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62 第4番世界 エスカーテ

エスカランテ王国。

この王国は魔法に力を入れた国であり、《魔導工学》の技術者も多い。

特に王都エスカーテは《魔導工学》の技術者が多く住んでいる。

そして王都に次ぐサイズの第2都市、ランテースは魔法使いが多く住む。

王都で魔法のテストを行うのは土地的な意味でも、安全性の面でも少々問題があるため、王都は《魔導工学》で第2都市が魔法の開発となっている。


つまりシュテル一行が到着した王都エスカーテは、《魔導工学》によって作られた様々な物が比較的安く手に入る場所である。

周りは同業者だらけなので競争相手が沢山。その分値段も安くなるわけで。でも安いだけでも物がショボければ売れない。よって物も良くなる。

本人達からしたら大変だが、技術者なら国からの援助もあるし、客からしたら良い物が安く買えるので良い事だ。

よって、王都エスカーテはかなりの賑わいを見せている。

尚、メグは街に入る前にシュテルによって変装済み。


「「「おぉー……」」」

「観光は冒険者ギルドと宿に行ってから」

「「「はーい」」」


勇者達には宿を探して貰う。その間にギルドへ行くとしよう。


ギルドは大体同じ作りの建物をしている。

建物に違いが出るのは人が少ない辺境や、逆に人が多い王都などだ。大体推測される利用者によって何個か建物のテンプレートがある。

よって、最大の違いと言えばギルドの雰囲気だ。これは大体支部長やギルド員によって変わる。

と言うのは4番世界も10番世界も変わらないようだ。

ギルドの始まりが……成り立ちが同じなのだから、似るのは当然とも言える。

ただ、ギルドがどのぐらいの能力を持つかは全く別物である。

組織自体が同じ感じであっても、働き手が違うのなら変わるというものだ。

まあ同じ組織でも、完全に同じ場所はあり得ないなど当たり前の事か。


勇者達が宿を探しに彷徨う中、シュテル達は真っ直ぐギルドへと向かい、さっさと両開きの扉を開け中へと入る。

そして受付ではなく、まず依頼板へと向い確認をする。


「恐らくこれかと」

「王都南東の森に住み着いた竜種、または亜竜の警告……ね」

「特定できていないようですね」


刺激して暴れられても困るから、Bランク以下は立入禁止状態のようだが……?


「立入禁止の割には杜撰ずさんすぎでは?」

「まあそこには突っ込むまい」


チェックはしたので受付へと向かう。


「森に住み着いた亜竜に付いて報告があるわ」

「報告……ですか?」

「騎士団は全滅。それを発見したため、亜竜の討伐をしておいたわ。亜竜の死体は回収済み。よって見せろと言うなら見せる事が可能。それと騎士達の遺品も持ち帰ってきたからそれはギルドに預けるわよ?」

「ちょ、ちょっと待ってください…………支部長呼んできます」

「ええ、よろしく」


聞いた事を理解した結果、自分が判断できるレベルではないと知った受付嬢は支部長を呼びに行った。

実に正しい判断である。


「えぇ? おいおいおい、待てよ。立入禁止になってる亜竜の討伐とか―――」

「ヒャハハ! 待つのはてめぇだよぉ。あのお嬢さん達やべぇぜぇ……? 背中がゾクゾクしやがるぅ。間違いなくバケモンだぁ」

「はぁ……?」

「ヒヒヒ。見た目で判断するんじゃねぇってことだよぉ。んなことしてるとおっ死んじまうぜぇ?」


普通の冒険者風の男がケチ付けようとでも思ったのか、口を挟むのだが……。

モヒカン系ヒャッハー! に逆に止められると言う面白い状況になっていた。


『……外見や言葉遣いはともかく、実はまともな人なんですか?』

『いや、うん……なんかそうみたいだね……普通に良い人……なんじゃないかな』

『間違いなく損してますよね……?』

『してるだろうねぇ……。でもまあ、本人が好きでしてる格好だし、特に言うことはあるまい。外見や言葉遣いはともかく、行動に関しては実に真っ当だ』

『真っ当なんですね……』

『うん、恐ろしく真っ当だ。お婆ちゃんの荷物持ったりしちゃうぐらいには』


「魔力感じねぇんだぞ!?」

「ヒャハハ! 確かに魔力はほぼ感じねぇ。だがこれは無いんじゃねぇ隠してんだぁ。気配がやべぇし隙もありゃしねぇんだからなぁ。俺の息子もシナシナだぁ! あいつらはやべぇってなぁ! ヒヒヒ! 今すぐ離れたいぐらいだぜぇ」


『うん、外見や言葉遣いはともかくな?』

『……個性的な方ですね』

『ほんとにな。でもあれで結構人気っぽいぞ。見た目や言葉遣いは慣れるからな。行動が良い人なら問題は無かろう』

『んんー……まあ、冒険者という立場も考えるとそんなものですか』

『そんなもんだ。腕っ節があって良い人なら他は些細な事だろう』


元気な冒険者達を見ながら念話で話していると、受付嬢と支部長がやって来た。


「亜竜と遺体がなんだって? いって!」


受付嬢から支部長に良い感じのモノが入った。

まあうん、こっちの格好が格好だからな。


「こっちも冒険者だから気にしないで良いわよ」

「助かる。冒険者上がりだからどうしてもなぁ」

「ギルド員はそう言うの多いでしょうね」

「そもそも気にするやつはここには来ないからな」

「理由があっても使いを出すでしょうからね」

「んだな。おっと、そうじゃない。竜の話だ」


霊魂や亜竜の話を支部長にしておく。


「なるほど、霊魂……ね。無事逝ったのなら何よりだ。感謝する」

「あら方持ってきたから、待ってる者に返してあげなさい」

「分かった。それはこちらでしよう」

「よろしく。ジャバウォック仕留めたのはイザベルだから、カードはあっちね」

「おう、見せてもらう」

「それと素材はどうする?」

「どーすっかなぁ……前例がないのが問題だ。亜竜だし是非とも買い取りたいが……って、勇者だと!?」

「我々の前にも一組来たでしょう? こっちは先にランテース寄り道したのよ」

「……そうか。ふむ、確かにジャバウォックって出てるな」

「あいつ牙、爪、鱗は使えるけど肉がゴミなのよね」

「なんだ、食えないのか?」

「うん、亜竜だって喜んで食べるとのたうち回る事になるわね」

「そりゃ残念だ……」


とりあえず空いている場所……解体施設にジャバウォックを出して見せた後、解体ナイフをぷすり。

肉を処分しようと思ったらチャレンジャーがいたので少し分けてやり、案の定のたうち回るのを確認後、処分。

その後騎士の遺体を並べる。


「うん、間違いなくこの国の騎士達だな……」

「そうか……あいつ先に逝っちまったか……」

「こりゃひでぇな……」

「ジャバウォックは獲物を甚振るのも好きなようだな。我が世界のはやはり早々に消しておいて正解だったか。と言っても、2匹しか見たこと無い激レアだが」

「お母様が10番世界来てからだよね? 2匹って相当レアだね」

「うん、これで見たの3匹目ね」

「『お母様!?』」

「ん……? 育ての親」

「フィーナの生みの親は6歳の頃に亡くなってるからねぇ」

「『ああ…………ああ?』」


まあ、お母様と言うには私の見た目は若すぎるし、フィーナも見た目年齢は18歳で止まるからな。


「まあそれはともかく、一応城に掛け合って報酬貰えるかは聞いてみるが……」

「依頼として出ていたわけでは無いのでしょう? 貰えるなら貰っておくけど、我々は霊魂が哀れで解放しただけだからねぇ……」

「まあ……こうして持ち帰りもあるわけだしな、できるだけ毟り取ってくるわ」

「そう。それに関しては任せるけど、素材も決めておいてね」

「あー……素材、素材か……。何個か預かれるか?」

「サンプルか。まあ良いでしょう」

「おう、すまねぇな」


牙、爪、鱗を2個ずつ受け取った支部長はギルド職員に渡し、指示を出した。

素材の性能が分からないのでは値段も付けられまい。

他にもギルド員へと指示を出し、騎士達の遺品選別を開始。


「後は……ああ、城に連絡を入れないとな」


一度ギルドのロビーへと戻る。

支部長は城に送る手紙を書きながらこちらに話しかける。


「そう言えば、全員Dなんてことは無いよな?」

「全員Dだけど?」

「…………登録直後か?」

「登録して真っ直ぐこっち来たから、ギルドの依頼はほぼやってない状態ね」

「なるほど。だが実力は相当だよな? 先に来た奴らもまあ、Bぐらいの実力はありそうだったし」

「我々と行動してる勇者3人はAぐらいで、今宿探させてる。ここにいる我々は他の勇者達とは別世界出身で、元の世界ではギルドランク最高だったわね」

「ふむ……ランクは誤魔化すか。勇者一行言えば良いな」

「それで良いんじゃないかしら」


そこへ清家達が帰ってくる。


「ただいま!」

「おかえり」

「なんか火縄銃見たいなのがあった」

「ほう……ふむ……。解析するなら対価は払うべきだな。ヒルデ、ここの店の魔導銃買ってきてくれ」

「畏まりました」


"ナビゲート"に従って転移していった。

すぐに帰ってくるだろう。


「買うの!? 買うの!?」

「正直買う必要も無く解析などできるのだが、技術者は大事にするタイプなのでな。やはり対価は払わねばなるまい」

「戻りました。どうぞ」

「うむ……どれどれ」

「思ったより長いね……」

「結構長いな……」

「ふむ、なるほど……やっぱりこうなるか。こっちは……うんうん、実に工夫を感じる。さて、肝心のこっちは……お、感心感心。しっかりプロテクトが付いてるな。妾には無意味だが。ふむ……発想自体は良いが、魔法陣の効率がまだ甘いな」

「総合評価はどんな感じー?」

「勇者達にはまず不要だな」

「えー……」

「支部長」

「なんだ?」

「これは新作だろう?」

「少し前に出始めた。まだ1年どころか半年経ってるかどうかって物だな」

「ではそろそろ売れなくなる頃か」

「どういうことだ?」

「現状物珍しさで買うやつはいるだろう。だが、正直現状ではダメダメだ。色々と惜しい事になっている」


需要と供給という言葉がある。

需要があると言う事は、必要とされているという事。

必要な物だから皆使って消費する。

需要があるから、足りなくなるから作って補充する。


必要な物は売れ、必要の無い物は売れない。という至って当たり前の事。

需要と供給が釣り合わないと、商売にならんのだよ。

必要の無い物をいくら作ろうが、必要無いのだから買うわけがない。


「これは、極普通な事だな?」

「「「うんうん」」」


周りで聞いてる冒険者達に分かってないのがいるが、気にしたら負けだ。

学校は貴族達ぐらいしか行かない世界だからな。


「需要と供給はあくまで確認だ。前提条件」


商品と言う売り物には、絶対にコンセプトが存在する。

何をするための物で、誰を対象とした物か……だ。

どんな物にも絶対にある。


「そして残念なことに、これが需要と一致しない物は売れない」

「包丁は食材を切るための物で……対象者は主婦?」

「そうだな。対象者はもっと広く料理する人とかでも構わないが、必要だろう?」

「うん、包丁無しは困るね」

「皆が欲しい欲しい言うから作りました、売ります。となれば買いますと物が売れていく。需要(消費)があるから供給(作製)したわけだ。これは問題ないな?」

「「「うんうん」」」

「じゃあこの魔導銃に話を戻すぞ? 何する物ぞと問われれば、魔力を飛ばす物と答えます」

「「「何その、昔風の」」」

「うん、分かりづらくなるからやめよう。魔力を飛ばす魔装具だ。では対象者は? どんな奴らに売る? どんな奴らが欲しがる?」

「冒険者達じゃないの?」

「うむ。普通なら冒険者か騎士達と言った戦う者達だろう。じゃあ更に情報を与えよう。精々倒せるのはゴブリンぐらいまでだ。しかもヘッショして」

「……威力不足?」

「そう、戦う者達がメイン武器とするには圧倒的に威力が足りないし、燃費も言うほど良くはない。普通に自分で魔法撃った方が良い……ぐらいの評価だ」

「……あれ、いらないね?」

「じゃあ更に別の情報を加える。この魔装具自体は実に単純で、《魔力操作》さえできれば特別な訓練は不要だろう。火薬の爆発も無いから反動も無い。子供でも使えるだろうな」

「ゴブリンが殺れるなら、人も殺れるよね……?」

「ああ、うん。戦争方面には行かなくていいぞ。どの道今は人間同士で争ってる場合じゃないし」

「んー……あぁ! はい!」

「答えが出たか清家」

「農村!」

「うむ、そうだな。冒険者達も、騎士達も少ない村々の防衛武器には最適だ。……だが残念な事に、現状そんな農村で買えるような値段ではない」

「「「あー…………」」」


魔力を飛ばす事だけに最適化し、他は一切省く。

これにより効率化を図り、面倒な手入れも不要、修理もある程度知識があれば楽。

更に使用時にも余計な手順が省かれ、楽に使えるようになる。


物自体は、発想自体は悪くないだろう。

だが、売る相手……ターゲットの指定ミス。

戦いを生業にする者達からしたら威力が物足りんし、魔力の効率もずば抜けていい訳でもないから、節約にもならない。

結果、そう言った者達は買わない訳で。


「これは間違いなく農村とか、村人を対象にするべきなんだ。でも、冒険者や騎士達を対象としてるから値段が高い。本当に欲しい者達は買えないだろう」

「村人達が買える値段で売って、利益が出るかも問題ですね」

「材料費的にはそこまでではないが、これでも魔装具だ。技術料がそれなりになる。厳しいだろうな……よって色々惜しいわけだ」

「ロマンを感じるけど、ロマン止まりだった……」

「でも逆を言えば……威力をもっと上げるか、効率を上げれば冒険者達にも使う選択肢が出るって事か」

「そうだな。今の評価を言っただけだから、今後改良すればそれもあり得る」

「……ユニエールさんが作ったらどうなる?」

「実は過去に一丁作ったんだけどな。空間収納の肥やしになってる」

「えっ、見たーい!」

「えー? どこ行ったかなぁ……何百年前だあれ作ったの……」


ええーっと…………ああ、あった。

別にただ見るだけなら銃身が長めの黒いハンドガンなのだが。

後は弾薬ポーチと言う名の空間拡張されたバッグ。


「「おぉー……ハンドガンだ! ……弾でか」」

「.44マグナム弾と.50の2種類を使用してるな。.44が対魔物。.50が対人間」

「「人間の方が口径でかいの!?」」

「そりゃ刻んだ魔法の差だ。人間用は殺さないようにしたせいで嵩んだだけ」

「と言うか弾別なんだ。このカバンは……マガジンが並んどる……」


マガジンは《無火水風土闇光氷雷》の9属性、各属性2個ずつの18個に加え対人間用の2個の20個。装填数は.44が7発で.50が6発。

銃身にあるスイッチで徹甲……ランスか、榴弾……エクスプロージョン系の切り替え式。対人は気絶か幻痛の切り替え。

格好いいからと言う理由から、スライドして薬莢を捨てるギミックを付けたせいで微妙に反動あり。

リロードと射撃時に捨てられた薬莢とマガジンは勝手にカバンに戻り、マガジンに補充され、魔力もカバンのタンクから補充される。


「難点はカートリッジ自体が魔力タンクのため、良くも悪くも威力が固定で、用意された魔法以外使えない事。利点はカートリッジ自体が魔力タンクのため、外部魔力が不要と言ったところか」

「「高性能過ぎて言葉も無い」」

「無駄に拘ったからな。一切使ってないけど」

「「勿体無い……」」

「自分で魔法撃った方が早いんだよ……」

「「あー……」」


転生して割とすぐに作った魔導銃を一度バラし、ルミナイトやマナタイトクォーツなどで作り直したリメイク改良品である。

魔導剣のリメイク改良品は剣を使う眷属騎士達が使用。

ミスリル製初代魔導剣は、未だに生産ギルドの一角に飾られている。


「まあ、使うにしても宮武だな。お前達は近接だろ」

「今日からガンマンになります」

「そうか、ほらよ」

「ひなわじゅうぅ……」

「清家はユニークスキルを活かせない方が勿体無い」

「あー……あれと相性そんな良くないか……」

「(あれ、魔法苦手な俺は火縄銃も割りとありなのでは? 対空牽制とか?)」


ノリで渡された火縄銃に使い道を見出しちゃった長嶺は放置しよう。


「おし、これを城に持ってってくれ」

「いってきまーす」

「さて、ギルドでの用も済んだし……観光でもしますかね」

「「「おー!」」」


支部長に泊まる宿を知らせ、ギルドを後にする。


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見たことあるようなのがいたような…
モヒカン系良識ありヒャッハー? どっかで見たような………?
[一言] VRのほうを先に読んできたけどこっちでもヒャッハー系良い人が登場か・・・
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