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59 第4番世界 寄り道

「下級悪魔が良く見るデーモン達……。その子の触手が一番上の?」

「そうね。純正竜やセラフィムに並ぶランクの一部。魔法生物だから保存自体は比較的楽だからねぇ……劣化しないし」

「その触手の本体が出てくるなら何か対策しないとなぁ……」

「出てこないと思うわよ。そこまで力持ってないでしょう。と言うかSSSが来た時点であなた達じゃ無理よ。勇者達が集まって精々倒せてSね」

「Sからは格が違いますからね」

「フィーナと真正面からやりあえてSSだからね?」

「「「あ、無理」」」


純正竜やセラフィム級に会った時点で、対策の上から叩き潰されるだけである。

まあ、然う然う会うような奴らではない。棲家が違う。


「純正竜やセラフィム級と対峙した時の雰囲気ならいつでも味わえるわよ?」

「うん?」

「私が少し……奴らと同じぐらいの魔力開放すれば良いからね」

「丁重にお断りします」

「シロニャン呼んでくれば神竜眼も味わえるわね」

「味わうとどうなる?」

「知らんのか? 死ぬ」

「ですよねー」


格の違いばかりはどうにもならん。

肉体を捨て精神生命体になれば死ぬことは防げるだろう。まあ、精神が負けたら消える事になるだろうけど。



森を進むことしばらく、不思議な場所へやって来た。

何が不思議かと言うと……。


「何か……いますね?」

「いるはずですが……これは?」

「これは……霊魂……? しかも結構多くいるわね」


霊魂……つまり魂。

何らかの理由でこの世に留まる、成仏せず彷徨う魂達。

木々の隙間からその霊魂が数人現れた。

それら霊魂は同じ格好をした30台前半の男達であった。


「「「えっ?」」」


感知できていなかった勇者3人が驚きの声を上げる。

普通の人間は霊魂なんか感知できないだろう。向こう側に悪意がないから余計に。


「む、冒険者か? 今この辺りは危険だ。すぐに下がった方が良いぞ」

「騎士団のようだけど、何かあったの?」

「ああ、この辺りに亜竜が住み着いてしまってな。その討伐だ。危ないから下がっていると良い。では行くぞ」

「「はっ!」」


そう言って霊魂は奥へと消えていった。


「……ユニエールさん? 今のって……」

「見ての通り魂ね……つまり彼らは既に死んでいる」

「この辺りマナが濃いね。そのせいかな?」


フィーナの言う通りだろう。

普通死んだら魂は輪廻へと還る。しかしこの森はマナが他より濃いようだ。

そのせいで残ってしまったのだろうな。


「死んだことを認めたくないのか、それとも……」

「後者ね」

「……そうですか。ユニ様、寄り道しても?」

「構わないでしょう。普段霊魂なんか見てないから気づかなかったわ」

「ありがとうございます。……世界は違えど、かつての志を共にする者達を開放したいですからね」


死んだことを認めたくない訳ではない。

死んだことに気づいていないと言う訳でもない。

国の為に戦い、倒さねばならないのだ。このままでは自国に被害が出るからその前に危険を排除しなければならない。それが騎士と言う者達。

例え死んだとしても、殺らねばならない。

ある意味地縛霊の一種だろう。『亜竜を倒す』という事に執着している者達だ。

全ては自分達の国の為に。


私の眷属騎士達は全員が生前、ファーサイスの近衛騎士だった者達だ。

つまり国の為に命を懸けた者達。

自分達の国の為に命を懸け亜竜と戦い、死して尚任務に執着する哀れな彼らを開放したいのだろう。


「しかし、また珍しい亜竜ですね?」

「私あれ知らないんですが?」

「確かに珍しいですね。お城の文献で見たぐらいでしょうか?」

「うん、レア物ね。10番世界では珍しい。生まれた瞬間私が密かに消してるし」

「「「なんか物騒なセリフが」」」


勇者3人はまるっとスルー。


「闇と言うより悪に傾いたS+級亜竜。ジャバウォック。奴らはただ殺すことを、破壊する事を好むから自然破壊もいいとこね。壊して殺すことが好きなだけだから、行動に生産性は一切無い」

「なるほど、それで奴の周囲がやけに綺麗さっぱりしているのですか」

「目標はあれですね」


霊魂達の消えた方、ジャバウォックのいる開けた場所へと歩いていく。


「ドラゴンがいるんだよね? 竜族の生態ってどうなってるの?」

「竜は竜でも純正竜と亜竜は別物よ。純正竜は皆ドラゴンパピーから始まり、環境に合わせて進化する。亜竜は基本親と同じね」

「純正竜から生まれた竜は親と違う竜になる可能性があるってこと?」

「ある。上位風竜のエリアルドラゴンから生まれたパピーが、上位地竜のアースドラゴンになることもあるし、その逆もあり得る」

「ほえー……」

「ちなみに古代竜と言われるエルダードラゴンはまた別ね。彼らは竜の姿をしてるけど、生物学? 的には精霊に近いのよね。だから竜の中でも格が違う」

「亜竜、純正竜、古代竜?」

「亜竜、純正竜、古代竜、神竜。竜モドキ、竜、精霊竜、精霊竜王かしらね。まあ専門家でもないなら、人が倒せるのは亜竜。それ以外は無理と思っとけばいいわ」

「古代竜と神竜と精霊の関係は?」

「無関係。人間で言うなら仙人が古代竜達ね。人じゃないから仙竜かしら?」


環境に合わせて進化するだけあって、たまに珍しいのがいたりする。

例えば飛ぶことだけに特化した竜、フェザードラゴンや、水晶竜と言われるクリスタルドラゴンが存在する。


奥へ進むにつれ、騎士達の霊魂が増えていく。

普段人間には見えないはずの霊魂も、マナによって可視化される程の濃さだ。

その為居心地が良く、ジャバウォックが居着いたのだろう。


「精霊さんが少ないし、特異点じゃない?」

「違うわ」

「じゃあたまたま集まってるだけかー」

「そうね」


霊魂達はジャバウォックにガン無視されながらも、囲んで叩いていた。


「これは……」

「うーむ……」

「……これをずっと?」


ジャバウォックからすれば害がないからのんびり休憩中。

霊魂の騎士達は囲んで攻撃しようとしているが肉体がないし、精神生命体とは全然違う。単純に当たり判定がないのだから、ダメージの与えようがない。

たまに離れては周囲を巡回。近づくものがいないか見て回っているのだろう。

城に報告に戻っても無駄だ。ここはマナが濃いから見えているのであって、この辺りから離れると姿は見えなくなる。下手したらそのまま成仏。


これが分かったから開放を望んだのだろう。

歩いて旅している時点で急ぎではないのだ。急ぐならさっさと転移すれば良い。

よって特に断る理由もない。

建前:女神としては開放してあげるべきか。

本音:死んだらさっさと輪廻に帰れ。


「では少々行ってきますね」

「ええ」


エルザとイザベルがジャバウォックの方へと歩いていく。

それによりジャバウォックが動き出す。


ちなみにジャバウォックはサイズが人間の3倍ほど。

頭は魚っぽく、額と口元に2本ずつ触角がある。首は細長くて体は爬虫類の鱗。

長い2本足で直立歩行し、足の指は3本。手は細長い4本の指がある。


「うわぁ……」

「かなり気持ち悪いんだけど?」

「亜竜って言うからちょっと期待してたのに……」

「まあ、気持ち悪い竜だっているわな」



所詮亜竜、されど亜竜。

竜種最弱と言っても竜である。他の種族からすれば亜竜でも十分強い。

しかし対峙するのは眷属騎士であるエルザとイザベルの2人だ。


人など簡単に吹き飛ばすであろう右腕を戯れ程度に2人へ向けて振るう。

それをエルザが盾で、まるでびくともせず簡単に受け止める。

その間にイザベルが踏み込み顔めがけ飛び上がる。

右腕を受け止められた事にビックリして隙を晒したジャバウォックはそのままイザベルに首をはねられ、地に伏せる。


強者はどうしても他者を侮る。

エルザとイザベルは見た目上、人間と変わらないから余計にだ。

実はヤバイ奴らだと気づいた時には既に遅い。


首が体から離れ、断面から血を垂れ流すジャバウォックを見て、霊魂の騎士達は実に満足そうな表情をしていた。

騎士だけあって綺麗に並び、こちらへ一礼してからゆっくりと体が消えていき、何も残らなかった。


「いったようですね」

「ですね」

「ふむ……体も持ち帰るとしましょうか。遺品の1つや2つぐらい残っているでしょうからね」


拾って集めるのは面倒なので、空間操作で一帯の人工物や遺体を空間収納へしまい、一応討伐の証であるジャバウォックもそのまま収納。

その場を後にする。


しばらく歩いていると、長嶺がポツリと呟く。


「騎士……かー……」

「国のため、王家のため命を懸ける生き様。そうそう真似できる物では無いでしょう。人間である以上、同じ職業でも様々な者がいるけど……こればかりはね」

「俺にはできそうに無いなぁ……」

「できる方が少ない。口ではなんとでも言える。実際他者の為に自分の命を懸けられる者などそうはいないでしょう。誓ったはずが実際なると足が竦んで動けない者もいれば、咄嗟に自然と体が動く者もいる。なってみなければ分からないものよ」

「死んだらそこで終わりなんだよなー……」

「奴らは満足して逝った。最後の顔を見ただろう? 本人達が満足してた以上、死んだことを哀れむのはむしろ侮辱だぞ。囚われていたから哀れみ開放した。満足して逝った以上、それでいい。遺体を持ち帰るのは奴らではなく、残された者のためだ。何もないんじゃ区切れないだろう?」


世界が変われば当然考えも変わる。

6番世界では正直死は身近ではない。

身近な者達が死んだ時、実感する。でもすぐに日常に戻るだろう。その手の職業でもない限り回数が多い訳ではないだろう。

でも10番世界は身近だ。

魔物と言う人間を軽く殺せる動物達がいる。親が、子が、あるいは恋人が……なんて話は割りとそこらにあるだろう。

冒険者ならもっとだ。あのPT最近見ないな? なんて話は日常茶飯事。

だからこそ『どう生きてどう死んだか』という『死に様』を重要視する。


「今は知らんが、私の時代『安楽死』はさせて貰えなかった。なぜ私がもう死んでもいいと判断したのに、他者に否定されなければならないのか。私の生死を決められる権利がお前達にあるのかと。『生きていればいいことあるよ』とはよく聞くがね。満足して死んでもいいと判断したのだから、黙って満足したまま死なせて欲しいものだよ。どうせ言うだけ言ってその後の保証はしないのだから」

「我々の場合はそもそも、いつ死ぬか分かったものではないから、まさに今生きているうちにやりたいことをしているだけでしたね。勇者達も何回か死にかければ考えも変わるのでは?」

「6番世界はやたらと死を嫌うからな。生物である以上絶対に死ぬというのにだ」

「ユニエールさんって綺麗事とか偽善は嫌いなタイプ?」

「いや、別に。ただ私の人生で私が決めたことなのに、周囲がグダグダ吐かすのが気に入らないだけ。私の人生は私が決める。お前の人生はお前が決める。それでいいじゃないか。まあ、法が邪魔する以上どうしようもないがね」

「ああ、なるほど……」

「綺麗事に偽善。理想に建前。実に結構じゃないか。別にそれで誰かが困る訳でも無かろう。むしろ偽善者なんか助けてくれるんだぞ? 本心はどうだろうが、やった本人に文句言うのはお門違いだろう。当事者達が納得してるなら部外者は言うことなんか無いはずだ。言葉というものは『発言者』『受け取る側』『時と場所と場合』に大きく左右される。貴族の……特に女性達の会話は地獄めいてるぞ。私の場合思考が読めるから副音声として本音丸わかりだ。実に恐ろしいね」

「男性の方はまあ、割りと分かりやすいですからね」

「脱線したが……お前達3人に言うことがあるとすれば……人それぞれだ。害が無いならそっとしておけ。ぶっちゃけなるようにしかならん。そして曖昧な『空気を読む』とか言うゴミは投げ捨てろ。言わなきゃ伝わらんのが人間だ。他者の心など分かるはずがない。血の繋がった家族ですら分からんのだからな。時間があるならしっかり周囲を見て状況を理解しろ。むしろそれが正しい『空気を読む』だ。状況判断できない奴は死ぬぞ。色々な意味でな……」

「状況判断かー……」

「少し意識して見ると良い。状況判断、情報収集。自ずとやることが見えてくる。見えてきた事をやるかどうかは別問題だがな!」

「「「えー……」」」

「人間とは感情で生きる生物だ。面倒な物は面倒。そこに変わりはない! 『神様は乗り越えられる試練しか与えない』とか? そこ人間社会。人間しか関与してないよ? ハハハハ……宗教と政治と性癖の話は戦争になるから安易にするべきじゃないぞ」

「「「いや、してない」」」

「ま、人間生き方に正解なんか無いんだ。結局本人が満足できるか……だからな」

「ユニ様が安楽死していたら、お会いすることも無かったのでしょうか?」

「いんや、生まれた時から目付けられてたっぽいから、大して変わらなかったんじゃないかねぇ? 強いて言うならシロニャンと会わなかったな。1人気ままにゲームして過ごしてた時に拾ったし。まあ過ぎたから言える事で、あそこで安楽死してもそれはそれで良かったなぁ」


世間話? をしながらも、一行は王都を目指して歩いていた。


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