47 第4番世界 指名手配
勇者一行はまず真っ直ぐ食事をしに向かい、ご飯を頬張っていた。
食事の際はいつも勇者組、勇者組、女神組の3席に分かれる。
男子中学生4人の席はわいわい食べている。
もう一つの席は男1人に女2人。騒がしくなく適度に会話しつつ食べている。
実は清家と宮武、テーブルマナーをたまに教えて貰っている。女の意地と言うか、レディへの憧れというか……。清家の場合、むしろ元が男だからこそ拘るという状態である。目の前にシュテル一行という見本がいるから余計に。
言われた当初、シュテルは顔を背けつつ……ヒルデをけしかけてやった。ちょっと反省している。
まあ、食事だけだ。これで歩き方や座り方の指導なども入ったら地獄である。
おかげで綺麗に食べるようになったのだから目を瞑れ。ご飯を綺麗に丁寧に食べる女性で損はないだろう。ちなみに城にいる間他の数人も参加していた。
教えたのがヒルデで食事だけという事で、十分仕込めたと言えるだろう。
という事で、清家と宮武は実に優雅に食べている。
しかし、それらの横で女神一行全員がそれ以上の優雅さで食べているのだが。
優雅なのだが、周りはギョッとするレベルだ。
『何でここにいるの!?』という意味で。
ヒルデや護衛騎士は勿論、6歳からシュテルの娘として育てられたフィーナもテーブルマナーは完璧である。むしろフィーナはそれが当然と自然体でこなすし、ヒルデや騎士達は生前が貴族だ。
フィーナはともかく、侍女や護衛も? となるが、食べている。なぜならここは平民達御用達の、極普通の飯屋だ。サイドに立ってたりしたら邪魔だろう。
ちゃんとしたシュテルの『客人』がいたりするなら当然一緒になんて座らない。
他からしたら、やたら緊張する状態である。
容姿が整っており存在感ありまくり、かつ食べ方が他と明らかに違う。
『俺が来るとこ間違えた?』と思う人続出である。他の人も釣られて背が伸びる。
ただ、シュテル達からしたら800年近くこの食べ方なので、これが素の状態なのだ。とても優雅に食べる4人である。
美男美女は何しても絵になるのだった。……良い事かはともかくとして。
いつもより静かな店内は、勇者達の喋り声がやたら大きく聞こえていた。
「食べたらどうする?」
「どっちにするかな……宿か?」
「じゃあ宿探してからギルド行くか。長嶺、それでいいか?」
「いいぞー」
宿かギルドかは正直どちらでも良いので、話し合う必要もない……のだが、清家が不服そうである。
「ねぇユニエールさん。なんかこの街騎士が多い気がしたのは気のせい?」
「よく気づいたわね。確かにこの街騎士が多いわ」
「そう言われると……よく見た気がする? 何かあったのかな」
「となると、宿じゃなくてギルド先に行った方が良いか」
現在この街、騎士が多く彷徨いているのだ。とは言え、あからさまではなく市民を不安にさせないように……と言う人数である。これで何もないわけがなく。
何も知らないのは流石に問題がある。知っていた方が良いだろう。よって、情報がありそうな冒険者ギルドに向かう事にする。
この街から違う国なのだ。冒険者ギルドも国ごとで扱う情報が違う。
「市民に紛れるよう私服で混じってる騎士もいるようだから、清家が思ったより多いと思うわよ」
「えっ」
「足運びなどの微かな動きから察せるように頑張りなさい」
「むむむむ……」
「現状気づいただけでも良しとしましょう。……市民に言うまでもないけど、そこそこ優先度が高い案件のようね。ギルドにはあるはずだから見に来ましょう」
気になる事が出来たのでさっさと食べ終え、お店を後にする。
何か言われないかと気が気じゃない店側も、雰囲気に釣られた客側もホッとしていた。自分から来たんだから文句言うわけもない……と言いたいところだが、貴族の中にはそういうのがいるのだから仕方ない。
ギルドに入った勇者達はレート板ではなく、依頼板へと直行する。
目的のものは目立つように貼られていたので、探す手間が省けた。
「これは……指名手配?」
「黒髪赤目の少女……研究所の破壊、研究員の殺害、騎士の殺害後逃亡……」
「捜索だね。逆に殺しちゃダメなやつだ」
「おぉ……見つけただけでこの報酬か、凄いな」
勇者達は報酬に目が……と言うか、勇者達だけでなく他の冒険者もだが、目が眩んでいる。
「探すか?」
「探してみるか?」
「やめておきなさい」
「『えー』」
勇者達が見た女神一行は全員がかなーり渋い顔をしていたのでキョトンとする。
ヒルデとエルザ、イザベルがスススと依頼板に寄っていく。
「この依頼、国が出していますね?」
「国でしょうね。騎士が動いているようですし……何よりこれ、国璽でしょう?」
「それでいて探すだけ、かつこの報酬。そのくせ情報がこれだけって……」
「「「かなり怪しい」」」
「え、でも国が出してるんだよね?」
「国が出しているからこそ、ですよ。研究員はともかく、騎士の殺害に研究所の破壊ですよ? それだけやっておいて指名手配がこの少女1人」
「更に騎士を殺害したなら少女が戦えるということです。その辺りの情報が一切ない。戦闘スタイルが不明です。騎士は何人殺られたんですかねぇ……」
「しかも研究所の破壊。少なくとも大規模破壊手段があるという事ですよね? それが魔法なのか、前々から準備していて再び使える代物ではないのか。その辺りの情報が無いんじゃ話になりません」
「「「さて、何を隠しているのか」」」
生前ヒルデは王族付きの侍女。エルザとイザベルは近衛騎士。
そして眷属となった後もシュテルについているわけで、『国』という物をそれなりに知っている。
国のする指名手配で情報不足とか怪しすぎるのだ。やましいことがないのなら必要な情報は全て出せばいい。
騎士が殺られた数はまあ、隠したくなるのは分かる。が、戦闘スタイルも書かれていないのはおかしすぎる。取り押さえるにも事前情報があるかないかは大きい。
最低限必要な情報まで書かれていないのは疑って下さいと言っている様な物だ。
「受付の方は何かご存知ですか?」
「いえ……それは騎士の方が貼っていった物でして……」
「「「余計怪しい……」」」
「内容は分かったし、宿探すわよ」
「『はーい』」
勇者達が宿を探す中、情報集めや対象の子を探す。
「あの指名手配の子、保護するかも」
「保護ですか?」
「人体実験の被害者……奇跡的に成功してしまった子」
「……捕らえた後消すか、もしくは……」
「どちらであったとしても、普通の騎士が手に負える子じゃないわね」
「かなり強いのですね」
「戦闘スタイルが書けないのも納得ね。特徴的過ぎる。向かう先にいるようだからそれまで放置ね」
不死……ではないが不老にはなっている。
そう言う意味ではフィーナに近いが、フィーナはハイエルフなので精霊寄り。それに加え、あの子は悪魔寄りだ。
まあ、どんな体してようが別に問題はない。人であることに拘らないから是非ともうちに来てもらおう。ちゃんと教育すれば不老なのは実に都合がいい。
是非ともアトランティスへ引き抜いて、お仕事して欲しいものだ。
うちなら不老仲間いっぱいいるから孤独感も低いしね。
新しい役人誕生の予感に嬉しそうなシュテルであった。
その微笑みは周囲の男性に限らず女性すらをも魅了する。
だが、シュテルとて女帝である。
内心は『今までの扱いが酷ければ酷いほど、こちらに引き抜きやすい』とか『子供? 実に結構。むしろ子供の方が教育しやすい』とか思っている程度には黒い。
国を動かす者はこんなもんである。
むしろ、このぐらいでないと国など回せない。
大丈夫。人間には言わなきゃバレない。
笑顔や微笑みという『仮面』を被り、交渉するのだ。王侯貴族なんてそんなもん。
パーティーとかいう社交界は地獄だぜー。




