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44 第4番世界 街到着

もうすぐ秋姉妹の季節。

街にいた悪魔達は全て女神一行に釣られ、勇者達に倒されたので危機は脱した。

そして今まで上空を飛んでいた厄介な敵が一斉に移動すれば当然戦っていた者達はそちらへ行くだろう。

悪魔に釣られ移動した方には悪魔と戦う勇者達だ。

勇者達の実力がAに近い。ランクはF E D C B A Sと7段階だ。つまり既にトップクラスと言える。1年でここまで行った勇者達を褒めるべきか、弱すぎるこの世界の冒険者達をしばくべきか。それともシュテル教育の賜物か。……全部か。

10番世界で比べたら勇者達はBあるか……と言ったところだろう。


そして悪魔達は今までめちゃくちゃに暴れていたのが、女神一行という最優先目標を見つけたので狙いが絞られ、対処も楽になった。

超新星爆発の爆心地ど真ん中でも仁王立ちで存在可能な者達を狙ったのだ。色々通り越して哀れである。そこを勇者達にカモられてるのだからもう……。


「そう言えば勇者と言えば聖剣無いのかね?」

「無いわよそんなの」

「残念……」

「そもそもミスリルのみか、ミスリル混ぜた合金の剣がベテラン用の高いやつなのよ。ミスリルのみは魔力強化に頼る特化型。合金は魔力適性が下がるけど純粋に強度が上がる汎用型ね」

「へー、良いの貰ったなー」

「ミスリル混じってると輝きが違うのよ。冒険者からしたら羨ましいでしょうね」


素材の回収はしたし、死体は自然と消えたから処理も不要。よって、街へと向かおうとするが冒険者達や街の防衛隊が集まっていた。


「お前達が……全部倒したのか……?」

「見ての通りよ。街の状況を見に行くわ」


が、問答無用で集団に歩いていくシュテルである。じゃないと街に入れない。

先行するシュテル達の後を追って勇者達も進む。

堂々と優雅に、集まった冒険者達が勝手に道を空けるさまはまるで……。


「なんか悪役令嬢とその取り巻きみたいな……」

「黙って歩きなさい取り巻き」

「いえすまむ!」

「なぜそこで悪役令嬢が出るのか……。護衛もいるんだから普通王女とか夫人だろうに……」


勇者達もだいぶ余裕があった。

街はところどころボロボロで、何箇所かで火災も発生しているのが見て取れる。

更に人も転がっており、それどころか人同士で争っている場所もあり、取り押さえられている者達も見受けられる。


「こんな状態で何してんだ?」

「ああ、あれはね……」


スタスタ歩いて行くシュテルは、取り押さえられながらも暴れる者に"キュアオール"を使用する。すると暴れていたのがウソのようにおとなしくなった。


「イーヴィルアイの魔眼を貰ったのでしょう。狂気の状態異常ね」

「その場で暴れ始める……だっけ」

「そうね。目につく物を襲い始める。所謂狂戦士」

「とりあえず暴れてる者は縛り上げて、水系得意な奴は火消しに回るか?」

「『おうよー』」

「まあ待て、たかが8人増えたところで変わらん。そうだな……ヒルデ」


それだけで何を求めているかを読み取ったヒルデはその場で祈りを捧げる。

その足元には虹色に輝く6メートル級の魔法陣が出現する。


「主よ、この地に平穏を与えたまえ……"セイクリッドシャワー"」


虹色に晴れてるにも関わらず、虹色に輝く光の雨が降り注ぐ。

《神聖魔法》の超級に位置する、超広範囲状態異常回復魔法。


「雨降らせるから、濡れたくなかったら建物に入った方が良いわよ?」

「『へっ?』」


街にいる全員の状態異常回復を確認したシュテルは天へと視線と片腕を向ける。


「雨よ……」


答えるかのようにすぐさま天を雲が覆い出す。今まで雲もない晴天だったにも関わらずだ。雲は太陽を隠し、だんだん黒くなっていく。


シュテルが何を司る神か思い出した勇者達は、キョロキョロしてそれなりの時間雨宿りできそうな店を探し、バタバタと走っていく。

別に濡れても多少困るぐらいだが、好き好んで濡れたいとは思わない。特に前衛組の鎧を着ている者達は手入れが面倒だ。


そして、バケツをひっくり返したかのような、局地的な豪雨が街を襲う。街だけという、本当に局地的である。街を覆う壁の外に雨は降っていないのだ。


その中を焦る事もなく、歩いて勇者達が避難した店へと入るシュテル達。


「スケールがでかいというか、なんというか」

「私にとって一番手っ取り早い方法を取っただけよ」


付いた汚れも落ちるし、火災も消えるから良いだろうと。

まあ、何人か家に開いた穴から雨が入ってるのを見て慌てる者がいるがご愛嬌だ。

致し方のない犠牲だよ。コラテラルコラテラル。


雨の中歩いたにも関わらず、当たり前のように濡れていないシュテル達に不毛な突っ込みはしない勇者達。天候操作すらして雨を降らす神様が、降ってきた雨に濡れないぐらい何だというのか。人間は慣れる生き物だ。慣れって恐ろしい。


「街に着いたは良いけど、ゆっくりできなさそうだよね? どうしようか」

「でもできる事ないぜー? むしろやることやった感ある」

「襲ってた悪魔倒したしねぇ……」

「回復とか無いし? 瓦礫の撤去ぐらいならできるかもしれんが……」

「まあ、雨止むまで休憩!」

「『だな!』」


軽食を頼みモグモグしている最中、ふと気になったことをシュテルに聞く清家。


「悪魔の素材って売れるの?」

「どうでしょうね。今の冒険者ギルドが価値を理解できるかじゃないかしら? 魔王の魔力から生まれるのが悪魔なのよね」

「前の魔王って370年ぐらい前だよね……超レア素材! 逆にさっさと売らないと値段が下がるね」

「そうね」

「下級悪魔だったし、売って分けようか」

「それでいいんじゃない?」

「じゃあ後で売りに行こう」


悪魔と戦闘直後なので休憩がてらゆっくり休み、火が消えたので雨を止ませ外へ出る。当然土砂降り直後なので地面がグチャグチャだ。その中歩きたいとも思わないので、足でカツンと叩く。

するとその位置から波紋が広がるように地面が乾き平らになっていく。雨降る前より綺麗に整備されていた。


さっきの雨のように、シュテルが自分の気に入らない部分を一番手っ取り早い方法で解決させただけである。


シュテルが外へ出る際、エリザとイザベル……護衛2人はシュテルに付き、侍女のヒルデが支払いを済ませる。フィーナは役職が無いのでシュテルに付いていく。

勇者達はお金を管理している者がパーティー分を支払う。

パーティーによって色々あるが、このパーティーはこれが基本である。



「あれ、地面がグチャグチャじゃない……」

「グチャグチャな地面なんて歩きたくないもの」

「左様ですか……」


最早呆れ顔の長嶺は放置して、宿とギルドに分かれようかと思ったところで……。


「ああ! いた!」

「いたぞぉ! いたぞぉ!」


どやどやどやどや。


男が大声を出すとぞろぞろと街の人達が集まってきて囲まれる。

何事だと身構える勇者達だが、直後周囲から感謝の言葉が大量に飛んでくるのである。拝んでいる者達もいるのが驚きだ。それだけ切羽詰ってたのだろう。

その中でも『聖女様』というワードが気になるところだ。だって、ヒルデに向かって言っているのだもの。


「私が聖女? いったい何の冗談ですか?」

「聖女だったら今も街中駆け回ってるでしょうね」

「全くです。私は侍女であって聖女ではありません」


実際に『聖女』を知っているのだ。

人々に聖女一行と言われる人物を知っているだけに、とてもじゃないが自分はああではないと知っている。もしここにいるのが自分ではなく、ジェシカかエブリンなら街中を回復して回っただろう。

しかし、自分はユニ様から離れる気など毛頭ない。どこが聖女だと言うのか。


「で、ですが! 我々のために祈り、不思議な雨を!」

「あの祈りは呪文の一種です。《回復魔法》は神々の奇跡の一片。しかし魔法でもある。呪文無しより呪文あり。呪文より祈りの方が効果が大きいというだけです」


詠唱とは、魔法陣に魔力を込めることである。

呪文とは、詠唱中に言うことでその魔法にボーナスを与えるもの。

ただし10番世界や勇者達は《神聖魔法》、4番世界では《回復魔法》と呼ばれる魔法において、呪文の時に祈った方が効果が高い。

それは『神々の奇跡の一片』を魔法にしたものが《神聖魔法》、《回復魔法》だからだ。例え『主』が目の前にいようが、それは変わらない。

勿論、ヒルデにとっての『主』とはシュテルの事である。


「《回復魔法》!? それは伝説の……!」

「伝説になるほど信仰心が足りないのね」


シュテル一行は勿論、勇者一行も『知っている』のだ。なぜこの世界で《回復魔法》が伝説と言われるようになったかを。

それはつまり、この一行からから向けられる目がやばい。

シュテル一行は完全に蔑み、勇者達からの目はジトンとしていた。


「一応勇者の1人ではありますが、聖女ではありませんので」

「こんなところに集まってる暇あったら復興作業でもしてなさい」

「じゃあ俺ら宿探しながら作業してくるから、ギルドの方よろしく!」

「私はギルドかなー。肉体労働したくないし」

「服が汚れるからギルドで」

「「服が汚れるって……すっかり女の子になったね、楓」」


ぷいっと顔を背ける清家であった。


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