃ断られて当然だろう。
「ですが、ナリキン様が教皇になった暁には、他国のダンジョンをも破壊できるようになりますよね?」
「さて、保証は致しかねますな。他国には他国の宗教がある。教義の違う相手に無理強いするのは趣味ではない。互いに尊重してこそ、健全な国交になるというもの」
そんな話をしつつ、必要機材が届いた以上、これから配信機材を使ってのダンジョン攻略が始まる。
機材を前にも使った広場に設置し、テスト。無事映ることを確認し、あらかじめ準備してあった荷物を持って出発した。
今回は現地における聖女の復活が必要ないため、従者も同じく必要ない。
攻略に失敗したときは試練失敗。その時は聖女だけが本神殿にある祭壇で復活することになるが、むしろ帰る手間が省けて良いとまで言える。
二人同時に死んでいたらナリキンの死体を回収して蘇生を試みることもできないが……
もっとも、試練を出したバラクドをはじめとし、誰一人ナリキンが試練に失敗するとは考えていなかった。聖女も、マグニ上級神官も、そしてもちろんナリキン本人も。
「……む?」
「おや。広場で準備していたうちに話が広まったのでしょうか?」
門までの道のりに、人々が集まっていた。通行を邪魔しないよう、道の左右に。大通りの中央はガラリと空き、馬車も走っていなかった。
そこは、ナリキン達が往く道であった。
「皆、ナリキン様を慕っておりますね」
「うむ。……???」
人々に挟まれた道を堂々と歩くナリキン達。
突発的に出発したにも関わらず盛大な見送り。ナリキンと聖女、ただ2人のためのはずの見送りであるのに、まるでパレードのようである。
大きく手を振り声援を送る民たちに、気恥ずかしさか困惑か、ただ手を上げて挨拶を返すナリキン。微笑む聖女。
そこには風格があった。
それは遠征というよりも、もはや皇による親征であった。
既に民達はナリキンが新たな教皇であり、これはもうただの儀式の旅であると感じていた。
そうして、たった二人だけのパレードは、クロマクの門をくぐるまで、外壁からナリキン達が見えなくなるまで続いた。
「……さて、と」
見送りが見えなくなったので、改めて話を切り出すナリキン。
聖女を連れてダンジョンまで行かなければならない。だが場所は見られたくない。
これには早速、マスターから授けられていた策を使うことにした。
「アルカ殿。実はここだけの話、ダンジョンはかなり微妙な位置にありましてな」
「微妙な位置、ですか?」
「……国際問題になりかねない場所、なのですよ。なので、聖女であるアルカ殿はその場所を知らない方が都合がいい。もっといえば、俺以外知らない方が良い場所にあります」
「そうですか。ナリキン様がそう言うのであればそうなのですね」
あっさりと意見を受け入れるアルカ。これまたナリキンは拍子抜けする。
「では、目隠しなどをして、ナリキン様が手を引いてくれるのでしょうか?」
「ああいえ、可能であれば俺の【収納】に入っていただけないかと。それが一番手っ取り早いですしな」
【収納】の中に入れたものは時間が止まる。どんな目隠しや耳栓よりも確実にその耳目を封じることができるだろう。
ただしそれは物品や奴隷の扱いのようなもの。そのように扱う、と言っているに等しい。
「……ふむ。聖女の私をまるでモノのように【収納】に、ですか」
流石にプライドを傷つけるだろうか、では次の案を……と思っていたのだが、聖女の顔を見るにむしろ嬉しそうですらあった。まったくもって、拍子抜けする。
「かしこまりました、ナリキン様。ナリキン様にこの身を全て委ねましょう」
「……ご協力感謝します、アルカ殿」
すんなりいきすぎていて、逆に不気味だった。
聖女アルカは何かを企んでいるのだろうか? 自分の言動に光神教的な落ち度はあるか? ナリキンはかえって不安になった。
折角なので次案のために用意しておいた人が入れるサイズの豪華な箱を聖女に見せておく。宝物扱いということでどうにか、と説得するためのものだった。
「一応、こういうものも用意しておいたので、よければお入りください」
「まぁ! 素敵な棺桶! そういえば私、棺桶って入ったことないんですよね。入ってもいいのですか?」
「???」
喜ぶ聖女。光神教的にも特にこれと言ったエピソードは無いはずなのだが、自分の知らない逸話でもあったのだろうか。
「死んだ仲間は棺桶に入れて引き摺り運ぶのが伝統という話がありまして」
「そうなのですか? 聞いたことありませんでしたな」
「光神教ではなく勇者様からもたらされた冒険者の話です。憧れていたのですよ。私、死んでも祭壇で復活しますから」
そういうものなのか。と、とりあえず聖女には箱に入ってもらい、そこから【収納】へと仕舞わせてもらった。
……さて。
「はーい、それじゃソトちゃん便でおくりますよー」
「お願いしますソトお嬢様」
いよいよ、改修されたダンジョンの攻略が始まる。……あらかじめ攻略情報を教えてもらってはいる。教えてもらってはいるが、それゆえに、攻略に対する緊張をナリキンは隠せなかった。





































