05 当人にとっては輝かしき思い出
私とフェリクス様が出会った日は、私とお嬢様が出会った日でもある。
お嬢様のフルネームはハンネローネ・ド・ハイロウ。
上にそれぞれ一人ずつ、次期公爵となる兄と騎士団の指南役を務める姉がいらっしゃったお嬢様は、公爵令嬢という立場でありながらも、随分のびのびと育てられていたらしく……
「ねえエルカ! 私たち友達になりましょう!?」
お互いの自己紹介を終えての第一声で、ただの平民女をお友達に勧誘してしまうくらいには、お嬢様は世間知らずだった。
もちろん私も平民とは言え商家の一人娘。
長きにわたる学園生活と、お父様&お母さま直伝の処世術で名門貴族のこういったお誘いに対してはどう対処すればいいか心得て……いられたらよかったんだけどね。
実際のところ、私の学園生活は魔術戦大会での大暴れのせいで、皆々から避けられまくりの一人きり、貴族様の集まる社交会への出席経験も当然のようになかったせいで、私は友達に飢えまくっていたわけで……
「本当ですか!? でしたらぜひ、ぜひともお願いします!」
身の程を微塵もわきまえることなく、私は目の前に差し出されたお嬢様の手を取ってしまった。
それだけではない。手を取るだけでなくブンブン振った。
一振り、二振り、もう一振りと感激の振動を伝える度、お嬢様の笑顔はますます華やかになっていって、周囲におわす従者さんたちはますますドン引いていった。
「わあ……素敵……!」
ついでに言うと、そんな従者さんたちの中にはまだ見習いだったマルレーンもいたのだけれど、彼女はどちらかといえば私のたちのことを羨ましがっていたようだ。
「……ん? ひいっ!?」
もっとも、その直後に視界を移した窓際のに身を隠していたフェリクス様が、カーテンを千切り取ってしまいそうなほどに握り締め、敵意むき出しの目線を送っていたことに気付いて、怖くて逃げ出してしまったらしいのだけど。
そんな周囲の事情は全部、仲良くなったマルレーンから、随分後の頃になって、昔話みたいに聞いたことだ。
思えばこの頃の私は立場と言うものをわきまえず、自分勝手に生きていたけれど、お屋敷に来て一日目にはもう、私の屋敷内での立ち位置はほとんど定まってしまっていたのかもしれない。
思えば私は最初から、屋敷の人達に避けられていた。
学園からお屋敷に場所が変わっても、私を取り巻く忌避の眼は、ほとんど変わっていなかった。
ただし、決定的に違うこととして、私には大切な人達がいた。
お嬢様。マルレーン。そして、随分後にフェリクス様。
彼らがそこに居てくれたおかげで、私はお屋敷に居られていた。
これも全部、かつての彼らが、私に心を開いてくれたおかげだ。
そうでなければ……私はきっと、ここまで来られやしなかった。
そうでなければ……私はきっと、何もわからずに死んでいた。
十年前。王都を襲った災厄に、何もわからぬまま巻き込まれて。
私はきっと、死んでいた。




